第59話 草凪誠からの依頼(その3)

 「そこで誠、一度お前と手合わせ願いたいがいいか?」


 「えっ?」


 流石の誠もいきなりタイマン勝負を申し込まれたことは予想外だったからなのかとぼけた表情をしていた。


 「僕と勝負したいってこと?いいけど本当にいいの?」


 「それなら今からやろう」


 ジョセフは革ジャンを床に脱ぎ捨て、誠は目を閉じながら右手を前に出し『エニィウェアゲート』と呪文名を唱え、そこにはラノベあるあるの特殊なゲートが開かれそこには草原へと通じていた。


 「準備万端のようだから行くとしますか」


 誠はジョセフを特殊なゲートへと誘導し足をゲートの中に足を踏み入れるとそこには草原があり、本当に移動できるのだと感心してしまった。


 「それは魔法かい?」


 「うん、無属性魔法の『エニィウェアゲート』と言って知っている場所ならどこへでも移動できるんだ」


 (知っている場所ならどこへでもって、まるでちびっこたちが大好きな某国民的アニメの道具かよ!)とジョセフは内心ツッコミを入れていた。


 リサ達も草原へと足を踏み入れ、女子同士でキャーキャー言いながらテンションがかなり上がっており、タイマン勝負に集中できるのか少し心配になってきた。


 「ジョセフ様大丈夫ですよね?」


 「誠さんもそこまで悪い人じゃないので死ぬことはないですよ」


 「いえ、そういうわけじゃなくて…」


 リサはジョセフの身の安全を心配しながらただ見守ることしかできず、テレサ、ジンジャー、マリーは腕を組みながらタイマン勝負を見納めるつもりでいた。


「ジョセフ、勝てるよね?」


 ジンジャーがテレサに問うもテレサはただ沈黙と腕を組んで仁王立ちをし、ふっと口を小さく開けた。


 「分からない、確かにジョセフは強いけどあの誠という男は今までに感じたことのない何かをある気がして予測ができない…」


 「テレサちゃんでも分からないんだ、多分この勝負ジョセフ君は負けるわ」


 テレサが険しい表情で口を震わせ言葉を発すると普段サバサバと明るいマリーが真剣な眼差しで声を低くしてテレサに言う。


 「ねえ、ジョセフが負けちゃうってこと?」


 「もしあたしの感が当たればの話しだけどね…」


 マリーはアイリスにそう言うのだがマリーは他にも何か隠しているような気がしてテレサはその違和感を拭えずにいた。


 「何暗い話してんだよ、ジョセフが負けるわけないじゃん。ただでさえチートみたいな奴なんだしよ」


 佐藤夏樹は状況を全く把握していない様子でヘラヘラと笑いながら周囲を和ませようとしていた。それでもテレサ達は深刻な表情を辞めずに唇を噛みしめていた。


 ジョセフはベルトに帯刀していた名刀龍王丸を鞘から抜き出すと誠も剣を鞘から抜き構えていた。


 (やはりこの男、ただものじゃないな……)ジョセフは誠から感じる威圧からは人とは違う何かを感じずにはいられなかった。


 「ジョセフ、攻撃を仕掛けてもいいかな?」


 「何を言っている、剣を抜いた時点で試合は始まっている」


 ジョセフは誠にそう言うと誠は一瞬でジョセフの方へと急接近し、名刀龍王丸を構えようとした時点で誠の剣はジョセフの間合いを詰めていた。


 「なら行くよ『ハイスピード』」


 誠は一瞬にしてジョセフに近づきさっきまで構えていた剣がバシュッと耳元を素早く掠め、これは手を抜けば確実に死ぬとジョセフは直感で分かった。誠に少しでもと刀を振り回すが全て切り払いされまるで赤子同然のように相手にならない状態だ。


 「身体強化の魔法でも使えるのか?」


 「一応全属性の魔法は使えるんだけど不得意な魔法もあってね、火力とかも中ボスクラスになると一撃では倒せないけどこういう無属性魔法は得意な方でね」


 誠は涼しげな顔で鍔迫り合いをしながらジョセフと会話をする。


 カンッ、カンッと刀と剣が交錯し、火花が飛び散りジョセフは左手に握っていた刀を大きく振るも誠はそれを瞬時に読んだのか余裕のある態度で躱す。神様に身体能力などを底上げしてもらうというのがこれほどまでに凄いのかと驚愕してしまい心が折れそうになるもジョセフは誠に一本でも当てる方法はないかと策を練っていた。


 「やっぱりジョセフは強いよ、僕が出会った誰よりもね。でもそれでは僕には勝てない」


 「ならこれはどうだ!『スパーク』」


 ジョセフは左手に握っている刀に青白い電流を流し、『スパーク』を最大出力で発動したことに驚いたのか誠は足をつまずきジョセフは今だと間合いを取り刀の向きを峰に変え、誠の肩に一発当てることに成功した。一発当てたと同時に誠は正面から倒れ、コートは泥で汚れジョセフは立ち上がるのを待つことにした。


 「ふう、この対魔法コートを着ていなかったら間違いなく死んでいたよ。その様子だとジョセフは本気を出して攻撃したみたいだね。さっきの魔法で息も荒くなっているみたいだし」


 「…くっ!」


 (嘘だろ!?最大出力で『スパーク』を発動したってのに誠はケロリとした顔で俺の息の荒さを指摘し、それでも俺はここで倒れるわけにはいかないと刀を構える。いくら神様に底上げしてもらったとは言ってもチートすぎるだろこいつ……)ジョセフは誠の異常すぎる身体能力にあっけを取られてしまい戦略で負けてしまったのだと唇を噛みしめていた。


 「でもジョセフの強さは大体分かったよ。僕の目に狂いはなかったみたいだしこれなら簡単に死ぬこともないね」


 そう言いながら誠は剣を鞘に戻し再度『エニィウェアゲート』を開いた。


 ジョセフは異世界に来て初めて敗北をしてしまったのだ……悔しい気持ちも勿論あったがジョセフは最初から勝てる勝負ではないことは分かっていたのに、(何故俺はあいつに勝負を挑んだんだろう?)と自分自身に問い詰め頭の中が真っ白になりながらも名刀龍王丸を鞘に戻し、リサ達と共に王室へと戻ることにした。


 「井の中の大海を知らずとはこのことだな…」


 ジョセフはそう呟きながら王室を出た後、寝室へと向かいそのままベッドにダイブした。

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