第11話


昼食を取り終えた俺たちは、その後京都の有名スポットを回る予定。だが、班は女子率8割なので、初めはスイーツの店に寄っていた。普段自分から手を出さないものがほとんどだったが、これはこれでいい機会になったのかもしれない。



次に俺たちは、京都の街に自然と溶け込まれている神社や寺院らを回ることに。


沢山の鳥居がある所や、新撰組由来の地など、色々回っていた。今はとても長い階段をの場っている真っ最中。皆相当に疲れている様子だった。


相変わらず肩身の狭い思いをしているが、以外にも楽しいと感じていた。そして、無事最後の階段を登り、いよいよ本殿だという所で、


「あっ」


「危ない!」


班の女子生徒が、階段をうっかり踏み違えてしまい、受身を取れずに落ちそうになった。


俺はそこから1番遠くにいたため、フォローに行けなかった。しかし、星ノ宮さんが彼女の落ちる場所に回り、彼女が落ちそうなのを支えた。だが、


「星ノ宮さん。大丈夫なの?」


「ごめんなさい。私を庇ったせいで」


「たいしたことないわ」


「でもすごい血が出てるよ」


「うん、心配」


代わりに星ノ宮さんが怪我を負ってしまった。


「大丈夫って言ってるじゃ…イタッ」


「やっぱり大丈夫じゃないじゃないか」


星ノ宮さんがよろけて転びそうになるのを、俺は両手でガッチリと支える。


「どうしよう」


「私が転んだのを庇ったから」


(このままじゃダメだな)


そう思い、


「ごめん。嫌かもしれないけど、足触らしてもらうよ」


俺も動揺していたためか、ちょっと意味深な言い方になってしまった。


「痛くない?」


「痛くないわ」


「じゃあここ」


「大丈夫」


「なるほど」



「骨折していれば今のでだいぶ痛みが生じるだろうから、おそらく骨折したわけじゃなさそうだけど…………断定は出来ないからなぁ」


俺は医者じゃないから詳しいことは言えない。


「どう? 歩けそう」


「……引きずってなら、何とか」


もし引きずってなら歩けると星ノ宮さん自身が思ったなら、多分痛みが和らいでいるのだろうが、多少強がっているのかもしれない。足には腫れや内出血も見られる。俺も無理して歩かせようなんては思わない。しばらく歩くのはやめた方が良いと思う。とはいえ、当然こんな所に救急箱なんて持ってきてないし、立ち止まっていても仕方ない。


「ここで立ち止まってるのはあまりよくないと思うから、休憩できる場所までとりあえず移動しよう。星ノ宮さんは俺が背負っていくよ。この班に男は俺しかいないし」


「……お願いするわ」


おれは星ノ宮さんを背負いながら、階段を慎重に登っている。


「不甲斐ない。私としたことが」


「庇った上でのことだろ? 俺は動けなかったんだし、よっぽどマシだよ。それより、足、痛みは引いてきた?」


「多少はね」


「もう少し進んだ先の休憩スペースまで行くよ。そこに先生も呼んでもらったし」


「迷惑かけるわね。あ〜でもほんと、私ってついてないわ。折角貴方に何でも言う事聞かせられると思ってたのに、これでチャラじゃない」


「あの時はほんとに助かったから、この程度で返せたとは思ってないよ。それに、女子がケガしてたら助けるのは当たり前だ。さっきも言ったが、この班には俺しか男がいないんだから、俺がその役を担うのは当然だ」


「そうね。貴方も私と同じで不運だったってことよ」


いつまでもネガティブなままの星ノ宮さんを見て、を思い出した。


勇斗は、さっき程の話し方より、少し声色を重くして、さっきよりも真剣な顔で答えた。


「………何様だって思うかもしれないけど、星ノ宮のは名誉の負傷だろ? 自分が正しいって思ってしたことの結果だろ? だったら後悔する必要はないんだよ」


(あ、やべ。呼び捨てにしちまった)


この時初めて、星ノ宮さんを呼び捨てにしてしまったことに気づいた。



「あなたって……めんどくさい」


「おいおい。その言い方はないだろ……って、まあいいや。それより、もうすぐ着くぞ」


「分かってる」


「星ノ宮さん大丈夫ですか〜?」


「はい。もうだいぶ痛みは引いてきて、軽く歩くぐらいなら出来ると思います」


「良かったです。でもとりあえず、骨折しているかもしれませんので、病院に行きますよ」


「お大事に」


「ええ」


俺は彼女のその言葉を聞いて、その場から去ろうとするが、


「待って!」


「なんだ?」


「さっき貴方呼び捨てにしたでしょ」


「ああ、それか。悪かった。どうも感情的になるついつい」


「苗字の呼び捨ては嫌だから、名前にしてちょうだい」


「え?」


「だから! 冴織って呼びなさいって言ってるのよ」


「あ、ああ。じゃあ俺も勇斗でいいよ」


「そう。……じゃあね


(仕返しって訳か? 確かに、俺も水上って呼び捨てにされるのはあんまり好きじゃないな)


そう思いながらも、俺は何も言わず、そのまま班の所に戻っていった。


今度こそ勇斗がいなくなった時、

ボソッと彼女が


(ありがとう)


と言っていたことに、彼は当然気づくことはなかった。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る