第124話 魔王ベル(その2)

 マリーがまだ10歳になった頃だった。マリーの住んでいた集落では10歳になれば魔法使いになるための学校へと通うことができそこでは数々の魔法の知識とそれに対する対策法を学んだりするのだ。


 魔法学校は使われなくなった城を再利用しており中世ヨーロッパのように敷地内は石畳が敷かれていた。


 「ここが魔法学校か……試験の内容はどんなことをするんだろう?」


 幼いマリーは夢と希望、不安を感じながらも城門を潜り試験会場へと足を踏み入れる。試験会場には100名ほどの人数の受験生がいて合格できる人数は40名と日本の学校の一クラスの平均定員数であった。


 魔法学校は5年制で一学年につき5クラスあり魔力、魔法属性の適正、等の技量によってクラスを分けられる。


 「それではあなた達の魔力の適正と実技試験を行わせてもらいます」


 試験官の女性は受験生に試験内容を説明し受験生達は「いよいよか!」とざわつき今までに培った実力を発揮せんとしている。


 最初は水晶玉の形をした魔力計測器で魔力と属性魔法の適正を調べ、受験生達は次々と魔力計測器に手をかざす。


 「俺の魔力量は500かぁ……凄いのかどうか分からないや……」


 「魔力量500、魔法使いとしては平均ね」


 男子はそう言いながらどのぐらい凄いのか疑問に思っていると試験官が平均値であることを伝えると男子は肩を竦めしょんぼりとしていた。マリーは一番最後に魔力計測をし手をかざすと計測器が虹色に輝き、虹色の閃光が試験会場を包んでいた。


 すると計測器には【魔力量】測定不能、【適正魔法】全属性と書かれており会場にいた試験官全員の目が輝き始める。


 マリーが手をどかしたと同時に計測器が粉々に砕け散り辺りは大騒ぎとなっていた。


 「信じられない……魔力計測器が壊れるほどの魔力量を持ったものが現れるなんて前代未聞だぞ!」


 「これは凄い魔法使いになれる!」


 周囲からは期待され、マリー自身も希望に満ち溢れていたのだがマリーにも欠点はあった。


 マリーは魔力量は魔力計測器が粉々に破壊できるほどの魔力量と全属性魔法適正こそあるものの魔法を発動する技量があまりにも未熟であるため一番低ランクのクラスに配属されることになっていた。


 低クラスの授業内容は初歩的な魔力コントロールからであり詠唱し魔法陣を出現させそこから魔法を発動するのだがそこからが難しくてマリーは強大な魔力量故に発動が失敗し、膨大に膨れ上がった魔力が暴発しボカン!と爆発しマリーの頭髪はアフロ頭になっていた。


 それを見たクラスメイト達から「あはははははは!マリー魔力量が多く全属性適正があるのに魔法が使えないとかマジであり得ねえんだけど!」と笑いの種にされてしまいマリーはそれでもニコニコとしながらも何度も挑戦するのだが失敗続きだ。


 「はぁ~~~~っ、やっぱりあたしって魔法の才能ないのかな?」


 マリーは自室のベッドで両手を伸ばし溜め息を吐きながらそんなことを呟く。


 魔法学校は全寮制で一部屋に二人とルームメイトがいるのだがマリーのルームメイトは「全属性適正があるだけ凄いじゃない……私なんて闇属性魔法しか適正が無いってのに……」とマリーを励ますのだがマリーは溜め息を吐くのを辞めなかった。


 マリーは休み時間になると校内にある図書館へと駆け寄り魔法の書を沢山読み漁りどうにかして魔法を上手く発動させられるようにと努力をしていた。


 「本は好きかね?」


 偉大なる魔法使いのような風貌をしていた白髭にとんがり帽子、ローブを着ている初老の男性がマリーに優しく声をかけていた。


 「マーリン先生……先生も本を読みに来たのですか?」


 マーリンはマリーのクラスの担当教官でもあり他の教官達からはかなりの人望を持たれマリーもマーリンのことを尊敬していた。そして何故マーリンが低クラスの生徒達を受け持っているのか生徒と教官達は疑問に感じており理解できずにいた。


 「わしはの、魔法とは違い未来を予知することがでいるのじゃよ。マリーよ、今からわしがお前に予言をする。お前さんは世界中の誰よりも凄い魔法使いになれる。このわしよりもな」


 「でも先生、今のあたしなんて魔法を発動すら碌にできないんですよ……」


 マリーはマーリンの予言を聞き否定し顔を俯かせる。


 「お前さんは未来よりも今現在起こっている目先のことばかり考えているからそういう風に思ってしまうのじゃろうがわしの予言はほぼ的中するぞ?それにわしだってお前さんぐらいの歳の頃は魔力は人より多かったのに魔法が上手く発動できずに笑われていたものじゃよ。お前さんを見ていると昔のことを昨日のように思い出したよ」


 マーリンは若い頃を回想しながらマリーに聞かせ、マリーは尊敬する教官の話をわくわくとしながらマーリンの過去の話を聞いていた。


 それからというもマリーは休み時間に図書館へ行くのを楽しみにしておりマーリンはマリーに魔法以外にもあらゆる知識を教え、マリーは寮へと戻り予習していた。

 

 マーリンから教わったものには最初は全く読めなかった文字であったがマーリンの指導もあってか10日でマスターしたのだ。

 

 月日は流れマリーは15歳になった。


 相変わらずマリーは図書館で魔法の書を読みそこにはマーリンもいた。マリーは10歳の頃よりも大人びた容姿となり今では学年トップにまで上り詰め誰もマリーのことを笑うものはおらずファンレターを大量に受け取るほどであった。


 図書館は基本誰も寄らないためマリーにとっては心のオアシスであった。その心のオアシスにはマリーとマーリンが互いに一緒の本を読んではマーリンによく相談していたのだ。


 「先生、先生のおかげであたしは今先生の言うように魔法をちゃんと発動することができるようになりました」


 「わしは何もしとらんよ、お前さんの努力が実っただけじゃよ……」


 マリーはマーリンの感謝の言葉を述べているがマーリンはどこかしらマリーの成長を喜べずにいた。


 「マリーよ、今から言うことを真剣に聞いてくれないかの?わしは最近ある未来を見た。そしてお前さんはこの5年間で確かに成長した、今のお前さんなら魔王ですら量ができる強さすら持っているであろう……これから卒業に向けてカリキュラムはハードになるが……もう一度言うぞ、マリー……このままここで魔法を学び卒業する道を選ぶならお前さんの死の運命からは逃れられん……ここで辞めるなら今じゃ!辞めればお前さんにも新しい道が待っている……」


 マーリンはマリーに死の予言をし魔法以外の道を歩むように勧めるのだがマリーはそれを断固として拒否した。


 「マーリン先生、あたしはどのようにして死ぬのですか?私の死はいつどこで訪れるのですか?」


 マリーは真剣な眼差しでマーリンに懇願するように尋ねる。


 「知ってどうするのじゃ?」


 「あたしは知りたいのです!先生の言う未来を知ることによって何か役立てることができるんじゃないかと考えたらその未来を頬っておくわけにはいかないんです!」


 「そこまでの覚悟があるのなら教えよう……お前さんの未来を」


 マーリンはマリーに今後マリーに起こる出来事を悲しい瞳をしながら、涙を呑むような表情で伝えるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る