第50話 ジョセフとリサの散歩(その1)

 ジョセフはリサと二人で城下町の商店街へと行き、売店を渡り歩き異世界の飯を楽しむことにした。


 異世界で好き嫌いは言ってられないから食べるけどリサは冒険者稼業を始めてから庶民の食べ物に関心を持ち始めている。


 「ジョセフ様、今日は二人っきりですから行きたいところいっぱい行きましょう」


 「………」


 ジョセフはコクリと頷きながらリサに引っ張られていた。


 (たまの休日に二人で食べ歩きをするってのも悪くないな)とジョセフは思い、商店街でリンゴを二つ買い丸かじりをするとそれを見たリサがぽか~んとした表情でいた。


 「皮ごと食べるんですか?」


 「もしかして皮ごと食べたことないの?」


 「基本的にリンゴは皮なしで食べていたので…」


 「取り敢えず丸かじりしてみたらどうだ?」


 リサは言われるがままにリンゴを小さい口でカプッと丸かじりし、もぐもぐと口を動かしながら味わっていた。その味はリサにとって新鮮であり外で歩きながら食べることの楽しさを感じジョセフ自身リサと一緒にいることが楽しく感じていた。


 「どう?」


 「ただリンゴを食べるだけなのにこんなにも美味しいと感じるなんて想像もしていませんでした」


 「食べ歩きの楽しさが分かってきたようだね。普段は食べ歩きなんてしないから分からないこともあるけどこうやって一緒にいたい人と食べ歩きするだけでも楽しいもんだぜ」


 異世界のリンゴは日本にいた頃のリンゴと味を比較するなら味が少し濃ゆく、お口直しにあっさりとしたものを飲みたい気分にジョセフはなっていた。


 「この世界にコーラとかの炭酸飲料があればいいのだがそんなものがあるとは到底思えないし昼食を食べるまでは我慢しとくか……」


 「ジョセフ様、コーラとは一体何ですか?それにリンゴだけでは空腹感が残ってしまいます……」


 「朝から何も食べてないしどこかの食堂で何か食べようか」


 「ハイ!」


 リサは元気ある可愛らしい声でニコッと笑いながら頷きどこかに美味しい料理を食べられる店を探すことにした。スマホとかがあれば簡単にググって見つけることが可能なのだがそんな便利な端末機のない中世ヨーロッパレベルの文明の異世界では探すこと自体が一苦労である。


 「こんな時にスマホとかあればすぐに見つけることができるが…」


 「って何ですか?」


 「俺のいた世界では知っている相手と遠距離から連絡したり地図を出したりできる便利な道具だよ」


 「ジョセフ様のいた世界はそんな便利な道具があるほど文明が発達しているのですね」


 「文明こそ発達しているが人間というもの自体はこの世界と、いや…もしかしたらこの世界よりも心の歪んだ奴がいるかもしれない」


 リサは心を読めるからなのかすぐさまジョセフの話を理解し、真剣な表情でうんうんと頷き始める。ジョセフはリサのような心の綺麗な少女にはあまりジョセフのいた世界について知れば知るほど絶望してしまうのではと危惧しているからなのかこれ以上知ってほしくないとすら思ってしまう。

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