第16話 魔力解放(その2)

 佐藤夏樹が無属性魔法の適正があることが判明したのはいいのだけれど無属性魔法は魔法の書を読んで習得するものではなく、感覚で身に着ける異能力に近いものであることからずっと俯いた状態でいた佐藤夏樹であったのだが、そこは本人の持ち合わせている中二病らしい性格が発動し、ポジティブな考えにシフトチェンジして自分の出来ることをやろうと決心した。


 今回のクエストはリザードマンの討伐であり、佐藤夏樹にとっては初めてのクエストでもある。


 「佐藤夏樹には最初に装備品を揃えておく必要があるから、ジャスミンの店にでも行くか」


 ジョセフは初めてできた男子の仲間を行きつけの武器屋に寄ることにしたのだが、ジョセフはジャスミンのことを少し苦手意識をもっていた。あの馴れ馴れしさといい日本であんな接客をしてたら間違いなくクレームものだからだ。


 「なんていうかあの馴れ馴れしいところがかなり鬱陶しく感じるというかお節介というのかよく分からないがね……」


 ジョセフ誰にも聴こえないように小声で呟く。


 「いらっしゃいませ…ってジョセフ達じゃんあともう一人のお兄さんは新入りかしら?」


 「ああ…俺の初めての男子メンバーだよ」


 「俺は佐藤夏樹、金は一文もないが根性だけが取り柄の男子よ」


 「はっ、はぁ…どうも、この店の店主のジャスミンよ」


 ジャスミンは佐藤夏樹の自己紹介を苦笑いしながら自己紹介を始めた。


 「今回は新しい仲間の装備品を揃えにとついでにこの前頼んでいた刀を取りに来た」


 「そうだったわね、あの刀出来てるからちょっと取ってくるから適当に良さそうなの探がしといて」


 そう言ってジャスミンは店の奥に俺がオーダーしていた名刀陸奥守吉行のコピーモデルを取りに行き、佐藤夏樹に良さそうな武器や防具を探すことにした。


 「やっぱ、ファンタジーと言えば剣だよなぁ」


 佐藤夏樹はそう呟きながら店の剣を手に取り鞘から抜き出し重量感やグリップ感を確かめていた。


 「防具とかは見るかい?金は俺が出すけど」


 「いやっ、無一文の俺は本当なら剣だけでも贅沢だろうし今回は剣だけでいいよ」


 かなり遠慮している様子だったので「そっか…」と頷き剣を一本だけ購入することにした。


 「はいジョセフ、あんたの頼んだ剣持ってきたわよ」


 ジャスミンが刀を持ってきて、ジョセフは早速鞘から抜き出し、刃文、重量感、グリップ感等を確認、実際に見て持ったところ本物の日本刀と大差変わらない質で出来上がっており、その出来にジョセフはかなり満足していた。


 「この刀、俺が思っている以上の作りだよ」


 「結構自信作だからね」


 「刀が金貨20枚とこの剣はいくらだ?」


 「そうねぇ、友人価格で金貨20枚と銀貨50枚頂きます」


 ジョセフはジャスミンに金貨を21枚渡し、「今回は色々とサービスしてもらったから」と言い残しお釣りをもらわずに店を出ることにした。


 ジョセフは店を出てからずっとこの刀の名前を考えているのだが中々いい名前が浮かばずにいた。名刀陸奥守吉行は坂本龍馬の刀であるため名刀坂本龍馬ってのも安直すぎる……そう思った瞬間、ジョセフは刀の名前を思いついた。


 「よしっ、この刀の名前は名刀龍王丸にしよう!」


 名刀陸奥守吉行をベースに作ってもらった刀であり、ジョセフは元の所有者のことをリスペクトしているためどうせなら尊敬している人の名を一部拝借したいとも思っていた。


 「何をにやけているのだ、ジョセフ」


 「テレサか、この刀の名前を考えていてな…」


 「それで何という名前にしたんだ?」


 「名刀龍王丸だ」


 テレサはぽか~んと口をあけたまま言葉を失っていた。


 「いい名前ですね、ジョセフ様」


 リサはこの刀の名前が気に入ったのか単にジョセフがつけたから誉めてるのか知らないが取り敢えず名前を褒めてくれたことに感謝していた。


 「まぁ刀の名前もカッコいいし、ジョセフのこれからの旅には丁度いいんじゃないの?」


 「ありがとうリサ、ジンジャー」


 「それじゃ、みんな、リザードマン討伐なんだけど一度行ったことのある場所の近くみたいだから魔法で近道するわよ」


 マリーが魔法でリザードマンが近くに生息している場所まで無属性魔法『テレポート』で転移することになったのだが多分すぐに終わらせてまたすぐに帰れるようにするための提案だろう。


 「ちょっと待てよマリーさん、それじゃあ旅をする意味がないんじゃねぇのか?」


 「佐藤夏樹君の気持ちも分からなくもないんだけどあたしは何時間も歩きっぱなしで行くよりは体力を温存しておいた方がいいと思ったんだけどなぁ…まあみんなもしうしたいみたいだし今回は佐藤夏樹君の意見を飲むわ」


 マリーはあ~あ、とした顔をしながらも『テレポート』を使用することを断念しており次こそ絶対使いたいとジョセフ達に言った。


 ジョセフ達は馬車を借り、リザードマンが生息している洞窟の方向まで向かい、馬車を交代で御者台に座り扱っていた。


 テレサとジンジャーは馬の扱いがとても上手で素人のジョセフよりもストレスなく馬を走らせることができるため、ジョセフや佐藤夏樹に扱わせてくれず、黙って荷台で見ていることしかできずにいた。


 リザードマンが住み着いている洞窟前まで辿り着き、馬車を近くに置いてそのまま洞窟に向かいマリーは陣を作った。


 リザードマンにジョセフの魔法が効くのかは分からないがクエストで魔法を使用するチャンスだとジョセフは思った。


 洞窟の中薄暗く、足元もかなりがたついており、転んだら怪我しそうな程にバランスが悪かった為、ジョセフは自身の属性でもある光魔法を発動した。


 「我らに光の灯を導きたまえ『フラッシュ』」


 ピカーッと鞘から抜いた剣に光が灯り周囲もだいぶ分かりやすくなったがその分敵に場所を晒す可能性があるのが短所だが仲間が闇討ちで戦闘不能になるよりはマシだろうと断定した。


 ジョセフは魔力解放してもらったおかげでこんなにも魔法をあっさりと発動できるなんて思ってもいなかった。


 ただ魔法は異能力と違って呪文を唱えないと発動できないってのは不便なものだ。

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