2章 要件定義すべし
第27話 ゾームを見に行こう
辛い。冒険とは、こんなに辛いものなのか。
ヒロは思った。
今現在、湿地帯へ向かう道中である。
ヒロの他に、四人。合計五人。
こちらの世界では、冒険者の集団をチームと呼ばずにパーティーと呼ぶらしい。
昨日、五人パーティーで王都シュテールを旅立った。
昨日から歩き詰めだ。
パーティーメンバーはヒロ、ジュドー、メグ、マーテル。そして、サレナ。
前衛の戦士であるジュドー、後衛の魔導士であるメグ。
回復やサポート、アイテムによる攻撃を担当する道具使いマーテル。
彼らはヒロが初めてこの世界に転移した森で出会ったメンバーである。
そこに、調査スキルに長けたサレナを加えた五人パーティーだ。
サレナはいわゆるベリーショートの髪型で、ボーイッシュな印象の女性。
切れ長の目で、スラっとした手足の長い、モデル体型である。
彼女はレンジャーと呼ばれる職業で、魔物の足跡や風向きを見る魔法、遠くの音を聞き分ける特技などで情報を得て、商人の護衛として安全な陸路を見極めたり、トラップで魔物を討伐したりする。
ジュドーのなじみの冒険者であり、何度も一緒にパーティーを組んだ経験があるという。
さすがに、ヒロ以外の四人は冒険者と言うだけあって、旅慣れている。
か細い魔導士のメグですら、一日中歩いていても音を上げない。
だが、ヒロは昨日も一日中歩いたことで、疲労がたまってきていた。
「はぁ、はぁ…
ちょっとだけ、休ませてくれませんか…」
サレナがクールな表情で言う。
「今日は湿地帯へ日が昇っているうちに到着したいわ。
暗くなったら細かな調査が難しいから。
もう少し頑張って。
あなたがパーティーに加わりたいって言ったんでしょ?」
湿地帯へ向かっているのは、ゾームの調査のため。
ゾームを倒す兵器を作るには、ゾームがどんなモンスターであるかを知らなければならない。
ゾームを倒す兵器ってどういう機能が必要なの?という、プロジェクトで言う要件定義である。
ゾームが湿地帯のどこに潜んでいるか分からないが、その点はサレナの調査スキルで見つけ出す予定だ。
このパーティーにおいて完全にヒロはお荷物である。
実際、道中で弱いモンスターに襲われもしたが、ヒロは何もできずに逃げ回っていた。
とにかく、気配を消す靴やマント、モンスターから狙われにくくなる薬などをマーテルから借りて、安全性を確保しているのみ。
大魔法が好きな時に打てるわけではないヒロは、お荷物であることは自分自身でも認識していた。
だが、プロジェクトは初めが肝心である。
要件定義という言葉すら存在しないこの世界において、ゾームの調査を冒険者だけに任せるのは、ヒロとしては抵抗があった。
そのため、ヒロもパーティーに同伴したのだ。
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