第7話
「星ノ宮さんすげぇ〜」
「なにかスポーツでもやってたのかな?」
「それでいて頭もいいんでしょ。凄すぎるって!」
周囲からはそんな声がちらほら聞こえていた。
時は学校の体育の時間。今日は長距離の授業で、どちらかといえば嫌いな授業。走るのはいいにしても、昼の炎天下にする必要がないと思う。その授業で、軍を抜いて早い生徒が1人。無論星ノ宮さんだ。
男子にも速い人は何人もいたが、その中でも彼女は1番速かった。
俺はクラスでは3番目、学校の平均だとどうだろう? 速いのかもしれない。まぁ星ノ宮さんには40秒も差をつけられてしまったけど。
特に運動が好きではない俺だが、毎日ストレッチや筋トレ、軽いジョギングはしている。だがそれはあくまで勉強の合間だったり、単語や語句の暗記のついでだったりするので、体力がある、とは言えないと思っている。どちらかと言うと、特にジョギングは体力をつけるためではなく、勉強の為にしていたと言った方が意味はあっている気がする。9月には体育祭があるだろうけど、それが今日みたいに疲れるかもしれないと考えたら………とても憂鬱だ。
「長距離の成績は私の方が上だった見たいね!」
そう言って彼女は俺に向かって得意げな顔を見せる。
「ああ、本当に凄いと思うよ。流石星ノ宮さんだね。クラスの人も星ノ宮さんの話で持ちきりだよ!」
「……なんだか気に食わないわ。負けたんだからもっと悔しがりなさいよ」
「いやいや、多少は悔しいよ。でもそれよりも凄いって思う気持ちの方が上だっただけだ」
「……理解できない。でも、まぁいいわ。(それにこのタイムだってどうせ燈よりは遅いんでしょうし……」
「え? 今なんか言った?」
「別になんでもないわ」
それから、言いたいことは言い終えたのか彼女は校舎の方へ戻っていった。
これはあくまで俺の感想だが、彼女は1番というものにすごく執着しているような気がする。無論俺も勉強に関してはそうだが、一体何が彼女を動かしているのだろうか。
◆
「おーい、勇斗君〜こっちだよ!」
「悪い、少し遅れたか?」
「全然、私も今来たところ、冴織はもうちょっと来たら来るかな?」
「教室にはいなかったけど…………」
俺がいるのは食堂。立花さんとはこの頃ご縁があって、テスト以来こうして学食を食べるようになった。そう、あんなに友達はいらないと豪語していた俺に気がつけば話ができる人ができたのだ。まぁお陰様で、
「誰だよあの男?」
「羨ましいなこの野郎」
「ちょっと調子乗ってないかあいつ」
と悪目立ちしてしまっているが。周りの意見に振り回されないことを信条としていた僕も、少々堪える。最近は周りにも多少だが意識を向けるようになったこともあり、今までだったら気にしなかったことも少し気になってしまう自分がいた。俺に落ち度なんてないのに………………
とはいえ、別にお互いにそういうことは一切考えていないし、こうして話すことは俺にとって楽しいものだった。自然と彼女らと話す時の第一人称は僕から俺になった。多分これが姉さんの言っていた青春と言うやつだろう。
「あっ!きたきた。冴織〜こっちだよ!」
「あっ、やっと見つけたっ……って、なんであなたもここにいるの!」
「いや、だって、というか最近はいつも立花さんと一緒に食べてるけど? それに今日は立花さんが話があるって言ってたから集まったんだけど……」
「ちょっと燈! どういうことなの?」
「えっと……とりあえず落ち着いて!」
「……わかったわ。ここで何言ったとしても話が進まないのはわかってるもの」
「ありがと! それでね、話っていうのは…………」
「それで? その話でなぜ私も呼ばれたのかしら」
「せっかくなんだから冴織もどうかなって思ったんだけど……ダメだった?」
「ダメって言うか、そもそも私は借りのひとつも作った覚えはないんだし、関係ないじゃない。」
2人が話している内容(というより、多分言い争う理由なのは俺だと思うのだが)を要約すると、
この前のテストで勉強を教えてくれたお礼を俺にまだしていないと言って、何か奢ってくれると言う話だ。だからこそこの件で関係のない星ノ宮さんがさっきのようなことを言っていた。
星ノ宮さんの言い分はもっともだ。それに、
「いや、前も言ったと思うけど、お礼を貰うためにやったわけじゃないし、俺も遠慮させてもらうよ」
「でも、実際赤点ギリギリだった私を助けてくれたお礼はしないと、私の気が済まないよ!」
「でもなぁ〜そう言われたって…………」
「何がそう言われたってなの? お姉ちゃんに説明してみなさい」
「え! 姉さん、いつからいたの?」
いつの間にか俺の後ろには姉さんがいた。
「あんたが2人の美少女と楽しそうにお話ししてたのはずっと見てたけど」
「じゃあ結構前からじゃん!」
「あなたお姉さんがいたの?」
「勇斗君のお姉さんすっごい美人ですね」
話がめんどくさい事になってきた。でも、話を聞くまで姉さんは戻らなさそうだったので、仕方なく事情を説明した。
「ふ〜ん、じゃあお互いに何か奢ればいいんじゃないの? 勇斗はその……」
「あ、立花燈です!」
「燈ちゃんに、よく頑張りました! みたいな意味で何かプレゼントするの。そうすればお互いになにか渡すんだから問題ないんじゃない?」
「そうか。それなら俺も賛成だ」
「でもそれじゃ結局恩を返せないです」
「いいのよ! 燈ちゃんも頑張ったんでしょ。勇斗はどうせ困ってる人を見過ごせなかっただけなんだろうし、貰えるものは貰っときなさい」
「う〜ん、そうですね、分かりました。 勇斗君もそれでいいなら」
「ああ、勿論だ!」
なかなか決まりそうになかったことが、姉さんのおかげで無事決まり
「ちょっと待って! 私の存在を忘れてないかしら。それとも私なんてどうでもいいと思っているの?」
おっと、ずっと3人で喋っていたからついつい星ノ宮さんのことを考えていなかった。
「冴織は、私からなにか奢ってあげるよ!」
「別に何も奢んなくったっていいわよ。私が言いたいのは、結局2人の問題なんだから、私を呼ばないで欲しかったってことよ!」
「え〜そんな事言わないでよ」
「まぁでも実際その通りだと思うけど」
「う〜ん、そうね〜、でもそうなると勇斗、あんた燈ちゃんとデートしてるみたいに見られるわよ」
ドン!
もの凄い音と同時に殺気を持った視線が一斉に集まったような気がした。というかしている。
「何言ってるんだよ姉さん!」
「そ、そうですよ。私そんなつもりじゃ……」
「分かってるわ。でも実際そんな風に見られちゃうよってことが言いたかっただけ」
確かに、男女で何か買い物するってなると、2人でってのは周りからはそう見られるのか。でもそれが3人になると、それならまだ友達っぽく見えるだろう。(というより実際そうなのだが)
「冴織〜」
「そ、それでも、私が行くメリットはないわ!」
「じゃあ今度勇斗が冴織ちゃんの言うことをなんでも1つ聞くってのでどう?」
「ちょ、勝手に何言ってるんだよ姉さん!」
「だって困るのはあんたでしょ。だったら何でもするからきてもらうってのがあんたがとるべき行動なんじゃないの?」
「確かに」
「…………なんでも1つ」
しばらく考え込む様子を見せていたが、
「今週は特に用事もないし、貸しはあっても損は無いわね。分かったわ。私も言ってあげる」
どうやら今度こそ無事に決まったようだ。
……この際周りからの殺気なんてのは無視だ。
当日。
「ちょっと! あんたその格好で行く気?」
「ダメなの? 」
「この間私が買ってあげた服があるでしょ!
それ着てきなさい」
「…まぁ別に服なんてなんでもいいから別にいいけど……」
そういえば高校生になってすぐに、姉さんが俺に服を買ってくれたんだった。普段は全身黒のジャージなんだけど、この日はを着ていくことになった。
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