第81話 自分達の力で……(その2)
「僕、何か失礼なことしてしまったかなあ?」
「誠さんがちゃんとドラゴンのいる場所に案内しないから着いてくるなと言われたんですよ。全く、誠さんはたまに抜けている部分があるからそこは改善するべきです!」
誠は自分が何故マリーに同行拒否されたのか理解していない様子でレイラがその理由を説明する。
「取り敢えず彼らが無事に戻ってくるのを待とうか……」
「大丈夫なんですか?あのジョセフって人誠と違って魔法数回使っただけでばてているのに無事にいられると思うの?」
リンは呑気な誠を見て呆れ気味に溜め息を吐く。
誠が何故呑気にいられるのかというとマリーという誠と同等かそれ以上の魔力を持ち、威力の高い魔法を発動できる魔法使いということもあり無事に生還できることを信じていた。
マリーの『エニィウェアゲート』のおかげでドラゴンのいる場所にまで一瞬で到着することができたのだが肝心のドラゴンは草原で眠りついており不意打ちで倒すってのは物語上面白みもくそもないのだが漫画やアニメの世界ではない。ここは躊躇わずに素早く倒していくべきだ。
「マリー、ドラゴンが起きたら面倒くさいからとっとと魔法で倒してくれないか?」
ジョセフはマリーに指示を出す。
「それじゃあドラゴンの鱗か牙だけ残っていればいいのよね?」
「……まあ、倒したという証拠さえあればいいし……」
マリーは詠唱を始める。ジョセフはマリーの実力を信じているからこそ頼める。
「『レールアローガン』!」
光属性魔法『レールアローガン』を右掌から魔法陣を出し発動。
ドラゴンの方へと軌道は乗りドラゴンはマリーの攻撃を予測していたのか目を覚まし上手く躱す。
「あたしの魔法を躱すだなんて……このドラゴン、ただものじゃないわ……」
マリーは珍しく自信を無くしたかのような声で震わせながら膝をつく。テレサとジンジャーは剣を抜き構える。無属性魔法に適性のあるジンジャーなら簡単には負けないだろうが魔法の使えないテレサには相性が悪い。それでも、テレサとジンジャーの気持ちを尊重したいとマリーは思った。
「テレサ、ジンジャー、無理のないようにな……」
「ジョセフこそ、無理はするな」
テレサは切れ長の目でジョセフのことを心配する。そうゆう気遣いができるところは流石騎士長の娘と言った方がいいな。
「『身体強化』!」
無属性魔法『身体強化』攻撃力だけでなく防御力、総合的な身体能力を上昇させる魔法だ。ジンジャーは魔法が使えないテレサを『身体強化』でパーティメンバーで一番の反応速度を持つテレサに魔法を発動する。
「ジョセフは光属性魔法で攻撃を、ジンジャーは私の援護をしてほしい!」
「「了解!」」
ジンジャーやジョセフに的確な指示を出すテレサは瞬時にフォーメーションを整える。マリーには佐藤夏樹とリサ、アイリスの護衛に回ってもらっている。今のマリーの精神状態を考えれば前線に出しても役不足になるだけであり、妥当な判断とも捉えられるだろう。
ドラゴンは鋭い爪を持った右手で切り裂こうと攻撃を仕掛けジンジャーはお得意の無属性魔法『ハイスピード』で回避。鋭い爪により地面を深く抉れており、まともに受けていればマリーの魔法で傷を治癒できるかは怪しいところだ。
「『スパーク』斬り!」
ジョセフは名刀陸奥守吉行に『スパーク』を流し、溶接機のように『スパーク』で高熱帯びた名刀陸奥守でドラゴンに斬りかかるも鱗の部分がダイヤモンドのように硬すぎて亀裂すら入ず、寧ろ当たりどころが悪ければ刀がぽっきり折れる可能性だってある。
「このクエストはもしかしたら失敗してしまうかもしれないな」
冒険者にとって失敗とは死を意味することでもある。
佐藤夏樹は後方から弓矢で狙撃をしているのだが鋼のように固い鱗のせいで矢が弾き飛ばされ牽制にもならず役不足のようだ。
「やっぱり普通の弓矢じゃ貫けねえ……こんなのムリゲーじゃねえかよ!ちくしょうあのハーレム野郎……生きて帰ってこれたら一発ぶん殴ってやるう……」
右拳を力いっぱい握りしめ歯を食いしばりながら佐藤夏樹は誠を思い浮かべる。ドラゴンは激しく咆哮をあげ口から炎を放出し草原は一瞬にして炎の渦に飲み込まれ、焦げ臭いが鼻腔を刺激する。
「仕方ないな……やはりあの魔法を使うしかない」
「ジョセフ様、無茶は駄目です!今の状態を考えればこれ以上魔法を使えば……」
リサはジョセフが『パープルサンダー』を使用することに強く反対しておりジョセフの腕に強く捕まる。テレサは固い鱗が駄目なら柔らかそうな腹部を狙おうとするもドラゴンは尻尾を激しく振り回し薙ぎ払う。
テレサは激しく吹き飛ばされ木に叩きつけられ息ができずに苦しむ。ジンジャーが事前に身体能力を強化する魔法でも発動していたからなのか肺などの気管に損傷が加わるほどのダメージは負っていないみたいだ。
「風よ、我らに力をお貸しください。『ウィンドカッター』!」
アイリスは風属性魔法『ウィンドカッター』を発動しカマイタチのようにズバズバと草原を音速で切り裂くのだがドラゴンの皮膚を切り裂けるほどの威力があったからなのかドラゴンは焦燥しながら回避する。あの硬かった鱗がピキピキと軽く亀裂が入っていることに驚きだったのだがアイリスがここまで戦闘できるお嬢様だとは思ってもいなかった。
リサもアイリスも温室育ちでありながら何故魔法をこうも簡単に使って戦闘に参加できるのだろうと日本にいた頃ならジョセフは確実に思っていたのだろうがこの異世界では実戦経験のないテレサでさえそれなりに戦闘できているわけだからリサやアイリスが戦えてもおかしくはないのだ。
「おっし~い、私の魔法を披露しようと思ったのに避けられちゃった……」
アイリスは悔しそうにしながら俯き目を強く瞑る。
「最大出力で行く!『パープルサンダー』斬り!」
ジョセフは『パープルサンダー』を『スパーク』の時と同じように名刀陸奥守吉行に流し高出力ビームソードのように刀身が伸びドラゴンの鱗に亀裂が激しく生じ皮膚をも切り裂く。
ドラゴンは激しく出血し始め動きもかなりよろめいていた。一瞬、ジョセフは眩暈が生じてしまい激しく吐血しながらふらついてしまう。
「『スパーク』を使用した後に『パープルサンダー』を発動したからなのか体の反応が鈍くなり体もふらつき目のピントが合わない……」
ジョセフは自分はここで死ぬのではと思いっていた。
それほどにまでジョセフの体は予想以上に深刻のようだ。
「ジョセフ様!」
リサは涙を流しながらジョセフの方へと駆け付け急いで光属性回復魔法『ホーリーヒール』を俺に使用する。だが、リサの魔力量では応急処置程度の対応しかできずマリーの時みたいには完治するのに時間がかかりそうだ。
マリーはジョセフ達の戦いを不貞腐れた状態でただ茫然と見ているだけだ。
「マリー、てめえ何ボーっと見ているだけなんだよ!ジョセフが死にかけているってのに何故ドラゴンをぶっ倒さないんだよ!?」
佐藤夏樹はマリーの胸ぐらを掴み怒号をあげる。
「だって、あたしの攻撃が外れたんだもん……」
「一回外れたくらいなんだよ!そんなんで自信なくしてどうするんだ!早くお前が行かないとどの道ここでみんな死ぬかもしれないんだぞ!」
必死にマリーを説得する佐藤夏樹は仲間のことを真剣に考え、マリーは自信喪失になりながらも「また外したら……」と声をこぼす。
「それでも、それでもダメなら何度だって立ち向かうんだよ!人間ってのはよ、何度壁にぶつかっても乗り越えなきゃいけねえんだよ!」
「分かったわ……やればいいんでしょ……」
マリーは不貞腐れながらもドラゴンに再度挑戦することを試みる。
「俺達が囮になるからその隙に魔法を使うんだ」
佐藤夏樹はマリーに指示しドラゴンに弓矢で狙撃し続ける。ドラゴンの方へと軌道に乗った佐藤夏樹の放った矢は出血している部位に命中し、矢はドラゴンの体内へと入り込み出血量は激しくなる。
テレサとジンジャーはチャンスだと思い腹部や首元を剣で斬りこんだり刺したりと傷口を増やしドラゴンを弱らせる。
ドラゴンはふらつき倒れそうになっても抵抗を続け炎を噴射しようとした瞬間ジョセフは残っている力を振り絞りもう一度『パープルサンダー』をドラゴンの口に目掛けて発動する。
「グラルルゥ〜……!」
『パープルサンダー』は命中しドラゴンの口は裂け、悲鳴をあげるように呻き声をあげ横へと激しく耐えれ込み砂埃が舞う。それにしてもすごいな、口が裂けたっていうのに声を出せる体力が残っているとはドラゴンの耐久力は尋常ではなかった。
「ぐはぁっ!」
魔力が有り余っていた時ほどの出力で発動していないのにジョセフは激しく吐血をしており、『パープルサンダー』が如何に殺人的な魔法なんだとジョセフは思いながら地面へと叩きつけられるように倒れ込んでいた。
「今だ、マリー!」
佐藤夏樹はマリーに言う。
「『レールアローガン』!」
光属性魔法でも上位種の魔法『レールアローガン』通常の人間なら一発使えば殆どの魔力を使い切ってしまうのだがマリーの元々の魔力量を考えれば勇者級のチートなのが分かる。ジョセフの『パープルサンダー』よりも出力は高いようで某バトル漫画のエネルギー波を放出していた。
マリーの『レールアローガン』から発せられる稲妻の衝撃により地面は激しく抉れドラゴンの手だけが残った状態で地上から消滅していた。
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