夢色ステンドグラスⅠ

魔法使いは夢を見る

冷たく暗い石の城

空は紺に 地は橙に

冷たい空に星はなく

温かな光の中 眠る


魔法使いは夢を見た

冷たい部屋で眠る夢

ひとり 人形を愛でる夢

誰もいない城の中

魔法使いが沈むのは

狂気と幸せ 陶酔の

心地よい夢の中


タマゴのように籠りきり

幸せ噛み締め

棺の中へ


ナースは言った

「どうしてここへ?」


私は答えた

「欠けたものを探しに」


ナースは尋ねた

「あなたが探すモノは何?」


私は答える

「それは分からない」


ナースは囁く

「あなたは探してなんかない、求めているのでしょう?」


耳をくすぐる声は幼くも 私を淵へと誘った


そこが底無しの沼だろうと

望んだモノが得られるならば

私は快くこの身を委ねよう


鏡の中には何がある?

あるのは一つの椅子と箱

箱の中は空っぽで

夢の一つも入っていない


鏡の中には誰がいる?

いるのは冷たい目をした

人形だけ

沢山のプレゼントに囲まれて

綺麗な服着て座ってる


鏡の中には何もないし誰もいない


風の音だけが部屋の中に聞こえて来る


昔もらったオルゴール

綺麗な音楽聴かせてくれる

パパからの誕生日プレゼント


懐中時計のオルゴール

ネジを巻いたら

私を幻の世界へ誘いてくれる

夢の世界へ溺れさせて

何もかも忘れさせるほどに


私の中のオルゴール

いつも私と共に在る

辛い時や悲しい時は

暗い音楽で慰めてくれる


いつもは時間を刻んでる

私の中のオルゴール


剣は刻む 咎人の首を

その刃で幾人もの首を刎ねてきた

無慈悲に 平等に


剣は刻む 無数の本を

語られなかった物語

牢屋で書かれた物語

全て等しく無に還す


剣は刻む 刃が錆びつこうとも

淡々と 情もなく

血を吸いながら 今日もまた刻み続ける

刃が折れるその日まで


紅い瞳はルビーの瞳

暗闇の中で 怪しく光る


紅い瞳はルビーの瞳

血の色にして 生命の色


紅い瞳はルビーの瞳

虚空に浮かぶは紅い月


紅い瞳はルビーの瞳

白いウサギが持っている


夜は私達の時間

私は眠らず

明け方まで躍る

星達とともに

紅い月に見守られながら


空にきらりと流れ星

夜の荒野に祈りを捧げ

小さな花を摘んでやる


墓の文字は掠れて読めず

けれども誰の墓なのか

私にはわかる


明け方 花を供えつつ

眩しさに目をこすり

私は眠る


花は朝日を浴びて

優しい山吹色に

輝いていた



白が黒にひっくり返り

黒は白に帰結する


色ガラスは砕かれ

窓には蒼が戻る


ビー玉は転がり

色水が流れる

絵の具の色で 染められた水は

きらきらと光り

七色の虹を描いていった


黒は白と混じり合い

白は黒に染められて

どちらでもない色に流転した



眠り姫は薔薇の香りと共に眠る


私は血と錆に塗れたまま

涙で枕を濡らしながら

過去を想う


もしも私が逝けるなら

リコリスの花畑で見送って欲しい

毒の花に包まれて眠りたいから


けれど私は眠れない

錆びた鎖に繋がれて

脚を喪いつつも

求める者がいるのだから


私の名前は 雪の色

枯れることなく 溶けていく

紅く染まれば戻れないのに

私の心臓は 未だ

過去に縫いつけられたまま

それでも生き永らえている


一人また一人と

誰かを傷つけたこの手で

小さき者を抱きしめながら

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