第35話 ワトソン王国略奪計画(その3)

 馬車の車輪は激しく回り、荷台に乗っていたジョセフ達は振り落とされないようにしっかりと荷台にしがみつき、御者台に乗っていたテレサとジンジャーも地面に貼り倒されないように縄を握っていた。


 「そんなに速く走らせて馬は大丈夫なのか?」


 「何を言っている!ゆっくり走らせていたら陛下を助けられないだろ!」


 「確かに急がなきゃいけないのは分かるけどそんな無茶な走らせ方していると荷台ごと馬車がぶっ壊れてしまうぞ」


 「テレサ、ジョセフ様の言うように速度を落とすことはできないでしょうか?このまま馬を速く走らせていたらお父様を助けようにも馬の方が危ないですわ」


 「リサ、もう少しでお城に到着するからそれはできない」


 馬と荷台の心配をしすぎていたためか一体どの辺りまで馬が走っているのか把握できずにいたがよく見てみると宮廷近くまで辿り着いていたようだ。


 テレサの言うようにこの距離なら多少馬を速く走らせても大丈夫だろうと再確認した。


 「そこの馬車、止まれ!」


 城門の前には衛兵が槍を構え、リサが馬車の荷台に乗っていることに気付いていなかったようだ。衛兵の言う通りに勢いの増した馬車を止め、荷台はタイヤの摩擦でドリフトをしていた。


 「俺達は国王を助けに来たんだよ」


 「そんなことが信じられるか!第一なんだお前のその恰好は」


 衛兵を槍を構えたまま、佐藤夏樹の言うことに聴く耳を全く持ってくれず、佐藤夏樹のジャージ姿を指摘していた。


 「おい、お前達は目が悪いのか?」


 「貴様、何を無礼なことを!」


 「無礼なのはそちらです!」


 ジョセフが傍若無人な態度で衛兵にリサがいることを伝えようとしたがリサはそのままゆっくりと荷台から降りだした。


 「あっ、あなたはもしかして婚約者と旅に出たリサ王女ではありませんか」


 「お父様のことが心配になってお父様を救えそうな方を急いで連れてきたのです!」


 「ということはリサ王女と一緒におられる方は…」


 「私の旅の仲間達です」


 「大変失礼しました」


 衛兵は槍を降ろし、リサに深々と頭を下げ、ジョセフ達はそのまま城門を潜り抜けた。


 またこんな形で城に訪れることになるなんて想像すらしていなかったが物語的に考えればこれは魔王の手下と戦うための伏線ふくせんになる可能性が大有りかもしれないな。


 そのまま城の中に入り、王様のもとへと向かおうとしていると一人の男が慌てて城を出ていこうとしているのが見えた。


 「お前、こんな所で何をしている?」


 「いえっ何でもないですよ…」


 「何でもないなら何故そんなに急いでいる?」


 「それはその…」


 「取り敢えずお前怪しいな、この城で働いているものとは思えない身なりをしているようだし…」


 「放せ!」


 そのままジョセフはその男の肩を掴み、男は奇声を上げながら懸命にジョセフの手を振り払おうとしていた。


 「放してほしたくば知っていることを全部話せ!」


 「誰がお前なんかに話すもんか!」


 「そうか…」


 ジョセフは光属性魔法『スパーク』を小声で発動し、男の左胸に正拳突きを一発勢いよく入れた。


 「ぐぅ~、貴様!俺が怪しいといつ分かった?」


 「最初からだ。お前のような汚ねえ格好した奴が城で働いている人間なわけあるか!」


 男はオオカミのように長い牙を剥き出しながら殴られた左胸を押さえ蹲っていた。


 「さあ話せ、お前は一体何をしていた?」


 「俺はこの国の王に毒入りのワインを飲ませたのさ。このまま放っておけば間違いなく明日には死ぬはずだ。それなのにお前達が邪魔したせいで…俺は魔人族なのに、ちくしょう〜!」


 「何ですって!?あなたのせいでお父様が…」


 リサは男を涙目で魔人族の男を睨みながら声を震わせていた。


 「貴様はワトソン王国の王女か…言っておくが解毒剤なんてものはないから助けることは不可能だ…ハッ、な…なんだ…?いっ、き、が…」


 男は喘息を起こし、さっきよりも左胸を両手で押さえ、蹲っていた。男の心臓の鼓動が急激に速くなり、肺に送られる酸素も急加速を繰り返し呼吸ができなくなり心臓は次第に膨張し破裂しているのが分かった。


 「ばっ…か…な…」


 男は蹲ったまま倒れ込み心臓が破裂して死亡しており、男の死体を後にジョセフ達は王様のもとへと向かうべく走り始めた。

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