第10話
「京都だーー」
今俺たちはバスの中にいる。高校生なのに……いや、高校生だからこそなのか? 周りは、たかが遠足程度で大盛り上がりだ。正直に言って、別に楽しみではなかった。理由は…………まぁ俺の境遇を思えば致し方なかろう。
ショッピングモールでの出来事からしばらくたち、今は6月下旬。暦の中では夏だが、焼けるような暑さ、群青の空、眩いほどの日差しを感じることは無く、代わりに感じるのは、どこかジメジメとした蒸し暑さ。天候も、正直良いとは言えない。
長々と語ったが、結局梅雨が明けていないことを指しているだけ。今の俺のネガティブな感情を、どこか小説のワンシーンのように説明したかったのだが…………どうやら俺に文才は皆無のようだ。
(あぁ、もうすぐつきそうだな)
そう思ってから数分後、
「皆! もうそろそろだから、外に出る準備しておいいてね!」
日帰りの予定だが、午前はクラスごと、昼は班別の自由行動だった。
「班別行動か…………」
班決めは公平にくじで決められた。
…………そう。クジは公平なはずだったのだ。だからこそ、さしもの俺も、これが俺の遠足に最も行きたくない理由を作る元凶となるとは、流石に予想出来なかった。
結果から言うと、何故か班の中に男子が俺一人という不平等な班になってしまった。
(嘘だろ?)
初めは信じがたかったが、クジの番号はやっぱりあっていて、やっぱり男子は俺一人だった。
周りからは
「星ノ宮さんと一緒で、しかもその班は女だけ……だと?」
「お、イケメンは辛いねぇ」
などと言われていたが、
(男が俺だからって皮肉言いやがって。辛いのは辛いけど、それは男女比の問題だからな)
と、この時ばかりは声を大にして言いたかった。先生にも掛け合ったのだが、くじで決まったことは絶対だと、俺の意見と、その他男子生徒の意見は、その場で却下されたのだった。
(そんなこと言ったって、男女均等になるようにクジは作らなきゃダメだろう)
と思いながらも、渋々受け入れた。まぁ、中学時代の班決めよりはましな決まり方ではある。
これまた暗い話になってしまうが、中学時代は、先生に好きな奴と班を組めばいいと言われた。クラスの人達は一斉に仲の良いグループを作り始める。そして、一瞬のうちに班は決まっていったのだ。仲のいい人が1人も居なかったのだから、俺は当然余る。
その時は、結局班の代表がじゃんけんをして決めることになった。そう、じゃんけんで負けた方におれを入れさせるという、何とも残念な決め方で。しかし、その時俺はクラスメイトにというよりも、先生に対して
(なんて頭の回らない馬鹿で非道な野郎なんだ)
と思った。当時の俺の態度は、決して周りに馴染もうと努めてはいなかっため、俺も悪くないとは言えないが、一つだけ言いたい。
俺みたいなやつにとって、好きな奴と班を組めという言葉ほど残酷な言葉はない。
まぁ、それに比べたら、今回はまだマシなのかもしれない。
幸い星ノ宮さんが俺と同じ班にいるから、全く喋ったことの無い人しかいないという訳でもない。もしそうなれば、女子しかいないこの中では、もっと俺の肩身は狭くなっていただろうし、絶対もっときまずくなっていたはずだ。クラスには羨ましそうに見てくる男子も多かった。しかし俺は逆に、
(この環境で半日過ごすことが出来るのか?)
と、問いたかった。これも言葉にはならなかったが。
だってそうだろ? これも中学時代の影響なのだろうか? いや、こんなの誰だってそう思うだろう。
また、これは俺に特に関係があった話ではないが、無事班が決まった時、僕と同じ班になっている女子達が、
「やったー!」
「神は存在するのね!」
「神社で1枚使ったかいがあった」
と腕をあげて喜んでいたけど、
(星ノ宮さんの人気がここまで凄いとは…)
と、ただただ驚くばかりだった。
◆
「着きましたから、皆さんバスから降りてきてください」
午前中はクラス別で行くところが決まっていて、俺たちは城を見学することになった。こういったところに来ると、ガイドさんたちの話が聞けるし、歴史を感じることが出来る……はずだったが、
「……と言えば○○で有名ですよね?」
「その通りです。よくご存知ですね」
「やっぱ主席はココが違うなぁ」
「さすが水上君だね」
俺が案内人の方に尋ねたのをきっかけに、周りからこんな感じの替えが飛び交っている。
「いや、そんなこ「そんな事は誰でも知ってるわよ。その程度で威張らないでほしいわ。じゃあこれは知ってる?……」
「えっと、それは確か昔あった戦が原因で…………」
「正解。でもちょっと甘いわね。正確には…………」
何故か張り合ってこようとする星ノ宮さん。俺は別に威張ってたわけでも自慢したかったわけでもない。ないんだけど………………何となく気持ちはわからないことは無い。別に彼女も自慢したいがためにやっている訳じゃなくて、多分俺よりも知識で勝っていると言いたいのだろう。やっぱり星ノ宮さんは尋常じゃないほどの負けず嫌いらしい。
周囲からは、
「冴織さんも凄い!」
「知恵の女神」
「惚れた」
「罵られたい」
といった称賛の声(最後のは褒めてるのかわからない)が飛ぶ。…………だが、
(知識量で負けるのは嫌だな)
星ノ宮さん程じゃないが、俺だって全国模試1位なりのプライドがある。こと勉強関連においては負けたくない。だから、ここで引くわけにはいかない! よく分からないクイズバトルみたいなものに、俺は自らの意思で参加する。(参加者は水上勇斗、星ノ宮沙織のみ)
「じゃあ星ノ宮さん。この城は○○な特徴があるんだけど、何故かわかる?」
「〇〇だからでしょ。」
「まぁそうなんだけど、実は……」
俺と星ノ宮さんは何故か京都の観光名所についたにもかかわらず、白熱したバトルを繰り広げていた。(5分くらい)
「やるわね」
「そっちこそ」
お互いに死力を尽くし、最後はお互いを認め、握手を交わす。あれ? なにこれ? 俺たち何してたんだったっけ?
戦闘後に和解する敵と味方みたいな構図に、少々動揺する。見れば、先生や同級生の他、案内人の方までも、口を空けて驚いている。
◆
「はい。じゃあここからは班別行動です。時間までに集合場所に戻ってくださいね〜」
午前の予定が終わり、俺たちはようやく班別行動することになった。昼食も、各班それぞれ好きな場所で食べるようになっていて、俺たちの班は、先に事前に決めていた店で昼食を取ってしまうことにした。
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