第37話 ワトソン王国略奪計画(その5)

 ワトソン王国に魔人族を送り込んだ内通者がいるのではと考え始めてから城内にいた貴族や使用人を一つの部屋に集めた王様は回復した体を軽やかに動かしながら深刻そうな顔をしていた。


 「ここに皆を呼び出した理由は言わなくても分かるな?この中にもしかしたら魔人族と通ずるものが紛れ込んでいる可能性があるためだ」


 それを聞いた貴族や使用人達はざわついた表情でヒソヒソ話を始めていた。


 「陛下、その内通者というのは我々の中にいると?それと何故魔人族がこの城に侵入することを許したのですか?」


 「余に仕えている者たちを疑うのは心苦しいがこれは一つの可能性であるだけでまだ明確な証拠はない…」

 

 一人の若い貴族が王様に質問攻めをし、王様はただ予測していることを伝えているだけにすぎなかった。魔人族が城の中に忍び込んでいたのは紛れもない事実で内通者がいなければ簡単に潜入することもできない。王様が人の話を聞いてくれる人間で本当に良かったと今でも思っているのだ。


 「しかしまあ、陛下に毒を盛った男はとっくに処分されたのでしょう?だったらこれ以上は詮索する必要がないのではありませんか?そうです陛下、これを機に魔人族と亜人族を抹殺などはいかがでしょうか?」

 

 「ガーグ伯爵、陛下の前で何ということを申されるのですか?いくらあなたといえど場を弁えなければ…」

 

 「よい、ガーグ伯爵の言いたいことは余を暗殺しようと企んだ魔人族への見せしめということで大量の魔人族と亜人族を殺戮するべきということだな?だが余はその案には賛成できんな」


 「何ですと?陛下は敵に宣戦布告をされているというのに戦争の準備はしないと申し上げるのですか?」


 ガーグ伯爵とかいういかにも異世界ファンタジーに出てきそうな悪人面の小太りな禿げた男は何か慌てた様子で王様に口答えをしていたのだ。


 「リサ、あの男が少し怪しい気がするから心を読んでくれないか?」


 「心をですか?分かりました」


 ジョセフは小声で誰にも聴こえないようにリサに指示を出した。


 もし本当に城内に内通者がいたとしたらそいつには事情聴取をしっかりしなければいけないからだ。今度こそはすぐに殺さずにしなければいけないとジョセフは心掛けた。元を辿ればジョセフがすぐに魔人族を殺してしまったのが原因でもあり、その責任は取るためでもあったのだ。


 テレサとマリー達がこの場にいない理由に関してだがもしも内通者がいてすぐに逃げ出さないようにジョセフは張り込みをさせていたからだ。


 「佐藤夏樹とアイリスに関してはリサの母親とお茶会でもしているんじゃないかな?あの二人は戦闘に関しては不慣れだからな。もしものことがあれば俺自身何とかできないかもしれない」


ジョセフは小声で独り言を呟く。

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