×××××の夢

先生がいなくなる少し前

あなたは私に豚のぬいぐるみを与えてくれた

ベッドに置くと 私の傍にいてくれるようで

なんだかちょっとだけ心強い


キミはどこにいるのかな

キミみたいになれたらいいのに

私は眠ったままのキミを抱き

束の間の夢を見る


私は先生の特別になれたのかな

先生の孤独を満たせたのかな

キミは何も答えない


窓の外には檸檬色の月が浮かび

そよ風が吹き

暗闇を優しく照らしていた




オレンジ色の光が足下を照らし

私の眼で捉える無音の闇

灰色の壁は右に左に

どこまでも続く


翠の 茂る葉のような眼は先生とは違っていて

彼の眼は 人魚が住まう 

光届かぬ深海の底のようだったから


壁にある 鏡の中にいる影のような人々は

私のことを見てはいない

何を話しているのかは聞こえない

たった一人だけ 何処かを指差し

私はその方向へ向かっていった


そのうち私は 一枚の扉の前にたどり着いた

開けると そこにあるのは一つの「虚無」

豪華な装飾が施された柵の向こうには

大きな闇が広がっていて


落ちてしまったら

私は溶けてなくなっていくのだろうか

それとも……?


螺旋階段の向こう側

鎖に繋がれ ひとりで眠る獣がいる


私は彼に逢いにいく為

闇の階段を どこまでもどこまでも降りていく

無限大という言葉が似合うこの階段は

まるで たった一人を閉じ込める牢のよう


果てしなく思えた螺旋を下り終えると

其処に見えたは 紅の獣


私はそっと彼に寄り添い

優しく囁いた


「ねえ先生 あなたが世界中から憎まれても 嫌われても 私は 私だけは

あなたを愛してあげますから」


彼はそっと目を閉じた




たった一人 沈みゆくお前を見つめている者がいる


紅黒い汚水の中

白黒写真に写った幼い頃にそっくりなドレスを着て

躰中に包帯を巻いた 小さなお前を

俺は掬うことができない


また喪うのか また一つ紲を

俺は喪っちまうのか


たった一人のお前を

もう二度と 抱きしめてやることは

叶わないのか


いつの間にか

両眼が熱を帯び

眼からは透明な雫が滴り落ちた




昏く 錆びついた燈台の中

俺はお前に逢いに行く


使いものにならない

古ぼけた昇降機を使って

眠り続けるお前に贈りものをしに行った


重い鉄の扉を開けると其処には

点滴を受けながら眠るお前の姿があった

暗闇の中 白いシーツと枕は何処か透明にも見えて


俺はたった一人で眠るお前が寂しくないように

鮫と恐竜のぬいぐるみを持って行った

四畳半くらいの狭い部屋

今日もお前は眠り続けたまま

澄んだ水のような髪は

水底で揺蕩っていたかのようにして広がっていた


俺はお前の傍に座り

そっと髪を撫でてやる

お前を抱きしめながら

俺はその夜 独りで泣いていた

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