第5話 チームの目的を合わせるべし

廣田は、メンバーの目的が合ってないプロジェクトに途中で入った時、廣田は苦労した経験がある。


ある企業の購買のITシステムを作り上げるプロジェクトだった。本来は購買の仕組みを効率化し、購買にかかる時間を短縮することが目的だ。

だが、システムを作ること自体が目的になり、システムが動けばいいじゃん、そこまでする必要ある?と言って便利な機能作成をサボろうとするメンバーや、費用を落とすことばかり考えるメンバーが足を引っ張り合っていた。


その際、廣田は途中参加のプロジェクトマネージャーとしてプロジェクト目的の明確化を行った。

顧客の要望を、費用内で可能な限り、実現する。


その目的のもと、顧客要望をリストアップしてメンバーに共有し、実現すべきシステム内容をチームで認識合わせをした。


何のために何をするのか。これがメンバーで合っていれば、個々の動きの整合性も合い、チーム内での軋轢は減る。


チームの動きが格段に良くなったことを覚えている。


ヒロはボソッとつぶやいた。


「プロジェクトマネジメントの極意。メンバーに目的を認識させる」


この冒険者たちは、三人で目的がずれている。


ジュドーは依頼を達成して人を助けること。

マーテルは依頼の報酬を、最小限の出費で得ること。

メグも、生活費のためということは報酬目的だろう。


このままでは、チームワークは弱く、キラーマンティスに相対した時に実力が発揮されないように思えた。何より、そんな中に放り出された廣田の命は危ないだろう。


廣田は、この冒険者たちの目的を統一することにした。


「この依頼、何を以てギルドから報酬が支払われるんでしょう?」


廣田がマーテルに尋ねた。

マーテルが苛つきながら答える。


「今、そんなことを話して何になるんです?」


「あなた達のお役に、きっと立てます。

 この状況、打開したくないですか?」


マーテルが廣田を睨めつけながら答えた。


「なんだかうっとおしい人ですね…。

 光の調査については、何らかの情報提供で報酬がもらえます。最低でも30万レ厶。

 キラーマンティスは討伐は一体につき30万レムです。体の一部を証拠として提示すれば金額上乗せです。」


話の流れからすると、レムというのは通貨の単位なのだろう。

廣田は答える。


「なるほど。

 今の時点では『私を発見した』という光の調査の報酬を貰えると。それ以外に報酬は無しということですよね?」


「まぁ、そういうことですね。」


廣田はマーテルに近づき、小声で話しかけた。


「先程、マーテルさんはキラーマンティスを倒したことにすれば良いっておっしゃいましたよね?

 それでも30万レム報酬は増えますが、ジュドーさんがそんな嘘を見逃すとは思えませんよね…」


「…確かに。あのキラーマンティスを倒して身体の一部を持って帰れば、報酬は60万レム以上になりますね…。

 キラーマンティスを倒したことにする、という選択肢がジュドーさんの正義感のせいでとれなさそうな今の状態では、それが報酬的にはベターです」


「でしょう?だから、ジュドーさんとメグさんと協力して、キラーマンティスを討伐しましょう!」


マーテルは少し悩み、答えた。


「…仕方ないですね。

 分かりました。良いでしょう」


廣田はメグの方を向き、話しかけた。


「メグさんも、生活費は多いほうがいいでしょ?」


「…ええ」


マーテル、そしてメグからキラーマンティス討伐に肯定的な答えが得られた。

廣田は心の中でガッツポーズをした。


「ジュドーさん、あのキラーマンティス、みんなで倒しましょう!」


私は戦わないけど。そんな言葉を心の中で続けた。


「よし、ならば、行くぞ!」


ジュドーが叫んだ。


うまくいった。廣田はそう思った。


三人の目的を、”キラーマンティスの討伐”に合わせたのだ。


元々ジュドーは依頼の達成自体が目的なので、キラーマンティスの討伐にやる気満々だ。


一方でマーテルとメグは、金が目的だったのでキラーマンティスを必ずしも倒さずに報酬を得る、という選択肢を持っていた。

そのままの状態では、キラーマンティス討伐に力を入れない可能性がある。


だが、報酬を得るにもキラーマンティス討伐が有利だと思わせれば、三人の目的は合致すると廣田は考えたのだ。


そして、その考えが功を奏したようだ。

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