第12話
「おはよう」
「おはよう」
「足は大丈夫か?」
「1週間ぐらい安静にしてれば良くなるって。やっぱり骨折じゃなかったみたい」
「良かったよ。星ノ宮さんが無事に学校に来れて」
「………………」
「え? 何か不味い事言った?」
「ふん。別になんでもないわよ水上」
「なんでそんなにピリピリしてんの? って…………ああ、そうか。そういえば星ノ宮って呼ばれるより冴織って名前で呼ばれた方がいいって言ってたっけ?」
「……まぁ別にどっちでもいいのだけれど」
(もしかして昨日のことまだ根に持ってるのか?)
仕方なく、
「じゃあ冴織」
「......」
「俺だけってもおかしいから、冴織も名前で読んでよ」
「はぁ、まったく。仕方ないわね」
(え? どこが仕方ないの? 言い出したのそっちでしょ)
「よろしく、勇斗君」
「お、おう。って……まぁいいけど」
どうやら名前で読んでくれないっぽい。でも、苗字であってもそもそも名前を呼ばれるのは初めてだからどこか新鮮だった。
◆
「え? 冴織といつの間にそんな仲良くなったの?」
「別に仲良くなってなってないわよ。名前で呼んでって言っただけよ。ほら燈も知ってるでしょ? 私が苗字より名前で呼ばれる方がいいっていうこと」
「うん。でもそれだけ?」
「冴織の言ったとおりだよ」
「……」
「どうしたの?」
立花さんがじっと僕の目を見てくる。
「燈」
「え?」
「じゃあ私のことをも名前で呼んでくれなきゃヤダ!」
「え、えぇ〜」
「だってずるいよ〜私だけ仲間外れにするなんてさ」
そう言って立花さんは口を膨らませて横を向いてしまった。拗ねているのだろうか? 正直女子を名前で呼ぶだけでも抵抗あるのに、それが2人、しかもどちらも特に男子生徒から絶大な人気を誇る2人だ。だが、ここで断るのもなかなか難しい。そうだ、別にこれは珍しいことでもないと考えればいいんだ。
「……はぁ、わかった。じゃあ燈さんで
「燈さんはなんか嫌! しっくりこない! 呼ぶなら燈って呼んでよ。同級生だしもう友達でしょ!」
「……分かった、分かったから!」
まぁ嫌と言われることをわざわざ言うのは気が引けるし、そもそも俺は上手く断るのが苦手だ。
「じゃあ俺もこれからなるべくフランクに話すように心がけるよ………燈……」
なんだかすごくむず痒い気分だ。
「うん! それなら私はゆう君って呼ぼっかな」
そういう燈の表情はとても明るくて、7月の太陽よりも眩しく感じられた。
「おいおい、ゆう君は流石に恥ずいわ! 呼ぶなら姉さんと同じで勇斗で」
俺は慣れないツッコミと言うやつを入れる。(出来てるのか?)
名前で呼び合っているのにいつまでも敬語で話したりするのもおかしいだろう。
「わかった。勇斗」
そんな感じで騒がしくしていると、
じぃ〜
(うわぁ、めっちゃ見られてる)
周りの女子や男子たちがこちら側をずっと見つめている。よく見れば冴織さんも俺のことをゴミを見るような目で見ていた。
ここ最近友達なんて呼ばれたことも出来たこともなかったので、接する態度に問題があったのだろうか? 大丈夫だと思うんだけど…………まぁそんなことよりも、今はこの男子たちから向けられる激しい殺意から逃れる為に、やっぱり名前呼びを辞めたいし辞めてもらいたいと思ったが、燈がさっきからずっと満面の笑みだったから、ここで嫌だとは言えなかった。
(仕方がない、ここは覚悟を決めよう)
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