第3話


「ふぅ、やっと終わった。慣れないことはするもんじゃないな。普通に恥ずかしかった」


緊張はしなかったが、スピーチでは、だいぶ消耗した。全身に妙な倦怠感がある。

内容についてだが、ほんと何様だよ! って思った人達ばかりだろう。


俺みたいなガリ勉野郎に言われてもなにも感じないという人もいただろう。でもそれでいい。 俺は全生徒に対してさっきの言葉を述べていた訳では無い。あくまで今回は1


だけど………………(凄い恥ずかしい! )


終わってからのことは全く考えてなかった。でも後悔はしてない!


正直俺は、この学校じゃない学校に入学したとしても、やることは変わらないと思う派だ。勘違いして欲しくないので言うが、別に意識が低いからとかではない。勉強は、才能の有無はどうであれ、コツコツ努力していけば、多かれ少なかれ、誰だって伸びるものだと思っている。


高校が違うという理由ごときで成績がどうのこうのというのは、正直言い訳だと思う。確かにその学校の進学実績は大事だ。特にカリキュラムがいいという理由で選ぶのは、正しい考え方だと思う。

当然そういったところに集まる人というのは賢い人達ばかりで、良い刺激も沢山あることだろう。しかし、俺は、本来学業というものは、自分と戦うものだと思っている。これは別に自分より上がいないとか、そんな自信過剰な考えの上言っているのではない。現に、有名な高校へ進学したって、そこから落ちぶれるものもいれば、あまり有名でない普通の高校から、日本トップレベルの大学へ行く者だっている。結局はその人次第。当然、僕にだって。

だからこそ、努力は怠らないしあきらめたりなんかもしない。



話が少し逸れてしまったが、俺が言いたいのは、別に勉強だけの話じゃない。どれだけいい環境にいたって、落ちるものは落ちるし、それを糧に努力を重ねられる者もいるということだ。


少々酷な言い方かもしれないが、どんなことがあって、どんな苦しい目にあったとしても、そこで折れたら、その人は落ちぶれたものだ。

でも、1度の挫折で人生全てが終わったと思う必要などないのだ。人生は長いのだから。かの天才音楽家のベートーヴェンは、幼い頃に母親をなくして、耳が聞こえなくなってもなお作曲し続け、今も昔も多くの人に親しまれる名曲の数々を生み出し、世界を代表する音楽家になったのだ。それを考えれば、失敗や絶望しただけで折れるということが、いかに愚行なのかがわかると思う。


入学式が終わり、俺は1人で家に帰ることにした。姉さんは後で帰るとの事。行きは一緒に行こうと言っていたのに、急に手のひらを返された。だから俺はこうして無事、1人で家に帰ることとなったのだ。


入学式が終わったのは昼過ぎくらいで、帰っても特にやれることも無いため、帰りに本屋に寄っていくことにした。溜まっていた本は昨日までに全て読破してしまった。なかなか悪くない時間だった。確かにずっと勉強していては味わうことの出来なかった経験だ。


本屋に入り、本を探すこと5分程度。

そこで、なかなか魅力のあるタイトルの本を見つけた。

俺はその本を手にしようと腕を伸ばす。


すると、


「あっごめんなさい」


「いや別に、気にしなくてもいいですよ。なんか気になるタイトルで興味が湧いたので取ろうとしただけなので。もしかして、これ買う予定ありました?」


ほとんど同時にお互いが同じ本を手に取ろうとしたので、俺は横の女の子も手がぶつかってしまった。


「……」


「あの? 聞いてます?」


「あっごめん。うーん、どうしようかな〜私もあらすじとか読んでから決めようと思ってたし」


「じゃああらすじ読んでみて、もし気に入ったのであれば譲りますよ。この本ここにもう1冊しか売ってないっぽいので」


「ええ〜そんなの悪いよ! そうだ! まだ在庫とかあるかもしれないよ! 私店員さんに確認してみるよ!」


「あーちょっと待って! そこまでしてもらわなくていいから」


面白そうだとは思ったが、事前に買おうと決めていた訳でもないので、買おうと思っている人がいるなら譲るし、在庫の確認まではしてもらう必要はないと思った。


「う〜ん。分かった」


それにしても……活発な人だなぁ。

背丈は俺よりも少し低いぐらいなので女子の中では高い方だろう。またスラッとした体型で、話している時の顔はとても明るくて、初対面のはずなのに何処か親近感すら湧いているように感じる。


それに…………


「僕と同じ学校?」


「そうだよ。私も同じ学校で新入生。あっ!そういえばあの時喋ってた男の子って……」


「入学式の事なら僕で間違いないよ」


「やっぱり! でも意外だね、あんな皆の前でビシッとしてた人がこんな本に興味持つなんて。それになんかオーラが凄くて近づきがたそうなイメージだったから」


「そう? まぁでも確かに近づきづらいかもね、僕には」


周りから見て明らかに俺だけ異なった雰囲気を纏っていたのだろう。見ただけで、


「こいつ、絶対中学時代陰キャだろ」


とか思われていたのだろうか?

だとしたらやはりというか……まぁやっぱりそう簡単に人の印象なんてかわりっこないんだ。

特に気にはしないけど、直接言ってくる人は初めてだな。こうして気さくに話してくれているから、皮肉とか、悪気があっていっているわけでも無いのだろうか?


「高校生ならラノベくらい読むものだと思うけど。しかも別にそんな人を選ぶようなやつじゃなさそうだし、それ」


「まぁ、どっちかって言うと感動モノかな?多分」


俺は割と読書に関しては年相応のものを嗜んでいるつもりだ。受験期は一切読むのを辞めていたが、中学1、2年生前半くらいまでは割と空いている時間に読んでたりしていた。あまりバトルものやらは見ないのだが、気になったものについては見るし、ライトノベルは、あまり分厚くもないので、だいたい2時間もあれば読み終えられる。気軽に読めるし、息抜きにも丁度いい。


「なんか気に入っちゃったから、わたしはこれ買うよ!」


「そうなんだ。僕のことは気にしなくていいよ。じゃあ、僕はもう少し見ていくからこれで」


そう言って立ち去ろうとする。


「あっ! 待って!」


「ん? まだなにか用事があるの?」


「水上君……今日はありがとう」


「いや別になんにもしてないよ」


「またね!」


そう言って彼女はサッとレジに並んで、買って颯爽と本屋を後にするのだった。


「よし! そろそろ買えるか!」


まぁ気になる所は全部見て回ったが、俺の好きそうな本はあまり無かった。そもそも俺がこぞって読むようなジャンルのものは、みんなが言うようなラノベの中では珍しいのかもしれない。勿論挿絵があったり、アニメっぽいものも好きだ。しかし、

ライト文芸と言えばいいのか? こちらのジャンルの方を俺はよく読むと思う。

まぁ人によって、


「これはラノベじゃない!」


と思う人もいるかもしれないが、俺も詳しく知らない。とりあえず俺の中でラノベとはそこまで長くなく、楽に読み切れるもの、と言ったところだ。


その日は、気に入ったミステリーや短編の本を何冊か買って、俺も本屋を後にした。




「ただいま〜」


「おかえりなさい勇斗」


「勇斗おかえりー」


「あっ、やっぱ姉さん先帰ってたんだ」


「あんたの方が学校先出てたはずだけど、どっか寄ってたの?」


「うん。近くの本屋に、何冊かかってきたよ」


「何買ってきたの?」


「ミステリー小説とあとは短編。」


「ふ〜ん。まぁ別に興味無いわ」


「じゃあなんで聞いたんだよ!」


「勇斗がいかがわしい本なんか買ってないか調べるためよ!」


「買わないよ! そもそも興味が無い。それにそんなの買ったんだったら素直に家族に伝えるやつなんかいないよ!」


「えっ! 嘘! ちょっとそれ見せなさい!

って、やっぱりただの文庫本じゃない!そんな言い方したら疑っちゃうわよ」


「あくまでもって話をしただけなんだけど……まぁこれは俺のせいかな。ごめん」


「あら? お母さんはむしろウェルカムよ!今どきの高校生が興味を持ってない方がおかしいわ!」


「急に会話に入ってきてなんてこと言うんだよ母さん! まぁ一概に否定できないかもだけど……高校生の誰もがそんなこと考えてるわけじゃないと思うよ」


「そうよ母さん! それに、どっちにしたって勇斗にはまだ早いわ! いい、勇斗。そういうのはね、大人になってからよ!」


「2人とも迷惑だから!それにさっきから言ってるけど、俺はそういうのには興味がないの!」


ああ疲れる。でもこうやって家族皆で笑い合いながら話すのって、なんだか悪くない。久しぶりのような気がする。



とあるIT企業内で、

(なんだか俺だけ仲間外れにされたような気がするのは気のせいか?)


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