第22話

 『だ、誰だッ!?』


 そのグリズリー型の魔物をぶっ飛ばした赤い閃光を放った者は、現在ハイエナ型の魔物の前に仁王立ちしていた。


 『すまない……遅くなった』

 『あ……貴方は……勇者様……!?』


 マザーは右肩を抑え、虚ろな表情で魔物と対峙してるその姿を見てそう聞いたのだった。


 『勇者ではない……私はヒーローだッ!!』

 『ヒー……ロー?』

 『おい! ハジメ! 喋ってる時間はねぇ! 一気にやるぞ!』

 『ああ! この子達は必ず助ける!!』


 その赤い閃光の正体は、どうやら若き頃の烈人の父、ハジメのようだ、そして共にいるのはジェットだった。


 二人はハイエナ型の魔物へと立ち向かう。


 ジェットは魔法、ハジメは素手でハイエナ型の魔物に攻撃を仕掛ける。


 ……と言うか、ハジメの攻撃が9割以上ダメージを与えているといった戦闘だったが、シスターは思っても言えない優しい人だった。


 そして、あっという間にハイエナ型の魔物を撃退した二人だった。


 『ありがとうございます』


 シスターは出血がひどく意識を保つのもやっとと言う状態だった。


 『いや、貴方の腕が犠牲になってしまった……もう少し早く間に合えば……』

 『いえ、……この子達の命が救われただけでも……』


 二人のやり取りとシスターの苦しそうな状態に耐えきれず、割って入っていくジェットだった。


 『とにかく俺の魔法で痛みを取ってやる!!』


 ジェットの両手から放つ光は、シスターの傷を防ぎ、出血を止めた。


 『念のためにこれも飲んどけ、血を流しすぎだ!』


 ジェットは自分の持ってる鞄から、なにやら小瓶を取り出し、シスターに飲ませた。


 気付け薬だろうか……。


 ジェットは医者の方が向いてるのかもしれない……そう思うシスターだった。


 『……ありがとうございました! 私はもう大丈夫ですので、他の犠牲になってる人達を救ってあげて下さい!』

 『あぁ! この世界は必ず私が救ってみせる!! 魔王軍を殲滅し、民の心が安らぐその日までッ!!』


 そうハジメが言ったのを最後に、シスターのいる記憶の世界がブラックアウトしていったのだった。


 ――――。



 「……なた、……ねぇ、あなた!?」

 「……ゆっくり目を開けてみて……」

 「ん? ……終わりなのか……?」

 「これが、私が経験した事よ……騎士さんこれでいいのかしら?」

 「あ……あぁ、すまない……あり……がとう」


 シュナイデルはシスターに礼を言うとすぐに烈人を引っ張り、シスターの部屋から出ていった。


 そして――。


 「つ……次だ!!」

 「は!?」

 「この……次は、か……彼だ……」

 「し、失礼……この彼に昔の記憶を……伝えてほしい……」

 「お、団長さん!? この少年に俺の昔話を伝えればいいのかい?」

 「ああ……、お願いする」

 「それじゃ少年!!」

 「ああ、分かってる! 手を握って目をつぶればいいんだろ……」


 シスターの次の人は、ガタイはいいが両足が無く、烈人のいる世界の『車椅子』に似た車輪付きの椅子に座ってる男性の記憶の中に入って行くのだった。


 そのガタイのいい男の過去もまた先ほどのシスター同様、魔物に襲われ凄惨なものだった。


 ――――。


 「そ……それじゃ次は……」

 「え!? ま……まだやるの~……」


 その後もジェットに連れ回され、この建物内に沢山いる民の過去の記憶を烈人に体験させていったのだった。


 ――――。


 「ううっぷ……なんか酔った……、気持ち悪い……」

 「こ……これが……この世界の悲しい過去だ……そ、それがここにいる人たちに強く刻まれている……」

 「あぁ……魔王達の残虐さは痛いほど良く分かったよ……」

 「俺が甘いってことも……」

 「親父がどんな気持ちでこの世界の人達を守り……そして魔王と戦う覚悟を持ったのかもなんとなく分かった」

 「……それを今度は俺が背負ってやらないと、この世界の人達は救われないんだな……」

 「す……すまない、勇者の息子よ……荒療治だった……が」

 「アレックスの兄ちゃん」

 「俺は烈人!! そして、勇者じゃなくヒーローだッ!!」

 「俺がこの世界を救ってやるぞ!!」


 烈人は強い覚悟を身につけたのだった――。

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ヒーローなら異世界でもなんとかなるッ!?~ヒロイセカイデ~ 雅―miyabi―雪 @miyayuki11

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