第6話 大魔法

「メグの魔法で遠隔から攻撃した後、俺が切り込む。

 マーテルは、メグに魔力アップの薬を」


ジュドーがそう言った。

マーテルはアイテム消費のためか、返答に少し間が空いたが、キラーマンティス討伐の報酬と自分の中で折り合ったのか、分かりました、と答えた。

メグもうなずいた。


マーテルがメグに粉のようなものを振りかけた。

メグの体が薄く淡い光に包まれ、すぐに消えた。

メグが何やらぶつぶつ唱えた後で、杖を前に出した。


「ライトジャベリン!」


メグが魔法を放つ。

光輝く槍のようなものが3本、杖の前で宙に浮く。

次の瞬間、キラーマンティスへ意思を持つかのように一直線に飛んで行った。

その内の二本は大きな両腕の鎌で払い落とされ、ガラスが割れるような音とともに消滅した。

一本はキラーマンティスの腹にグサリと刺さった。

ジュドーが続いて、大きく屈んでモンスターの足元に走り込む。


華麗な剣術捌き。

キラーマンティスの大きな鎌を避けつつ、少しずつ固そうな装甲にダメージを与えていった。


廣田の想像以上に、この冒険者たちはすごい。

あんな化け物と、対等以上に渡り合っている。


メグが光の槍で続けて魔法攻撃をする最中、キラーマンティスの前でジュドーが剣を両手で握り、力を込めた。

剣の刀身が赤く輝く。

数秒後、ジュドーがキラーマンティスへ飛び掛かった。


「炎龍斬!」


赤く輝く剣で、ジュドーがモンスターを横なぎに切り裂く。

鉄が切断されるような甲高い音。

キラーマンティスの大きな鎌ごと、胴体と首を切り離した。


「よし、一丁上がりだ」


ジュドーが剣を下ろしつつ、言った。

廣田が声を上げた。


「おお、これで依頼は全て達成ですね!」


廣田は喜んだ。

自分の一言で三人の目的が合わさり、あんな強そうなモンスターを撃退したのだから。

命が助かったという安堵感もあった。

1つのプロジェクトを終えたときのような、高揚感があった。


「そうですね。さっさとキラーマンティスの鎌の一部でも持って街へ帰りま…」


マーテルは街へ帰ろうと言いかけた途中で、目を見開いた。


「キ、キラーマンティス!?まだ、こんなにも!?」


森の奥から、キラーマンティスがこちらに向かってきている。

十数匹の群れだ。


「ちょっと、私は逃げますよ!あんな数、このメンバーでもただじゃすまない!」


マーテルはキラーマンティスが来る方と逆へ、走り出した。


「くそっ、マーテルのやつ!メグ、やれるか?」


ジュドーは迎え撃つつもりのようだ。


「ちょっと、あの数はきついかも。

 強めの魔法を唱えるには時間がかかるから…。ジュドーが前衛で持ちこたえてくれれば、倒せるかもしれない」


「回復担当が逃げちまったのが痛いな…。

 全力でいこう!

 ヒロ、お前は…えっと、がんばって逃げろ!」


さすがに、守る余裕なんてないよね。

廣田はライニャスに襲われたときのような、絶望感を再び感じた。


だが、一方で先程チームをまとめたという高揚感や充実感が残っていた。

まぁ、最後にこんな気持ちを味わえたから、いいか。

そんな気もした。


と、その時。


「え?なんか光ってる…」


メグが廣田を見てつぶやいた。

確かに、言われてみるとなんだか眩しい。

廣田は自分の体を見た。体が金色に輝いていた。


「確かに…私、光ってますね…」


自分でもなぜか分からない。

だが、不思議な感覚だった。

やけに力が湧いてくる。

メグが言う。


「まさか、本当に大魔法を使えるの…?」


大魔法を使う時は金色に輝く、そうメグが言っていた。

とは言え、廣田は魔法のことなど知らない。

実際、ライニャスに対峙した時も出せなかったのだ。

なにせ、ただのプロジェクトマネジメントが得意なシステムエンジニアなのだから。


だが、感覚的に分かった。

魔法なのか分からないが、とてつもないエネルギーが湧き上がってきている。


手が熱い。

キラーマンティスの群れが目前に迫っていた。

ジュドーが迎え撃とうとしている。


「ジュドーさん、横に避けてください!」


廣田のその言葉を聞き、ジュドーがとっさに横に跳んだ。

廣田が手をモンスターの方へ向ける。

感覚的に、なぜかそうすれば魔法が使えると分かった。


大きな音とともに、手から金色の光線が放たれた。


ズッゴォォォォン!


ただのプロマネ。

ただの人間。

ただの一介のシステムエンジニア。


そんな彼が放った魔法は、モンスター共々見渡す限りを破壊し尽くした。


キラーマンティスの群れは、跡形もなく消え去った。

それどころか、森をえぐるように、一本の大きな大きな傷が大地に出来上がった。


ジュドーも、メグも唖然としている。


「なんか、出た…!?」


自分がとてつもないモンスターを倒した事実に、廣田は驚きの声を上げた。


こうして、廣田改め、プロジェクトマネージャー・ヒロの異世界生活が始まった。

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