第120話 魔人族の復讐(その5)

 「なんて凄まじいんだ、今までのジョセフからは感じられない覇気を感じる……」


 ジンジャーはあまりの変貌ぶりに驚きを隠せずに動揺しておりリサ達もその光景を見て驚いていた。


 「おいおい、ジョセフの奴昔のマンガのキャラみたいに服破けてるぞ!」


 「いやいや、今はそんなこと言っている場合じゃないと思うけど……」


 「うるせえハーレム野郎!」


 誠が佐藤夏樹にツッコミを入れ佐藤夏樹は理不尽に誠に逆ギレをする。


 「あんた達、それよりもジョセフの心配をしていた方がいいわよ!」


 ジンジャーは二人に注意をすると佐藤夏樹と誠はビシッと背を伸ばし気を付けをする。


 「ほう、俺の攻撃を受けて動けないかと思っていたらまだ力が残っていたのか……」


 チュデルは不敵な笑みを浮かべてはいるのとは裏腹に声はかなり震えていた。


 「そういうお前は立っているのがやっとに見えるがな?」


 ジョセフは口に咥えていた煙草を吸いながらバキッボキッと指を鳴らしチュデルを煽る。


 「ならば俺の本気をお前にぶつけるとしよう」


 チュデルは身体をフラつかせながらも自分の持てる力全部を振り切ろうと「うおおおおおおお!」と唸り声をあげる。


 唸り声を上げながら再度急接近したチュデルは連続で火属性魔法『ファイヤースピア』闇属性魔法『シャドウキャノン』をジョセフ目掛けて打ち込むがその軌道全てがスローモーションに見えてしまい欠伸が出そうになるのを堪えながらジョセフは軽々と躱す。


 「そんな、ありえない……」


 チュデルは語彙力を失いかけるも希望を持ち続けながらも魔法を発動するのを辞めない。


 「もう辞めておけ、これ以上魔法を打ち続ければお前は確実に死ぬぞ!」


 「言ったはずだ!俺はお前を必ず殺すと!」


 血反吐を吐きながらもジョセフの警告を無視し魔法の発動を辞める気配を一切見せなかった。


 「ウリウリウリウリウリウリウリウリウリィヤァァァァァァァァァ!」


 ジョセフは某有名な「オラオラ」や「あたたた」のような声を出して『スパーク』を両拳に集中し最小出力で連続で打ち込む。


 ドドドドっとサンドバックを抉るような轟音が鳴り響きチュデルはボディを打ち込まれ勢い良く吹き飛びそのまま地面へと倒れ込み砂埃が舞い上がる。


 「何でだ、お前の攻撃は一瞬だけ痛みが感じたのにその後は全然大したことはないのに体が……」


 「暫くお前の身体は麻痺して動くことはできない、死ね!」


 ジョセフは『スパーク』を纏わせた左拳を振りかざし完全に息の根を止めようと振り下ろそうとした。


 「母さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」


 「ジョセフ様、ダメぇっ!」


 チュデルは目一杯振り絞った声で母親のことを思い出しながら絶叫した。


 ジョセフはリサの懇願もあってかチュデルの顔面直前で振り下ろした左拳をスッと寸止めをする。


 「何故だ!その気になれば俺を殺せたはずだ……」


 チュデルは枯れた声で拳を止めたジョセフに苦言をていする。


 「お前は人間である母のことを叫んだ、その意味を考えればお前は他に生きる方法を探すべきなのではないのか?復讐とかにも?」


 「だと?お前、ふざけているのか!?俺は魔人族でお前は人間、ここで俺を生かせばお前をいつか殺しに来るかもしれないんだぞ?怖くはないのか?」


 「正直なところ俺にも分からない。死への恐怖というのはゴブリンに殺されかけたり魔法の使い過ぎで瀕死になったりと死の境地に陥ったことなんて何度もあるからな」


 そのくらいジョセフにとって死というものへの価値観が狂ってしまい死への恐怖を感じないジョセフを見たチュデルは唖然としながら地面に横たわっていた。


 「お前はベル様に似ているようで何か違う……あのお方は負のオーラを感じるのに大したお前には負のオーラだけではなく人としての暖かささえ感じる。お前はどのように生きていたらそのようになったんだ?」


 チュデルは吐血しながらボロボロになった身体を気にせずジョセフに尋ねる。


 「愛だ……人類に絶望していた時にリサやアイリス、ジンジャー、テレサ達と出会い本当の愛を知ったからこそ今の俺がいる」


 ジョセフは口に煙草を咥えながらチュデルの質問に安直に答える。


 「そんな単純なものなのか?本当の愛を知っただけでそこまで強くなれるはずがない!愛故に悲しみ苦しむことがあるっていうのにお前はそれでも愛を信じるというのか?」


 チュデルはジョセフが強くなったのが愛を知ったからであることを信じられない様子でそれを口に出して喚き声を上げる。


 「シンプルな答えではあるがそれが事実である以上それ以外に何が言える?」


 「そうか?ならばこの先には今まで以上に強い魔物が現れるはずだ……ジョセフ、もしかしたらお前なら本当の意味で救世主になれるのかもしれないな。人間族にとっても魔人族にとっても……」


 チュデルはそう言いながら次の階層へと向かうように促し、ジョセフは手持ちの回復薬の入っている瓶をチュデルに向かってポイっと投げ捨てそのまま次の階層へと向かうべく無言で走り去る。


 投げ捨てられた回復薬は地面にコロコロと転がりながらチュデルの右耳に当たりチュデルは右手で回復薬を拾い蓋を開け飲み干す。


 「ジョセフとかいう奴、とても変わっているな……」


 そんなことを呟きながらチュデルは両手を伸ばし薄暗い迷宮の天井を眺めていた。

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