第18話
その時彼らが聞いたものは、歌と呼ぶにはあまりにひどい。そんな悍ましい何か。
彼らは自身の耳を塞ぐが、何かはそんなものは関係ないと、その音を益々増幅させて、頭の中を駆け巡る。いつしか彼らは倒れ、立っているのは彼だけとなった。
「楽しかったね!」
それに答えるものはただの一人もいなかった。
「また行こう」
『絶対にダメ』
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「おはよう神杉君」
「う、うん。おはよう勇斗君」
「いや~昨日久しぶりに全力で歌ったからかな、疲れてぐっすり寝られたよ」
「…………それ星ノ宮さんには言わない方がいいと思うよ」
「どうして?」
「多分ものすごくにらまれると思うから」
「だからどうして!」
「まぁそんなことは置いておいて」
おいておくのかよと思ったが、神杉君が何か言おうとしているので、ここは黙っておく。
「来週から夏休みだよね。何か用事とかある?」
「そういえばそうだったね。今の所特にこれといった用事はないよ」
「だったら今度みんなで海に行かない」
「いいけど、なんだか最近全然勉強できてないから不安なんだよね」
「勇斗君でもそう思う時もあるんだね」
「そりゃそうだよ。人は忘れっぽい生き物なんだから、確実に覚えたと思ってないことが一つでもあったら不安にもなるよ」
「確かにそうだね。でも僕は大丈夫だよ。毎日遊んでるわけじゃないし、メリハリはつけているよ。きっと他の人たちも。当たり前だけど勉強してないなんてことはないはずだよ」
だからこそ不安なのだが。
最近僕は笑う機会が多くなった。友達もできたし、中学の頃より明るくなれていることは、自分でも自覚しているつもりだ。しかし、昔から勉強しかしてこなかったからか、時折心配になってしまう。正直言って、高校三年間の勉強は終わっているし、怪しい点もあまりないのだが、勉強しか自信を持てるものがないから、その一つのとりえを失ってしまう可能性に、僕は恐怖を感じているのかもしれない。
とはいえ、ここ最近の生活が嫌なわけではない。寧ろ前よりもいろんなことに目を向けることができるようになっている。それに、不安はあるけど、先取りしている僕だからこそ、より高校生活を楽しむこともできるはずだ。たくさんのことに挑戦し、たくさんの学びを得よう。こんな考え方ができるようになったのも、姉さんのおかげだ。
それから一週間後。
「それでは皆さん。けがなどしないようにね」
『はい!』
僕らの夏休みが始まった。
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