第119話 魔人族の復讐(その4)

 ジョセフは着ていた革ジャンを脱ぎ、陸奥守吉行と龍王丸と一緒にリサに渡した。


 「ジョセフ様、どうして刀を使わないんですか?」


 リサは丸腰で戦おうとするジョセフに疑問を抱き尋ねる。


 「陸奥守吉行は経年劣化していて碌にメンテナンスもされてないうえに龍王丸に関してはなんとなくリサに持っていてほしかっただけだよ。革ジャンに関してはこれ一着しかないからだよ」


 ジョセフは流石にライダースの革ジャンを量産できる技術力がこの世界にあるとは思っていなかった為である。革ジャンそのものは生産できてもファスナー部分を作成できる技術が備わっていないだろうから同じものを量産できないのを想定するなら戦闘する際は脱いでいた方がいいと思ったからだ。


 革ジャンを脱いだからといって煙草を吸うのを辞めたのかと言われればそうではなく寧ろ吸う量は増えていく一方で3本目に突入していた。煙草を吸うというのは肺癌になりやすい確率が高く肺がニコチン成分により汚れてしまうのだが煙草を吸っているのと同時に『浄化』を体内で発動して体内を綺麗にしているためその心配はない。


 体内を綺麗にしているということは体内に潜んでいるウィルスや癌細胞すらも綺麗にしているため永遠に病気になる心配はなくなったということだ。


 「つかジョセフ、お前俺と同じ年齢なのに煙草って不良かよ!」


 佐藤夏樹は煙草を咥えているジョセフを見てそれを指摘する。


 「緊張感を緩めるのと野生の感覚を研ぎ澄ませるには煙草で集中力を高めたいんだよ」


 ジョセフはいわゆる80年代の某週刊少年誌のバトル漫画の主人公達に憧れを抱いていたためそれが当たり前だと思っていた。


 「そうじゃなくてなんて流石に中高生の見本としてはよくねえだろ!それにお前この物語の主人公だし……」


 佐藤夏樹はジョセフに対してツッコミを続ける。


 ジョセフと佐藤夏樹のやり取りを見て苛立ちを感じていたチュデルは癇癪を起す。


 「いつまで戯れ言を言っているんだお前達は!特にそのジョセフとかいうお前!」


 チュデルはジョセフの方を指さし早く戦うぞと急かし始める。


 「そうだったな……」


 ジョセフは革ジャンを脱いだ分動きも軽やかに世紀末で救世主になった漫画の主人公のように図太い筋肉質な腕が露出しておりチュデルはそれを見た瞬間かなり動揺をしていた。


 「貴様、ジャケットを着用していたからなのか分からなかったがお前は歴戦の勇者なのかと言いたくなるほどに逞しい身体つきをしているのだな……」


 声を震わせながら足元はガクブル状態であった。


 「どうした?言いたいことはそれだけか?」


 ジョセフは低く唸るような声でチュデルを煽ると、「うるせえ!父と死んでいった仲間の仇は必ず取ると決めたんだ!」


 チュデルは跳躍しながら急接近し両手に握っている魔剣風の剣を目一杯振り上げる。振り上げた剣からは紫色のオーラを纏わせており禍々しい空気が一気に蔓延しジンジャー達は攻撃することに躊躇いすら感じ始める。


 「ジョセフよ、この魔剣アングリィブレードに集中したこの感情エネルギーはお前の魔力量では防ぎきれまい!ここがお前の墓場だ、死ねえ!」


 チュデルのアングリィブレードに纏っている紫色の感情エネルギーは更に倍増し高出力ビームソードのように刀身が大きくなりその大きさは2~3メートルは軽く凌駕していた。


 リサはチュデルが剣を振り下ろしたと同時にジョセフの名前をノイズ交じりに叫んだ!


 「ジョセフ様!」


 「ウリィヤアァァァァァァ!」


 ジョセフは両手から紫色の電流をバチバチと纏わせ『パープルサンダー』を両掌から放出した。


 その姿はまさに某バトル漫画の必殺技を放つ主人公のポーズに似ていた。そう、子供達が練習していたあの技のポーズだ。ジョセフも幼い頃よく幼馴染と練習したが歳を重ねるごとに無理だと気づき辞めていたのだ。


 ジョセフは体が慣れてきたからなのか『パープルサンダー』を使用しても不思議なことに倦怠感も吐血をする気配すら感じない。


 『パープルサンダー』とチュデルの魔剣の剣撃が衝突しお互いの攻撃が激しくぶつかりあっていたからなのか風圧が生じ迷宮内にもかなりの轟音が響き渡り周辺はミシミシと軋みマリーの魔法により光属性上級魔法『ホーリーウォール』で防壁を築き被害を最小限に抑える。


 「みんな大丈夫?」


 マリーは後ろにいたジンジャー達に声をかけ「大丈夫」と答える。


 「何!俺の攻撃を受けきっている?しかも俺と同等の威力とは本当にお前は人間なのか?」


 「……だから人間と言っているだろ?お前こそ敵討ちをしているとは思えないくらい攻撃に殺気を感じなかったがな」


 一瞬、チュデルはジョセフの発した言葉に「うっ!」と動揺し剣撃の威力が軽くなった。


 そうだ、チュデルの攻撃は確かにズシリと重さを感じていたのだが本気で殺しに来たものの攻撃とは思えないほどに貧弱で寧ろチュデルの母親を失った哀しみの方が強く感じた。


 「……やっぱりな、お前は戦士になりきれていない。そして人間殺したことないだろ?」


 「うるさいうるさい!お前に何が分かる!俺は魔人族だぞ!お前如き人間なんかを殺すことに躊躇いなんか……」


 どうやら図星のようでチュデルは更に感情的になり感情エネルギーを高めようとしていたのだが時すでに遅し、ジョセフの『パープルサンダー』が完全に押し出し紫色の閃光を激しく浴びながら「グワーッ!」と悲鳴を上げていた。


 魔剣アングリィブレードは感情エネルギーと『パープルサンダー』の衝撃に耐えきれずへし折れてしまいゲームでよくあるガラス塊を砕くような音が響き微細な欠片となり灰のように散っていた。


 チュデルは『パープルサンダー』の電流の混ざった紫の光を浴びて全身ボロボロになり装備していた鎧は半壊しており皮膚は所々火傷しており傷口からは血がポタポタと雫になり地面に落ちていた。


 「どうした?お前の親父はこの程度じゃ死ななかったぞ?」


 「うっ、うるさい!魔剣なんぞなくても俺はお前になんか負けん!」


 チュデルは体を起こし立位を保つのがやっとのようだ。それでもジョセフは容赦するつもりはなかった。


 「……そうか」


 チュデルは拳を振り上げラッシュを始め一つ一つが重くなり始めた。


 その突きは段々と速くなりどうしても負けられないようで『パープルサンダー』を使用して魔力を消費しすぎた今のジョセフでは躱すので精一杯だった。


 速くなりすぎた拳がジョセフの右肩を掠め今度は頬、腹部と攻撃が当たり始めその衝撃により吹き飛び石蹴りのように地面を跳ね壁へと叩きつけられうつ伏せになる。


 「……ハァっ、ハァ……」


 チュデルは息を荒げながら背を少し丸めフラフラとしながらも倒れないように立位を保ち体の限界が近づいていた。


 ジョセフは息が詰まりかけ吐血をしてしまい気管が一部損傷しているのが分かった。


 異世界に来てここまで追い込まれたのは初めてでジョセフ自身、このまま死ぬわけにもいかないと思い歯を食いしばり根性でなんとかしようとしていた。


 「ほう、まだ立てるのか?並の人間であれば確実に死んでいるところであるがな……」


 チュデルの方も体力をかなり消耗してはいるものの魔人族なだけあって人間のジョセフ以上の強靭な肉体を持ち合わせていたようだ。


 「……俺はっ、俺は……お……れ……はっ……」


 ジョセフは一瞬白目をむき、意識が朦朧としかけ走馬灯すら見え脳内には過去に起こった出来事がフラッシュバックしその光景を思い出しやり残したこと、過去の失敗を悔いながら死ぬのかと思い、瞼を閉じようとしたその瞬間だ。


 「ジョセフ様!」


 リサの声が最初に脳内に浮かびジンジャー、マリー、佐藤夏樹の声がジョセフの脳内に訴えかける。


 「そうだ、俺はまだこんなところでは死ねない!」


 リサ達の思いが一つとなりジョセフは覚醒し、筋肉が膨張し着ていた服が一瞬にして破れタンポポのように飛び散る。

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