第22話 酔っぱらいに絡まれた

 ジョセフは初めて使った時から違和感を感じており、『パープルサンダー』とは本当に光属性魔法なのか気になるものだが今は魔力を安定させられるようになるまではあの魔法は使わない方が無難だと思い使用頻度を減らすことにした。


 『スパーク』や『フラッシュ』と比較したらあまりにも魔力の消耗が激しすぎるため、むやみやたらと使用すればあの時みたいに吐血して体が動かなくなることもあるかもしれないからだ。


 その属性の魔法適正が無い状態で無理やり魔法を発動することなどは出来るのだろうか?ジョセフのいた世界は魔法がない代わりに科学の方が発展しているからやはり気になるものだ。


 ジョセフはもしこの世界に科学を取り入れたら間違いなく魔法を必要としなくなるなんてことはありえないだろうが実現したらしたで色々と大変そうなことは分かっていた。そんなことを脳内で考えていたら、怒鳴り声が聴こえるてきた。


 この街の冒険者が酒を飲んで喧嘩してるなんて日常茶飯事だけど流石にこう毎日やられると迷惑千万だ。


 「ホントこの世界の奴らはすぐに剣抜いて打ち合っているけどマジでどんだけ冒険者ってのは雑頭だらけなんだよ……」


 他の野次馬達は面白げに見ているが下手したら死人が出るかもしれないのに無神経にも程があった。


 剣を抜いて鍔迫り合いをやっている時点でこれは喧嘩というよりは決闘に近いのだがこの二人に心高き騎士道又は武士道精神なんてものがあるとはジョセフは到底思えなかった。


 決闘とか喧嘩なんてものはジョセフが日本にいた頃から嫌という程見たことあるけど酔っぱらい同士の喧嘩なんて理由を述べ、相手も承諾しているとはいえ、アルコールで判断力の鈍った人間の証言なんてあてにならない。


 「阿呆あほうが…」


 「あぁんっ?今なんて言ったよ?」


 オーガのような頭頂部の禿げた大男が赤くなった顔をさらに赤らめながらジョセフの方を向いた。


 わざと聴こえるように言ったからジョセフが悪いのだが。


 周りの野次馬達はすぐに逃げ去っていき、とばっちりを受けたくないのがまる分かりの引き方だ。


 「まったく、人が悪いぜ……」


 「てめえか!アホとぬかしたのは?」


 「こんな真昼間から喧嘩してるからアホだと言っただけだ」


 冒険者同士が喧嘩すること自体が馬鹿馬鹿しいのは本当のことだ。


 「んっ?お前最近冒険者やってるジョセフとかいう男だな?女を何人も侍らして調子に乗るなよ若造が!」


 「何!俺達をバカにしたのはあの新人のジョセフだったのか、このロリコン野郎が!冒険者てのはよぉ、お前のようなガキのお遊びじゃねえんだよ!」


 「お前たちの言いたいことはそれだけか?」


 酔っぱらいの男はジョセフが一番言われたくない「ロリコン野郎!」とジョセフに言い放つ。


 「なめんじゃねえぞ…このクソガキ!」


 「臭い息を吐き散らかすのはそれぐらいにしておけよ」


 「むうっ!」


 身長190cm以上もある禿げ頭の男が赤い顔でジョセフを睨みつけ、その臭い息を吐きながらジョセフを見下ろす。


 ハリウッド映画とかに出てくるムキムキマッチョな凶悪そうな男で恐怖を感じることはない。


 「俺はこの世界で二度も死にかけたんだ。あの時のことを考えれば全然大したことはない」


 流石に頭にきたジョセフはパキッ、ポキッと指をならし、「ふぅん」とついうっかり鼻で笑ってしまった。


 「ぶっ殺してやるぅ!」


 男は太い腕を勢いよく振り下ろし、その拳がジョセフの顔面をめがけていた。


 パシッ、とジョセフは男の拳を軽々と手で受け止めた。


 「スローすぎて眠るかと思ったじゃあねえか」


 ジョセフにとって素人の動きはまるっきり通用しない。


 「一体何年喧嘩してると思っているんだ、喧嘩の相手は素人から元プロの格闘家を含め10人くらいに相手を無傷でぶちのめしているんだぞ。ぶちのめした相手をトータルで数えれば100人はいってるぞ!お前のような奴の攻撃なんて目を瞑っていても見切れるわ」


 「死ねや!」


 流石に煽りすぎたからなのか酔っぱらいは握っていた剣でジョセフに斬りかかった。


 「光魔法『スパーク』」


 「ぐぬっ」


 ジョセフは光魔法『スパーク』を指先に集中し軽い威力で発動することに成功。


 「本当はクエストとかで試してみたかったが殺すことを目的に試したかった訳ではないしまあいいだろう……」


 「このガキっ、なめやがって!」


 もう一人の酔っ払った髪の長い髭を生やした男がジョセフに殴りかかろうとした。


 「光魔法『エレクトリックショック』」


 「かっ…体が…痺れ…る…」


 髪の長い髭を生やした男はそう言いながら黒焦げになり気絶してしまった。


 「人間ってのは不思議なことに電気信号で動いているみたいだから電気を流して脳に伝わる神経を狂わせることができることもここ最近分かったのだが、やりすぎは良くねえな」


 昔、人間の急所を突いてドカーンと体内から爆発させて倒すのがお約束みたいな感じのたマンガがあったが、理論的に考えればそれも電気信号とかを狂わせているのだろう。


 「貴様の魔法、蚊ほどにも効かんわぁ!」


 ガクンとなった酔っぱらいは地面に倒れ込み、一瞬何が起こったのか分からずにいた。


 「安心しろ、お前の手足の神経を麻痺させた。これからは真面目に生きることだ」


 酔っぱらいは悔しそうに麻痺した体をゆっくりと引きずるようにして去っていった。


 これも全て光属性の魔法が使えるからこそできる技であって、ジョセフに魔法適正が無かったらただ必要以上に蹂躙していたのは間違いなかっただろう。


 実際止まった心臓を電気ショックで動かす術式もあり少なからず人間というものは電気が関係しているのは間違いないのだがこの世界の人間の住人達は電気信号で動いているなんて言っても絶対信じないだろう。


 「そんなことはどうでもいいとして、あの野郎、誰がロリコンだよ……誰が好き好んであんな小さい少女を連れていると思っているんだ!それにしても買わなくていい恨み買っちまったなぁ。一人で街中歩くのが少し怖くなってきたよ…今度は『スパーク』で記憶でも消しとくか……できるなら……」


 ジョセフ一人ならどうとでもなるのだろうが、テレサに喧嘩を売ろうものなら間違いなく半殺し程度じゃ済まないだろう。


さっき『スパーク』と『エレクトリックショック』という光属性魔法を使ったが違いはモンスター同士を戦わせるゲームで例えるなら直接攻撃をするか状態変化を加えるだけの違いしかない。


『スパーク』の使い方自体がジョセフのは特殊で内部からダメージを与えるよりも外部からダメージを与え、敵に接近するよりも高圧電流を飛ばす感じの魔法だからジョセフ以外の人間があんな使い方してたら死ぬ確率は高いだろう。『スパーク』を掌から放出するのではなく指先だけに集中することによって魔力の消費量を軽減させたりと工夫していたのだがやはり元々魔法が使える世界の人間でないからなのか使った後の反動が少しだけ残っていた。少しずつ慣れてはいるが今はあまり酷使しない方がいいのは目に見えていた。

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