追憶のピース 別編
わたしの小さな掌に
紫色の飴玉一つ
毒のような 気高い色のソレを噛み砕き
低い声で呟いた
躰が求めているのは 小さな飴玉一つだけ
何度食らっても見つからず
求め 喰らいつくしたその果てに
全て吐き戻したのだとしても
血を吐き 朧な足取りで手を伸ばす
それが幻だとしても
それは遠い遠いだれかの記憶
沢山の数式と 音楽に彩られた御伽噺
紅い本の中から覗く世界
寝物語にどうかしら
記された文字達が奏でる量子の世界
染まりゆく紅い路
柔らかな空の光 舞い落ちる黒い羽根
楽譜も何もないけれど
哀しみ 悦び 安らぎ 絶望 孤独
全てを感じ取れる
紡がれたのは一本の柔らかな糸
美しい物語の歯車は数式となって
わたしの眼へと飛び込んできた
箱庭の中
白い羽根が舞い落ちる
少女はそれに気づかずに
刻告げの鴉と手を繋いだまま
永く暗い冬は終わりを迎え
もう少しで安らぎの春が来る
その時あなたは何を想うの?
どこまでも続くゼロの道
その薄紅色の瞳に映るは世界の全て
壊されるのは翠の瞳
かつての夢想は 散り 還り
数多のモノたちが産み堕とされた
闇の奥から蠢き 這い出るモノ達は
あなたが愛した傀儡で
皆が皆 紅の狂気を宿していた
その腕に抱くは愛しき姫か
鉄の剣か 答えは未だ量子の海に
沈みゆく真実は底へ誘い
霊すらも剥ぎ落とす
編み込まれた鎖の先
其処に始はなく
永久に続いてゆく 死の輪廻
首から下げる錠前などに何の意味があろうか
正義の剣を向けられたのだとしても
彼の者の罪が消えることはなく
滅び 黄昏ていく大地に
終焉を齎し 見届けるのは誰?
鏡のように
蛋白石のように
髪は眩くも 優しく煌めき
その瞳は 乙女の血のように甘く
嘗て地を支配し 踊り狂った死のように昏く
指に刻まれた一筋の紅い糸
白き乙女のソレを舌でなぞる
揺らめく蝋燭の燈は
紅をより一層際立たせ
彼女を終わらない狂気へと
突き動かしてゆく
もしも それが救いなのだとして
彼女の瞳は澱むのか?
心地良い宵闇に沈みゆく彼女の魂は
掬われるのか?
虚なその身だけがここにあろうと
私は 彼女だけを求め続ける
孤独に苛まれた私には
貴女が どんな穢れも澱みも包み込んでくれる聖母のようで 温かなその身には ほんの少しの狂気を宿していた
貴女に抱かれた夜 心地良い安らぎの中へと沈んだことを今でもよく覚えている
戻れない程深い泥濘の底へと沈んだ時
私は悟る
貴女という柵を断ち 切り裂く為
喉元に刃を向け
私は知る
こんなにも愛おしい貴女を殺めた私は
虚になって
尚も生き永らえているのだ
嗤い 泣き 狂いながら
記憶の片隅に残った貴女を
求めながら
未だに 追うことが出来ずに
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