×××××××××

誰もが望んでいたものは

私の手に渡った途端に

砕けてしまった


皆 妬ましく想うのだろう

欲望は尽きず

焔は熾り続ける


その下で何人飢えていようとも

妬みのもとに

手に入れたモノは

直ぐに壊れてしまう


(誰カガ何処カデ泣イテイタ。トテモ小サナソノ手ヲ取リ、俺ハ……)





眠りについた心の在処

荊の下か?

鎖の中か?

それとも翼を持つ者ならば

妖しく澄んだ

眼の中か?







その腕は時に弱き者を屠る刃となり

その腕は時に愛する者を護る盾となる


鴉は騎士とは遠く

その生き様は龍の如し


(龍ハ正義ノ刃ニ屠ラレ、暁ニ斃レタ。愚者ハ知ラヌ。龍ガ生クル意味ヲ)


地の底を這い蹲う鴉の腕は

紅で染まる

宵闇ですら消せない程に

黒は紅へと塗り変わる



翼の下に隠した古傷には

ほんの少しの優しさが潜む

その奥には昏く醜い影

眼を閉じることは容易くとも

蠢く影から逃れられる筈もない




(愛ナド知ラナイ方ガ良カッタ) 



私は鴉に問う

「例えその身が煉獄に堕ちようと、お前は太陽に叛き続けるのか」

「嘗て屠ってきた羊達に飽き足らず、未だに飢え続けているのか」



鴉は答えず

哀しげな眼を向ける


(業火ハ今モ俺ノ躰ヲ苛ミ続ケテイル。モシ、逃レルコトガ出来タナラ……?)



何れはその身も

崩れ去るのだろう

それまでお前は

慰みの唄でも唄うつもりなのか













紅い紅い水の中

貴方が沈み込んでいったなら

その咎は赦されるのか


水面に浮かぶ羽根ひとつ

貴方がここに居た証にはなるけれど

貴方が誰かを愛した証は何処にもない



暁は鴉を包み込む

眠りについたその貌から

涙が零れ落ちたこと

誰一人として知らずに

彼の身は空蝉として

その生を終えた



天よ

十界の輪廻よ

願わくば 憐れな鴉の魂を

空蝉となったその身を

慈悲で包み込んで欲しい



(首ヲ吊ル者、溺レタ者。眠ルヨウニ死シタ者。誰シモガ輪廻ノ輪ヘト還リツク。俺ハ未ダニ煉獄ノ焔デ灼カレテイル。全テガ虚無ニ。意味ナド無ク、這イ上ルコトモ赦サレズ、只永ラエルノミ)







(紅イ海ハ歓喜ニ包マレ、霊達ハ宵闇ヘト舞ヲ捧グ)





(月スラモ俺ヲ見放シタ。永イ夜ガ始マリ、俺ハマタ独リニナッタ。眠リノ中ニ居レバドンナニ心地良イダロウカ)








(焦ガレル想イハ燻リ続ケ、飢エトナッテ現レル。幾度喰ラオウトモ、虚ナル此ノ身ハ虚ノ儘)









(吐キ出ス痛ミニ耐エ続ケ、俺ガ手ニシタモノハ何ダッタノダロウカ)




(蛻ヲ見ツメルノハ誰ダ?)

(蛻ヲ憐レムノハ誰ダ?)

(蛻ヲ抱キ、撫デタノハ誰ダ……?)





暁は生ける者も

燈を消した者も

等しく照らす





今は只

斃れた鴉へ

餞をくれてやろう









(生者ノ驕リガ俺ヲ苦シメル……)


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