第19話 男二人の勉強会、そして…
今日はジョセフの体調をテレサ達が気遣ってくれたのか、今回はクエストの依頼を受けずに休日を取ることになり、ジョセフ自身はリザードマン討伐のあとマリーに回復魔法で治療してもらったから大丈夫だと言ったものの、テレサ達は異口同音で反対したのだ。
ジョセフは普段行くことのなかった王都ベイカーハイドの図書館に佐藤夏樹と二人で行くことになったのだがその理由は佐藤夏樹にこの世界の読み書きを教えるためだ。
手当たり次第で小さい幼児が最初に読むような絵本とか童話は無いのかと順に本棚を探し、1冊だけ見つけることができるためそのまま図書館に机などが設置されていたためそこで勉強することにした。
「ジョセフ、本当にここで勉強会を?」
「お前も俺の仲間なんだ、文字の読み書きくらいは出来といて損はないだろう」
佐藤夏樹はどうやら女子メンバー達のお茶会に参加したかったようだがそんな暇があるならクエストの合間に勉強していた方がいいだろうとジョセフは考える。
第一、文字の読めない、知識がないってのは、どんなに強くてもカッコ悪いことだとジョセフは思ったからだ。
現代人が江戸や室町時代にタイムスリップして雑頭の侍達に斬りかかられるなんてシーンは当たり前の如くあるのだがそうならなくていいようには知識を身に付け、想像力を豊かにしなければならない。
今までこの世界で生き残れたのも全て、アニメとかラノベで異世界転移とか転生物の作品観たり読んだりしていたから対策も立てられたけど、自分だけが理解できても今後のチームワークには活かせない。
「まず最初に俺が音読するから俺が読んだ文字を追いながら繰り返し読んで書くを続けよう」
「はいはい…」
「佐藤夏樹にはガッカリなことなのだろうが全てはお前の為だ、許してくれ……」
「異世界に来てまで勉強ってマジでめんどくせえなぁ…」
「俺がいないときでもなんとか対処できるようにするためだ」
「んでもよぉ…やっぱり男二人でってのは…」
「文句言わずに文字を少しでも覚えろ」
佐藤夏樹は何だかんだ文句を言いながらこの世界の言語の勉強をしており、ジョセフが女子でないことに不満を募らせていた。
読み書きに関してはジョセフみたいに最初から神様のおかげで習得済みってわけでもない人達もいるのだから勉強しとかないと後々面倒ごとに巻き込まれた際とかなんとかなるかもしれない。
「よーし、今日はこのくらいにしとくか」
「えっ?」
「無理に長時間やってても頭に入らないだろ?」
「いいのかよ?」
「いいんだよ」
女子に勉強教えてもらいたいようだし無理に男であるジョセフが教えてもやる気が湧かないと思い勉強会をお開きにした。
「まぁあいつも少しづつ文字も覚えてきてるようだし、続きはマリーかジンジャー辺りにでも教えてもらえばいいか」
ジョセフは佐藤夏樹と雑談をしながら歩いていると執事のような恰好をした白髪の男性がジョセフに声をかけた。
「あのぉ~っ、ジョセフ・ジョーンズとはあなたでしょうか?」
「Who are you?」
「私はワトソン王国公爵家に仕えている執事のヘンリーでございます」
「公爵家ねぇ~」
「てっ――ジョセフ、公爵家だぞ!何で驚かねえんだよ!」
「十分驚いているよ、リサの件もあるから慣れたよ…」
ジョセフはリサの婚約のせいで公爵家の執事とか来ても目ん玉がビヨ~~ン!と飛び出るなんてそんなギャグマンガ展開にはならなかった。
「単刀直入に言わせてもらいますが公爵様が話があるそうですのでジョセフさんを連れてくるようにとのことですので着いてきてください」
(マジか、ほぼこれ強制じゃん、めんどくせーなぁ)と思いながらジョセフは執事に馬車へと誘導され佐藤夏樹と一緒に馬車まで連れていかれたのだった。
公爵家の馬車というだけあってとてもきらびやかな細工に重工感ある作り込み、並の冒険者が持てるような代物ではないとジョセフはすぐに察した。
だからこそ面倒だとジョセフは感じた。
馬車に乗り込んでからは何故公爵様がジョセフを呼び出したのか聞いてみるとまぁ何でも会わせたい人がいるとか何とかだが嫌な予感しかしない。
そんなこんなで説明を受け、佐藤夏樹は貴族の館に入って可愛い女の子と仲良くなりたいとか妄想しているのだろうけど逆にジョセフはとっとと宿に帰って日記書いて寝たと思っていた。
サングラスかけてるから寝てもバレないだろうと考えたジョセフは暫く馬車の中で眠り、今後のことを考え込んでいた。
神様の手違いとしても、ジョセフは自分が本当にこの世界にいていいのか?この悩みは簡単には解消できずにいた。
異世界で活躍する主人公達みたいにいきなり可愛い異世界少女に好意寄せられてハーレム生活してます。といったテンプレ展開がジョセフは嫌いだからだ。
ジョセフはコクッコクッ、と眠っていたら馬車がピタッと止まり、やっと公爵家の屋敷に到着したみたいだ。
「ジョセフさん、到着しました」
執事が馬車の扉を開け、ジョセフはゆっくりと降りた。
ジョセフは顔を見上げ、公爵家の屋敷はリサの住んでいた宮廷ほどではないにしろものすごく大きい家に住んでいるのは流石公爵だなと思った。
執事が玄関の扉を開けると広間には大きな階段があり、深紅色の絨毯にジョセフと佐藤夏樹は足をおそるそるゆっくりと乗せながら入っていった。
「ご主人様、ジョセフさんをお連れしました」
「うむ、よくぞ連れてきた」
執事は公爵にすぐさま報告をしており、そのまま執事はジョセフ達を応接間に誘導した。
応接間にはリサと同じくらいの年頃の女の子が俺の顔を見た瞬間、じーっと見つめてきた。
「それではジョセフ殿と連れの方、どうか座りたまえ」
公爵は席に座りながらジョセフ達も座るように促し、ジョセフは恐る恐る腰を掛けるのに対して佐藤夏樹はそのまま遠慮せずに座り始める。
「失礼します…」
「自己紹介がまだであったな、私はワトソン王国国王の弟で公爵のランスロット・ワトソンと申すものだ」
「ジョセフ・ジョーンズと言います」
「俺は佐藤夏樹」
「先程から気になっていましたがあちらの可愛いお嬢様は娘さんでしょうか?」
ジョセフは公爵の傍らでジョセフのことをじーっと見ている少女について尋ねた。
「ああ、あれは私の娘のアイリスでな、今回はアイリスの件で呼び出したのだが大丈夫かな?」
「ええ、大丈夫です…」
ジョセフは苦笑いしながら公爵の発言を受け流す。
(やっぱりこういうめんどくさいことに巻き込まれてしまうのか…何か嫌な予感はしたがここは異世界転移、転生者あるある考えたら護衛をしてくれとか嫁に貰ってくれとかそんな面倒ごとになる気がして怖い……)ジョセフにとってそれだけは極力避けたいようだった。
アイリスはリサと違いかなりのおてんば娘って感じで父親の隣に座ってからジョセフのことを見ながらニコニコとしている。
「あなたが噂のジョセフかしら?」
「そうですが…」
「リサからは手紙のやり取りで今までの活躍も聞いているぞ~」
「そっそれはどうも…」
アイリス妙に語尾を伸ばす癖があり、ジョセフはアイリスが大体何が言いたいのかは予想がついていたのだが敢えて聞いてみることにした。
「そこで呼び出した理由なのだが、単刀直入に言うと娘のアイリスと婚約をしてもらえないかと思っているのだがどうかな?」
(うわ~、やっぱり来たよ…つか初対面で婚約要請されるとか何これ?俺は何かフェロモンでも漂わせながら歩いているのか?さっぱり意味が分からん!)ジョセフの脳内は混乱していた。
「婚約デスカ?失礼ですがアイリス様の年齢はおいくつで?」
「私はリサ王女より一つ年下なのだが年下はお嫌いかな?」
「嫌い…っというか、リサ王女の時にも申したんですが、歳の差が…」
ジョセフはそう言うとアイリスはしょんぼりとした表情で俯いてしまっていた。
ここで「分かりました、娘さんを…」なんて言おうものなら間違いなく佐藤夏樹に「お前ってロリコンだったのか…」と言われて軽蔑されそうな気がしたからだ。
(困ったものだなぁ、ここアニメとかラノベのパターン考えたらすんげえ断りにくい…どうする、ここで婚約するか拒否するか迷う……)ジョセフは言葉を選ぶ余裕すらなくかなりのヘタレっぷりを晒すことになっていた。
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