第123話 魔王ベル(その1)

 闇属性魔法『ディファレントボム』により大きく抉れた地面の方へとリサは地面を強く蹴り上げながら駆け付け、ジョセフがいたであろう場所でリサは必死にジョセフを探すのだがジョセフの姿は何処にも見当たらなかった。


 「ワトソン家の王女よ、ジョセフは死んだ」


 ベルは涼しげな声でリサに告げる。すると漫画やアニメのようにジョセフが被っていた中折れのハットが羽のように舞いリサの足元に優しく落ちていった。リサは膝間突きジョセフの中折れハットを拾いそれをギュッと抱き締め甲高く割れた声で悲鳴を上げた。


 「そっ、そんな……嫌あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 リサの悲鳴は迷宮に響き渡りジンジャーと佐藤夏樹は歯を食いしばりながら涙を流し「泣くな!泣いていいのは便所の中か自分の部屋だけだ!」と自己暗示をし涙を強引に止めようとするも拭っても拭っても涙が止まることはなかった。


 「ベルぅっ!てめえの髪の毛、否っ!細胞一つこの世には残さねえ!」


 佐藤夏樹はベルを睥睨し、怒りを露わにし殺意剥き出しで高速歯軋りを鳴らし喚いた。


 「細胞一つ残さないだと?面白いことを言うなこの日本人は。まあ、いいだろう。ワトソンの王女はどの道最後に殺すのだからな……」


 ベルはゲラゲラと笑いながら自分の腹を抑える。


 「うるせぇ!『身体強化』!『ハイスピード』!」


 佐藤夏樹は瞬発的に身体能力を増幅させ渾身の一撃でジョセフが所持していたリサがジョセフから預かっていた陸奥守吉行を取り上げるように右手に握り目一杯振り上げるもベルには佐藤夏樹の攻撃パターンが手に取るようにわかっていたようで全く歯が立たなかった。


 「無属性魔法を駆使しているつもりではあろうが身体しんたいスペックに関してはジョセフの方が


 ベルは左拳でみぞおちを狙いそのまま息を詰まらせながら地面へと叩きつけられ砂埃が激しく舞っていた。


 「ゴホッ、ゴホッ!」


 佐藤夏樹は必死に咳ばらいをし呼吸を整え体を起こし口をジャージの袖で軽く拭く。


 「無属性魔法が使えていなかったら確実に死んでいたな……ちくしょう、ジョセフが勝てなかったていうのに俺に勝算があるわけねえじゃねえかよ……」


 「全く、ジョセフと言い佐藤夏樹は何であんな敵に一人で立ち向かおうとするの?怖くはないの?私なんか足が竦んで身動き一つとれないっていうのに……リサだってジョセフのことで…………」


 「ジンジャーちゃん、怖いのはみんな一緒よ。誠君の仲間のトキちゃんとレイラちゃんだって怖いのよ」


 「でも、マリーは全然平気そうじゃない!どうしたらあなたのような強さを身に付けることができるの?ジョセフに出会ってから私の周りには信じられない超常現象が沢山起こりすぎて人間としての感覚が麻痺して疑問に思う暇さえなかったけど一番の謎はマリー、あなたよ!佐藤夏樹をこの世界に召喚したとか分からないこと言い出したし……」


 ジンジャーはジョセフと出会ってからの出来事を部屋の掃除をするかのように纏めつつマリーに語る。


 「ジンジャーちゃん、あたし達が今やらなきゃいけないことは?」


 「……そのつもりよ!ベルを倒して魔人族の襲撃を止めること!」


 ジンジャーはマリーの質問に躊躇いなく自信のある声で答える。


 「分かったわ!ジンジャーちゃんもすでに覚悟は決まっているみたいだからね!少しだけあたしの過去を話すわ!」


 マリーはそう言いながらベルに気付かれない場所までリサ、トキ、レイラを連れて全ての過去を話した。


 に纏わる過去を。

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