第41話 ジョセフの中学時代(その3)

 仁はジョセフが学校をさぼり始めてからは常に一人で、正確にはジョセフの義理の妹の侑と時々一緒にいるくらいで侑はジョセフについて情報共有をしていた。


 「侑、丈の奴は学校さぼってまたギターの練習しているのか?」


 「そうみたい、私は最近小説を執筆することに集中しているからあまり興味はないけど」


 侑は仁にさりげなくそうアピールしていた。


 仁はジョセフが自分を仲間外れにしているんじゃないかと不安に思ってしまうあまり侑に頼らざるを得ない状況に陥ってしまい、このままジョセフが学校をさぼり続ければいつか仁という存在そのものを忘れてしまうんじゃないかと思い始めていたのだ。


 侑は最近小説投稿サイト、小説をはじめように小説を執筆していた。その小説はジョセフや仁といった親しい人をモデルにラブコメ小説をほぼ毎日学校が終わった後に投稿していたのだ。


 「それで侑の小説って誰か読んでいるのか?」


 「一応コメントは来ているわ。たまに安置コメントも来るようになったけど」


 またしても侑はさりげなく答えた。批判されると普通なら落ち込む人間が殆どだというのに侑は微動だにせずそれを糧に小説を書き続けているようだ。


 批判されるということはそれほど侑の投稿している作品が人気になりつつあるという予兆なのかもしれない。


 少なくとも仁はそう思っていた。


 「侑はラノベ作家になりたいて小学校の頃から言っていたしもしかしたら近いうちになれたりして…」


 「そんな簡単なものじゃないわよ。漫画家に関してもそうだけど作家としてデビューできる人間なんてごくわずかよ。私がラノベ作家になれるならそれは運が良かっただけよ」


 「お前って昔から夢がないよなぁ…」


 仁は侑に対して才能が人よりも優れているんだからもう少し自分に自身を持ってほしいと思っていたのだがそんなことを言ったとしても侑が素直にそれを受け入れるとは到底思えなかった。


 そして放課後、仁は帰りのホームルームが終わったと同時に荷物をまとめジョセフが練習しているのジョージの自宅へと全速力で向かっていた。


 綾野家の親戚ではあるもののあまり面識はなかったのだがジョセフとまだつるんでいた時期にジョージ達が遊びに来た時に軽く会話をしてくらいだった。それでもなお仁は丈が学校をさぼるようになっても昔のようにつるんでほしいと思い勇気を振り絞り今思っている気持ちを伝えることを決心した。


 「もう一回だ…」


 「なあ丈、暫く休憩してまた再開してもいいんじゃないか?」


 「ダメだ!この程度のフレーズが弾けないようでは俺は前に進めない!」


 ジョセフはそう言いながらジョージは無理をしているんじゃないかと心配をしていたのだ。


 心配をしてくれるのはありがたい。でもここで立ち止まっていたら新しい壁にぶつかったときにどう対処していけばいいんだ。ジョセフは今ここでできるようにしていきたいんだ。


 ジョニーとジョナサンはジョセフに何か言いたそうな様子だったけど気遣ってくれているのか何も言わずにただ沈黙としていた。


 すると突然の扉をノックする音が小さく聴こえた。


 そこには仁がいて息を切らしながら扉を開け、防音設備の整った部屋へと入ってきたのだ。


 「仁、何でお前がここに?」


 「そんなの簡単に決まっているじゃないか丈、明日はちゃんと真面目に学校で授業を受けてほしいんだ!」


 「何でだ?学校に行ったってどうせ俺達ははみ出し者扱いされて碌な扱いをされないんだよ」


 「ならせめて俺と昔みたいにつるんでくれよ!俺はお前と昔みたいにバカやって楽しく過ごしたいんだよ!」


 仁は精一杯大声を上げ今思っている本音をぶつけた。ジョセフは自分がただギターが上手くなりたいがゆえにジョージ達と練習していたけどジョセフは仁の気持ちを一切考えずにただ自己満足をしていたこの現実を思い知らされた。


 「それならお前にギターを教えてやるよ。それだったら昔みたいにつるめるだろ?」


 「確かにそうだし勿論教えてほしい…それでも学校に最後までいないのか?」


 仁はどうしてもジョセフを学校に行かせたいようだがそれでもジョセフは学校に最後までいたいとは思えなかった。好きだった女には罵られプライドを傷つけられ、クラスの不良達に虐められ必要以上にぶちのめしたら一方的に周囲から悪者扱いされ悪徳教師を追い出せばそれこそ完璧に問題扱いを受けているわけだから学校に行きたいなんて思えなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る