第96話 佐藤夏樹の修行(その1)

 ジョセフは療養のために暫く冒険者業を休業し、リサはジョセフがこっそりと魔物討伐に行かないようにするための監視役としてマリーから言われジョセフと共にお休みするみたいだ。


 テレサ達はジョセフに戦闘を任せすぎたことへの責任感からか戦闘訓練を開始することにしたのだ。


 ジンジャーは無属性魔法が使えることからマリーにより効率的に使えるように修行を見てもらうことにしていた。アイリスも同様で得意な風属性魔法を強化する修行を付けてもらえるのだ。


 佐藤夏樹はテレサに剣術の稽古をつけてもらえるみたいでテレサは事前に購入していた木剣を構え、佐藤夏樹も木剣を両手で握る。


 こう見えて佐藤夏樹は空手、剣道、弓道を習っていたためそれなりに武道への心得はあるつもりなのだが異世界に来てから大した戦果を上げられていないのだ。


 「佐藤夏樹、いつでも来い!」


 「うおらあ~~~!」


 佐藤夏樹は力いっぱい握りしめた木剣を上に振り上げ、テレサに斬りかかるのだがテレサの木剣は佐藤夏樹が斬りかかる以前に攻撃を入れていた。


 パアンっと大きな音が鳴り佐藤夏樹は手をつきながら地面へとしりもちをつく。


 「痛ってえ~~~……」


 「動きはいいがそれでは真っ先に殺されるぞ」


 テレサは佐藤夏樹を見下ろすように見ながら注意をする。佐藤夏樹は地面に落ちていた木剣を拾いもう一度テレサに攻撃を仕掛けるもテレサの打ち込み一つ一つが常人の動きより早すぎるため佐藤夏樹では太刀打ちできずにいた。


 片手で木剣を握っているのに動きが世界チャンピオンのボクサーよりも速く、突きに関してはフェンシングすら超えていた。


 「どうした?ジョセフはもう少し手ごわかったぞ?」


 「まだまだだあ~~~!」


 佐藤夏樹は顔中痣だらけになっており、片目は瞼が漫画のように腫れあがり右目だけでテレサを睨みつけもう一度攻撃を仕掛ける。


 今度はそのまま猪のように猪突猛進し勢いのある突きを食らわせようとするのだがテレサの動体視力の前では佐藤夏樹など赤子同然だ。そもそもがちょっと剣道をかじっていた人間が剣に命をもかけている人間に敵うことはありえない。


 ジョセフのようにプロの格闘家を複数人相手にしても無傷で勝てる人間でもない限りテレサに攻撃を当てることなど至難の業なのだ。


 「佐藤夏樹、何故お前の攻撃が私に当たらないのか教えてあげましょう」


 「それは一体……?」


 「執念だ。お前の攻撃一つ一つに執念というものが感じない。お前は一体何のために剣を振るっているのか考えたことはあるのか?動きも模範的でいいのだがそれが仇となってお前の行動パターンが単純で私くらいになれば簡単に予測できる」


 テレサは執念の足りなさを指摘し佐藤夏樹は駄目だしを受ける。


 「……俺に執念がねえだと?」


 佐藤夏樹は歯を食いしばりテレサを睨むように見上げる。


 「俺だってな、ジョセフのようにはいかなくても少しは強くあろうと思っているんだよ!大体お前は俺のことを大して知らないくせに俺のことを知ったような口で語るんじゃねえよ!」


 ボロボロになりながらも立ち上がり、佐藤夏樹はフラフラになりながらも木剣を構える。佐藤夏樹にとって異世界でここまで真剣に何かを取り組むというのは今回が初めてだ。


 今まではジョセフと共にすれば食いっぱぐれしないからという理由で着いてきていたがジョセフがいない今、佐藤夏樹を守ってくれる人がいない以上己自信を強くしなければいけないと心の火は着火していたのだ。


 「チェストオオオオオオオオオオオオオオオ!」

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