第23話 救世主伝説の始まり(その1)

 村は炎に包まれ、村人達はゴブリンの襲撃から逃げ惑う。


 最近そんな案件ばかりだ。


バトル漫画を読んでいる人間からしたらゴブリンに抵抗しろと突っ込みたいところだが、普通の人間は逃げることに精一杯なため、戦おうなんて判断力があるはずもない。


 近隣の村がゴブリンに襲われる案件が数日で5件も多発しており、冒険者を派遣しようにも支払う金が無かったりと困っているようだ。


 「お願いです、ゴブリン討伐をしてくれる冒険者はいないんですか?」


 「そう言われましても冒険者に支払う報酬はあるんですか?」


 「そっ、それは…」


 受付のお姉さんに質問された村の男性は答えることができずにいた。


 「その依頼、ただで引き受けよう」


 「ジョッ、ジョセフ…ただで引き受けるって言ったか?」


 「言ったよ、テレサ」


 「しかしそれでは冒険者として生計を立てている身としては…」


 「村が滅ぶかもしれないってのに金の事を気にしている場合か!」


 「そうですよ!ジョセフ様の言う通りですよ!」


 「テレサの言う通り、報酬が無いのはあれだけど後でそれなりの報酬は貰えるんじゃないの?」


 ジンジャーは行商で身につけた話術でテレサを上手く口車に乗せようとしていた。


 何事も前向きに考えているところジンジャーに対してジョセフは凄いメンタルだと思った。


 「全く、好きにしろ…」


 呆れかえってしまったテレサはそっぽを向きながらも賛成してくれた。


 「あぁ~、貴方達はまさに救世主です」


 「おいおい、おっさん。そういうのはゴブリンを討伐した後に言ってくれよ」


 佐藤夏樹は苦笑いしながら男性にそう言った。


 受付のお姉さんはかなり驚いた表情をしており、無報酬でクエストを受ける冒険者は前例になく、無報酬で依頼を受けることを止めようとしていたのだが今更止めても無駄だと悟ったのかジョセフ達に何も言うことはなかった。


 「おっさん、無報酬でゴブリンを倒す代わりに、討伐後は食事を提供してくれるってことでいいか?」


 「できる限りのことはやります…」


 男性の住んでいる村はここ最近ゴブリンの被害が大きく、村を復興するためにかなりの費用を使っており、報酬を支払うことができないみたいだからせめて討伐後は食事だけでも提供してもらわねばとジョセフは思っていたがそれは食事を提供できるほどの経済力がまだ村に残っていればの話だ。


 ジョセフは少し男性を困らせてしまったがテレサの言う通りジョセフ達冒険者はクエストの報酬で生活をしているため無報酬でクエストを受けるというのはかなり危険だ。


 「金の代わりになるものがあれば正直金でなくてもいいと思っている」


 通貨が存在しなかった時代は物々交換をしていたことをジョセフは思い出した。


 ゴブリン討伐の為だけに一国の軍隊を派遣すればともテレサは提案したのだが国家に関わるレベルの案件ではないため、そんなことをしてまでゴブリンを討伐することはないだろうとリサは言っていたのだがその辺は流石異世界ファンタジーって感じがして否めなかった。


 「んでおっさん、あんたの村は近いのか?」


 「あっ、はい…この街から出てすぐにあります…」


 男性はとても震えているみたいだ。


 「これ以上この人たちのように悲しみだけが残るなんてことはあっちゃいけない!俺達がそれを何とかしなきゃいけないんだ!」


 村が無くなるってことはジョセフ達が食べているパンや肉、野菜を作ってくれる人達がいなくなるという意味でもあり、それを他国から輸入するということは大変なことでもある。


 そんなことは意地でも避けねばならないのだが、ジョセフは日本とは食文化の違う異世界で好き嫌いは言ってられないから好きな食べ物とか嫌いなものは無いのだ。日本にいた頃は紅茶を好んで飲んではいたのだがこの世界ではほぼ毎日のように紅茶を飲んでいるのだけれど味はやはり日本で慣れているからなのか味に関してはまあまあと言ったところだ。


 男性に案内されて村に行くことにしたのだがゴブリンに襲われて全滅なんてことになってはいけないので村に出かける前にジョセフ達は作戦会議を立てることにした。


 「ゴブリン討伐に関してだが、今回はゴブリンから村を守るのが主だ。それで村のみんなを守るのはリサとアイリス、マリーに頼みたい」


 「あたしは別にジョセフ君達が仕留め損ねたゴブリンを魔法で倒せばいいけど佐藤夏樹君もあたしと一緒にいた方がいいんじゃない?」


 「そうだな、佐藤夏樹の力量が明確に分からない以上、その方がいいな…」


 「テレサとマリーはそう提案してくれているがお前はどうしたい?」


 「俺はジョセフ達と一緒に戦う、こう見えて家に引きこもる前は剣道に空手、弓道だってしてたんだぜ!」 


 「そうか…無理だと思ったらすぐマリーのところに行け。俺自身最強じゃあないからお前の命までは守り切れないかもしれないからな」


 子ども扱いするなよと言いたそうな表情でジョセフのことを見つめていた佐藤夏樹だったが、ジョセフにとって佐藤夏樹は弟みたいなものだからたかだかゴブリン討伐のために死んでほしくなどはなかったからだ。


 日本に戻れないと神に宣告されたジョセフだけど、できるなら佐藤夏樹と二人で日本に無事帰りたいとも思っていた。


 ジョセフがホモというわけではなくて、同じ日本人としてだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る