第36話 ワトソン王国略奪計画(その4)

 寝室には王様は顔を真っ青にしてベッドに寝込んでおり、そこには女王もいた。


 「お父様!」


 「リサ、帰ってきていたのね…お父様もそう長くないかもしれないわ…」


 「そんな…」


 「治療を行っているんですけど一向に状態が良くならないみたいで…」


 それを聞いたジョセフはすぐさまマリーに王様を治療するように首を振りながら相槌を打った。


 「それなら私が治してしんぜましょう、女王陛下」


 「あなたは一体…」


 「私はリサ王女と共に旅をしている魔法使いのマリーと申します」


 「それではマリーというかた、本当に王を助けられるのですね?」


 「少なくとも毒の蔓延が酷く通常の魔法や解毒剤で治療しようにもすぐに悪化するようですので私の魔法でなら可能かと思われます」


 女王は半信半疑でマリーの様子を伺いながらも信用するしか他ならなかった。


 「今から発動する魔法は私のように魔力量が多くなければ使用できない魔法でして使用者も限られています」


 マリーはそう言いながら杖を王様の前に差し出し、呪文を唱えていた。


 「神よ、このものの毒を消し状態を回復させたまえ…『ホーリーヒール』」


 呪文を唱え終えると王様の体内は光に包まれ顔色も良くなっていた。


 「んっ?余は生きておるのか?」


 王様はゆっくりと起き上がり、手のひらを見ながら自分が生きているのか確認していた。


 「陛下、ご無事で…」


 「心配かけなかったようですまなかったな…」


 王女の目から涙が流れており、それを見た王様は王女に軽くお辞儀をし、謝っていた。


 「リサ、そちらにいるのは?」


 「私の旅のお仲間でございます!」


 「そうかそうか、お前の旅の仲間であったか」


 「俺は佐藤夏樹と言います。リサ王女にはいつもお世話になっています」


 佐藤夏樹は珍しく謙遜な様子で頭を下げていた。


 「私はジンジャーと言います、陛下にお会いできて光栄です」


 「おじ…じゃなくて陛下が元気になって嬉しいです」


 「アイリス、いつものようにおじさんで結構だよ」


 王様は笑顔でアイリスの頭を優しく撫でていた。


 「私はワトソン王国に仕えている騎士、ジェームズ・ドイルの娘です」


 「おお、君はあのドイル騎士長の娘であったか!あ奴の面影が確かにあるな」


 「ところで王様、病み上がりなのは百も承知ですが毒を盛った相手が魔人族であることが判明しました」


 「ジョセフ、お前には気遣いというものがないのか!?」


 「まあよい、ドイルの娘よ。それでその魔人族はどうしたのかな?」


 「抵抗するようでありましたので俺が処刑しました」


 なんとまあと言いたそうに口を大きく開けた王様はハアっ…とため息を吐きながら目を閉じていた。


 「魔人族か…ワトソン王国は長年戦争をしていなかったがとうとう避けては通れぬ時が来たということか…」


 「それは一体どういうことですか?」


 「余が国王に就任する前のことなのだが先代の国王は魔人族率いる別の世界からやって来た男と壮絶な戦いをしており余の父でもあるその王は自分の命と引き換えにその男を封印したのだがそれが解かれたようだ…」


 「その男の名は何と言いますか?」


 「言い伝えによれば大魔王ベルと自称していたようだ」


 (別世界から来た?神様はこの世界にどんだけ転生、転移させているんだよ全く。そしてこの前の魔人族といいさっき城で殺したあの男はその魔王を自称している奴の手下である可能性が高いということか……)ジョセフは神様に対して唖然としていた。


 「それでよ、何で王様を殺さなくちゃいけないんだ?」


 「おそらく私を殺してこの国を乗っ取るつもりでいたのだろう。余のことが気に入らない貴族が封印を解いた可能性があることには間違いないはずだ」


 佐藤夏樹は王様を殺す理由が理解できず、王様はこのワトソン王国を略奪するためには自分自身が邪魔であったのだろうと推測していた。もしかしたら封印を解いた貴族は利害一致で魔王を自称する男と一時的に手を組んでいるのだろうがこういう展開はよくあることで目的を果たしたら速攻で殺されるパターンがお約束だ。


 文明レベルも中世ヨーロッパ風の世界レベルで考えればそんな知恵の回る人間が多いともジョセフは思えなかった。魔女狩りだ何だのと平気で人をすぐ殺してしまう人達が当たり前のように存在する世界だからだ。

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