第17話 リザードマン討伐、遂に俺も活躍か?
リザードマンが生息している洞窟内には、リザードマンの奇襲にあった冒険者の死体がその辺に転がり込んでおり、もしかしたらリザードマンも近かった。
「みんな、恐らくリザードマンは近い、戦闘態勢になれるように準備だけでもしよう」
テレサ達はそう言うと剣を鞘から抜きだし、佐藤夏樹はキョロキョロとテレサやジンジャー、リサの様子を見ながら剣を引き抜いていた。
「まっ、マジで戦いが始まるのか?」
「リザードマンが近いならな…」
どのみち今回のクエストはリザードマンの討伐、流石のジョセフも今回はマリーに美味しいところを持っていかれるわけにはいかなかった。
「それにしてもジョセフ、サングラスなんかかけて見えづらくないのか?」
「もう慣れたよ」
そう言うと佐藤夏樹は唖然とした様子でジョセフを見ており、ジョセフは佐藤夏樹に説明を付け足すことにした。
「過去を捨てるためにはサングラスで自分の顔を隠すしかなかった、それに慣れてくると暗闇の中も見やすくなるものだよ」
「ふ~ん」
佐藤夏樹はあほ面になりながらも聞いてくれた。
近づけば近づくほどリザードマンが何かをもぞもぞとしているのが見えるがよく見たら洞窟に入った人間の死体をひん剥いており、その人間を食らっていた。
「何という残酷な…」
「まるでゾンビだな…」
ジョセフは言葉に発しリザードマンの方向へと地面を勢いよく蹴り抜刀する。
ジョセフが抜いた剣はバシュッ!とリザードマンの首をはねた。
初めての不意打ちは成功したのだ。
ジョセフの抜刀に続き、テレサやジンジャー達も攻撃を仕掛け、リサも続いて支援しているのだがマリーは佐藤夏樹と一緒に後ろに待機していた。
「俺もジョセフ達と戦わなきゃ…」
佐藤夏樹はかなりガクブルに震え、切っ先が乱れ、戦闘できるほどの精神状態ではなかったのだ。
無理もなかった――佐藤夏樹にとって初めて魔物を討伐光景を目の当たりにしているんだから。
普通の人間はこんなのを見て気分が悪くならないなんてことがありえないからだ。
グサリッ!
ジョセフは左手に持っているランスでリザードマンを突き刺し、右手に持った剣で切り裂く、両手に武器を持って戦うというのは難しいことなのだがなれればどうということはない。
遠距離から他のリザードマンが援護に来たため左手に持っていたランスを顔面目掛けて投げつけランスはリザードマンの心臓に命中。
すぐさまランスを拾いに前方にいるリザードマンを斬り捨て、ただ走り抜ける。
「光属性魔法『スパーク』!」
突き刺さったランスを拾おうとしたリザードマンがいたためジョセフは『スパーク』から発せられるバチバチと青白い電流が火花を散らし左手から放出しリザードマンの脳細胞を破壊した。
脳細胞が死滅したリザードマンをそのまま斬り捨て、激しく血飛沫が上がったがジョセフはそんなことも気にせずにただ残りのリザードマンの方に向かい戦うのみであった。
ジョセフ自身、自分が使用した魔法がホントに通用するとは思ってもいなかったがこれ以上使用するのはジョセフの魔力量を考えれば次が最後になるだろう。
リサはさっきから魔法を使用しているのに息一つ乱れていないがこれもこの世界の住人だからなのか、呼吸のリズムとかそういうのを熟知しているのだろう。
次々とリザードマンを討伐し残りの一匹が現れる。赤いリザードマンはボスって感じの威圧をだしており、ゲームならリザードマンを倒して無事帰還なんてことになるだろうが油断は禁物。
レベルなんて概念のないこの異世界ファンタジーの世界ではレベル関係なしに油断すればどんなに強い勇者でも死ぬときは死ぬ、日本にいた時だって世界で最も強い格闘技のチャンピオンだって銃を持った人間相手に油断することはある。
「マリーは佐藤夏樹のお守りをしているからあのチート魔法でボスを倒すなんて暇はあるのかないのか分からないが今回はマリーなしでもやらせてもらう」
「グルルルル!」
リザードマンのボスは低く喚き、ジョセフの方向へ走ってきた。
ジョセフは何故か両手に持っていたランスと剣を地面に置いた。
本来ジョセフは喧嘩で武器を持って戦うことなんてしたことがなかったっからなのか素手で戦いたくなったのだ。
「ジョセフ、武器なしで戦うなんて無茶だ!」
「そうよ、テレサの言う通りよ!」
「ジョセフ様ぁ!」
テレサ、ジンジャー、リサの三人は俺のことを心配した様子で叫ぶ。
「この一発に賭ける、光属性魔法『パープルサンダー』」
その名の通り紫色の電流が左手からバチバチと火花を散らし、リザードマンのボスの胸を素早く一突きで仕留める事ができた。
「ぐぉぉぉぉ!」
リザードマンのボスは苦しんだ声で呻きながらそのまま息絶えた。
ジョセフはハァハァっと息を荒げながらボスの胸から左手を引き抜きそのまま倒れ込んだリザードマンのボスを見下ろして、「ああ、俺魔法で倒したんだ」と実感することができた。
「ゴホッゴホッ」
ジョセフは激しい倦怠感で体がよろめき頭痛が起こり咳き込み口元を手で押さえる。
「んっ?口の中から血?吐血しちまったみたいだな……何だか頭がフラッとしたな、この程度の魔法に体が耐えられなかったのか?まあ仕方ない、元々魔法が使用できる世界の人間じゃないんだし……」
調子に乗って3回も魔法を使ったツケが回ったからなのか、ジョセフはそのまま意識が朦朧となりガタガタとした地面に倒れ込んでしまった。
「ジョセフ様ぁ!」
リサはかなり心配した声で叫び、テレサとジンジャーがすぐさまジョセフを馬車の中に運び出し、マリーが回復魔法で俺のことを治療し始めていた。
「神よ、このものの傷を癒してくれたまえ『ヒール』!」
マリーは光属性回復魔法『ヒール』を発動しジョセフの体は緑がかった光に包まれ、さっきまで死にかけていたジョセフが元気を取り戻し高と思ったらジョセフはリザードマンの討伐に疲れたからなのかそのまま寝込んでしまっていた。
「ジョセフの寝顔って可愛いよね~」
「ジンジャーさんの言う通りですね」
「てかサングラスかけた状態で分かるってのもこの二人色んな意味で凄いよな……」
佐藤夏樹はジンジャーとリサにツッコミを入れる。
「全く、ジョセフは色々と無茶しすぎだ…」
「まあまあ、結果リザードマンを誰一人犠牲者出さずに倒せたんだから…」
ジョセフの行動を見て呆れたテレサにジョセフのことをフォローしつつ苦笑いで返すジンジャー。
馬車の中はとても揺れているけどジョセフは何事もなく安眠することができていたみたいだ。
ジョセフは夢を見ていた。
(これは現実か?黒い影のようなものがぼんやりとしててハッキリとは分からない。黒い影はとてつもなくチートで、酔っ払いの男をボコボコにしてひん剥いてやがる。)それだけかと思いきや黒い影は何かカメラにも似たような物でふっひっひっひ、とゲスな笑い方をしながらパシャリと撮影しているのをジョセフは目の当たりにしていた。
もしかしてジョセフ達と同じ日本人なのかだろうか?だとしてもこんなことをしてる男をジョセフは黙って見過ごせるわけがなかった。
「やめろ!そんな羞恥プレイをして楽しいのか?」
黒い影の高校生くらいの少年は「この酔っ払い達が僕達に危害を加えようとしたから悪いんだよ」と言って制裁……否!拷問をしていた。
「こんなこと小学生だって思いつかないぞ!」
ただの酔っぱらいの絡みでここまでやるなんてそんなのは人間のすることではない。
「お前何故そんな惨いことを…」
「僕の叔父と祖父は叩けるうちに叩けと教えてくれたからだよ」
「叔父と祖父だと?だからってここまでやっていいわけが……まっ、待て!」
黒い影の少年はだんだんとジョセフから遠のき、目の前は真っ暗になり、急に頭痛が起こり、両手で頭を抱えながら膝をついていた。
「くうぅっ…ううぅ…うわあぁぁぁぁぁ!」
目が覚めたジョセフは宿の部屋のベッドで眠っていた。
「ジョセフ様…」
リサはかなり涙ぐんでいた様子だな。
「もう、あんな無茶はしないで…ください…」
「心配してくれていたのか?すまない…」
「謝るなら最初から…うぅっ」
「そんなに泣かないでほしいなぁ、でも今回は俺が悪いな……」
リサはそのままジョセフの胸に飛び込み泣きっぱなしで離れようとはしなかった。
「んんっ、眩しいな…」
太陽の日差しが眩しく感じたジョセフは枕の横にある帽子とサングラスをかけようとすると。
「そのままで…ジョセフ様のそのままの素顔を見せてください…」
さっきまで泣きついていたリサが顔を上げ、ジョセフのことを見つめていた。
「こんな醜い顔を見たいのか?」
「醜くなんかありませんわ!ジョセフ様のお顔はお人形のように美しいですもの」
「俺のいた世界では気持ち悪いってよく…」
「周りがなんて言おうと私はジョセフ様を気持ち悪いなんて思うことはありませんわ!」
「リサ、君はなんて優しい子なんだ。君みたいな心が綺麗で優しい子は俺よりももっといい男を選べただろうに、それでも俺のことがいいと言うのか?」
「当たり前です!あなたは私の婚約者である前に命の恩人なのですから……」
リサはどんなことがあってもジョセフの味方でいようとする姿勢を示し、ジョセフは今日だけはリサと二人っきりでいたいと思い始めるようになった。
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