マウンティングゴリラの飼育員

ちびまるフォイ

マウンティングゴリラへのおもいやり

「それじゃ君にはマウンティングゴリラのオリを頼むね」


「ゴリラの飼育は以前に勤めていた動物園でもやっていました。任せてください」


「いや、マウンティングゴリラはちょっと難しいんだ」


「そうなんですか?」


「まあ見に行けばわかるよ」


先輩飼育員に連れられ、動物園の名物である

マウンティングゴリラのオリへとやってきた。


「あれ? 普通のゴリラと同じオリなんですね。

 マウンティングゴリラ専用にしなくていいんですか」


「いいんだよ。そうじゃないとマウンティング取れなくて体調崩してしまうからね」


「で、どれがマウンティングゴリラなんですか?」


「ブランド品で固めているのがそれだ」


先輩飼育員が指を差す。

その先ではマウンティングゴリラが普通のゴリラに対して何やら話している。


「あれは、何をしているんですか?」


「ブランドを身につけられる自分をひけらかして

 マウンティングしているんだよ」


「それじゃあっちのマウンティングゴリラは何をしてるんですか?」


他に気になったのは他ゴリラと写真を撮っては

繰り返しひっきりなしに投稿していた。


「あれは幸せマウンティング。

 彼女がいることをひけらかしているのさ」


「あっちのマウンティングゴリラは、

 他のゴリラを叱りつけているようですけど」


「あれは、学歴マウンティングゴリラ。

 自分の知っている難しい単語や知識などをひけらかし

 自分の方が学があるとマウンティングしてるんだよ」


「だいぶクセがすごそうなゴリラが多いですね……」


「習うより慣れろ、だよ」


その日からマウンティングゴリラの飼育員として活動がはじまった。

通常のゴリラのオリと共通なので掃除や餌も同じように行う。


そのうえで、マウンティングできるように

ゴリラ給料という架空のお金を渡して「自分は優れている」と思わせたり


「お前はゴリラ伍長」と意味のない階級を与えて

他のゴリラより立場が上であると思わせたりして

マウンティングしやすい環境づくりを行っていく。


熱心な飼育の効果もあってマウンティングゴリラは動物園の人気者。


パンダもゾウもキリンもライオンも全スルーで、

誰もがマウンティングゴリラのオリへと一直線。


人気者になればなるほどマウンティングゴリラは気をよくし

自分のファンの数やオリへの訪問者数を見せつけてマウンティングしていた。


そんなある日のこと、先輩飼育員に呼び出された。


「先輩、どうしたんですか。

 もしかして私の飼育になにか問題が?」


「いや、お前の飼育は問題ない。むしろ良い。

 おかげでマウンティングゴリラは大人気だからな」


「それじゃ何が……?」


「マウンティングゴリラが最近エスカレートしているんだよ」


「そうですか? そうは思いませんけど……」


「君は餌をやる飼育員だからな。

 マウンティングゴリラは自分より上の人間にはマウントしない。

 自己満足のために餌がもらえなくなったら大変だからな」


「はぁ……」


「マウンティングゴリラが人気になりすぎたせいで、

 動物園へ訪れたお客さんにも最近マウンティングしはじめているんだ」


「え!?」


「監視カメラの映像、見てみるか?」


先輩は監視カメラの映像を準備した。

もともとは、ゴリラのオリに転落してもすぐ確認できるように設置されたもので

客がやってくるオリ手前の手すり近くを映している。


「これは……!」


マウンティングゴリラの映像が再生された。


ゴリラを見ようと来た客に対して、

マウンティングゴリラがマウントしかけていた。


『ウホ! ウホホホホ!!!』


「先輩、これはなにをしてるんですか?」

「睡眠時間の短さでマウント取ってるな」



『ウッホ! ウホホホホ!! ウッホー!』


「先輩これは?」

「18歳で起業して年収10億ゴリラだとマウントしている」



『ウホホ! ウッホ! ウッホホホ!』


「なんか腕を見せつけていますけどこれは?」


「昔ワルくてケンカが強かった過去を話し、

 飼育員に暴力をふるって動物少年院に入ったことを自慢気にマウントしているな」


「先輩なんでわかるんですか」

「ゴリラ歴が長いとお前もわかる」


映像ではひっきりなしにマウンティングしている一部始終がしっかり記録されていた。


最初こそ観光のように「あーマウンティングだー!」などと喜んでいた客も、

マウンティングゴリラに見下され続けたことでだんだん機嫌を悪くしていった。


「というわけだ。マウンティングゴリラが調子に乗りすぎて

 せっかく動物園に来てくれた人たちを不快にさせてしまっている」


「飼育員の僕にはマウントしていなかったので安心してましたが、まさかこんなことになってるなんて……」


「動物園CEOとしてはマウンティングゴリラに電気首輪をつけて

 マウンティングした瞬間に電流を流すという案も出ているらしい」


「電流!? そんなことしたらお客さん以外に

 ゴリラ相手にマウンティングもできなくなって

 ストレスで死んじゃいますよ! ゴリラは繊細なんですよ!?」


「わかってる。俺も反対したさ。

 でもこのまま何もしなかったらゴリ押しされてしまう……」


「そんな……」


先輩飼育員が帰った後、ひとりでマウンティングゴリラのオリへやってきた。


飼育員が来るとこびるようにマウンティングゴリラはすり寄る。

飼育員とのコネクションがあると他のゴリラに見せつけるためだ。


「こんなにおとなしくていい子なんだけどなぁ……」


マウンティングゴリラは嫌な思いをさせる部分はあるが

他のゴリラよりも積極的でエネルギッシュ。


自分がよく思われたい、よく見られたいとする努力家。


それなのに電気首輪で管理するなんて、

マウンティングゴリラの努力家な性格をわかっていない。


「どうにかお客さんにはマウントしないでくれないか?」


「ウホ?」


マウンティングゴリラに人の言葉は伝わらない。

このままじゃ電気首輪でマウンティングレスゴリラにされてしまう。

マウントレスで死んでしまう。


「どうしよう……」


それからしばらくして、先輩飼育員が慌ててやってきた。


「お、おい! どうなってる!?

 お前なんかしたのか!?」


「先輩、落ち着いてください。

 いったいどうしたんですか」


「実は、さっき動物園CEOからお達しがあってな。

 例の電気首輪案は廃案にしたって話だ」


「そうなんですね。よかったです」


「……なんか落ち着いているな」


「ええ、もうお客さん相手にはマウンティングしなくなりましたから」


「そうなのか!? お前いったいどんな魔法をマウンティングゴリラにかけたんだ!」


「いやゴリラには何もしていませんよ。

 それに魔法なんて使えませんし」


「それじゃどうして……」


先輩を動物園の備品置き場へと案内すると、

ストックされていた飼育員の服を先輩に見せた。


「僕はただ、訪れる客全員にこの服を渡して

 飼育員の見た目になってもらっていただけです」


先輩はなるほどと手を叩いた後で顔をしかめた。



「……今の、解決策を見つけたことをひけらかし

 先輩である俺に対してマウント取ったよな?

 俺のほうが先輩だからな? そこわかってるよな?」



その後、CEOから先輩へマウンティング防止の電気首輪が送られた。

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