第21話

 「……こっちだ」


 シュナイデルに言われるがままに跡に付いていき、気付いたら城の敷地内に差し掛かっていたのだった。


 「おい、城の中じゃないか!!」

 「王と会うのは嫌だってさっきも……!! ……」


 (何でこんなヤツに付いてきてしまったんだろ……)


 「ち……がう」

 「ここだ……、な……中に入る」


 王の間とは違う方へ進んで行き、少し平屋建ての建物が城の中にあったのだった。


 そこに入って行くシュナイデル。


 「何で城の敷地にこんな所が!?」

 「つ……付いてこい」


 その平屋建ての建物の中に入ると、中にはこの国の民が大勢いる。


 そしてその建物内の一室の入り口でシュナイデルはノックをし、入って行くと一人の年配の女性の姿があったのだった。


 「失礼……」

 「こん……にちわ」

 「あら、こんにちわ……あなた~……誰だったかしら?」

 「こ……ここの騎士ですマザー……」

 「な!? このばあさん片手が……!?」


 この年配の女性は右肩から先が無かったのだ。


 「彼は……私の部下で……す」

 「ッ――!? ちょっとお前ッ!!」

 「シッ! ま……マザー……彼に過去にこの世界で起こった事……伝え……たい」

 「あら……私の記憶を彼に伝えるのね」


 (記憶を伝える? なんのことだ?)


 この年配の女性から昔話でも聞くのかと思う烈人は面倒なことになったと思いシュナイデルを睨みつけている。


 「あなた……そこに座って、手を貸してごらん」

 「な!? 何をするんだ?」

 「か……彼女の……言う通りに……」


 眉間にシワを寄せながらも渋々シュナイデルの言うことを聞く。


 「ああ……」

 「目をつぶって」


 言われるがまま、マザーと言う女性の左手を右手で触れ目を閉じる。


 「……ッ! これはッ!?」


 すると、マザーの記憶が頭の中に流れ混んできたのだった。


 ――――。


 『マザー!! すぐそこまで魔王軍が!!』


 そこには若かりしマザーの姿があった……。


 神父の様な男性に声をかけられたマザーは、格好からしてシスターの様だ。


 『あなた達は逃げなさい!!』


 神父の後ろには馬車があり、その中には複数の子供達の姿が見える。


 目の前には修道院らしき建物ががあり、それを見つめてマザーは続けてこう言う。


 『ここに残る子供達のほとんどが身体が不自由な子達ばかり……』

 『全員逃げきる事は出来ないわ……せめて私があの子達の恐怖を少しでも取り除いてあげるのよ』

 『……例え、魔王達に殺されてしまうその瞬間まで……ね』


 悲しい表情でそう話したマザーの目に、大粒の涙が今にも溢れ出るといった状況だった。


 『しかし……』

 『いいから行きなさい!!』


 マザーは目の涙を拭い、強く神父に言い放った。


 『くッ……! マザーに神のご加護がありますように……』


 神父と子供達を乗せた馬車は凄い勢いでマザーの元から去っていくのだった。


 『ふぅ……』


 神父達が離れて行くのを確認したマザーは、溜め息を漏らすと、修道院の中へと入って行く。


 『マザー!!』

 『あら?』

 『あなたは寝られなかったの?』


 目の前には目が開かない一人少女が立っていた。


 手には杖を持ち、地面を探ってる様子からして目が見えていないのであろう。


 『うん……何か外が騒がしくて、起きちゃった! ねぇ、何かあったの!?』

 『あなたは耳がいいものね……』

 『フフ……今日は外でお祭りがあるみたい』


 咄嗟に思いついた嘘にマザー自身無理があったなと言う苦しい表情で、その少女に続けて話した。


 『ええ? お祭り~? 行ってみたいな~』

 『……ん~、あなたにはまだ早いわねぇ……おっかない大人達もいるのよ~』

 『ええ~! それは嫌だな~……』

 『それに夜ももう遅いから寝なくちゃ』

 『そっかぁ~、私我慢する~』

 『うふ、あなたは偉いわねッ』


 マザーは少女の頭を優しく撫でる。


 『明日になったらいっぱい美味しいご馳走を騎士さんたちが持ってきてくれるみたいだから、今日はお祭りは我慢出来るかな?』

 『は~い! マザー! ねぇねぇ、一緒に寝よ~』

 『ええ……』


 寝室へと二人で向かい、マザーは少女の胸を優しくポンポンと擦りながら子守り歌を歌っている様だ。


 その寝室には小さな少年、少女合わせて10人近く寝ていたのだった。


 あっという間に少女の安らかな寝息が聞こえてくる。


 『セントホーリー・ナイト《聖夜》ッッ!!』


 マザーは子供達に何やら呪文を唱えるのだった。


 『せめて……恐怖も痛みも知らないまま安らかに……この子達に神のご加護を』


 その直後――。


 『うらぁぁ!! ん!? 子供ガキと……何だ……おばさんかよ……』


 修道院のドアではなく、寝室の壁をいきなり突き破ってくる姿があった。


 壁を突き破った音に子供達は目を覚ます事は無かった……マザーの魔法の効果の一つだろう。


 先頭に立っているのはあの獣人リュカオンの姿だ。


 『……ついに来てしまったのね……』


 『おい、お前ら!! コイツら食っていいぞ!」

 『俺は先に行く、強いヤツと戦って苦しむ姿をみたいからな~!! クックックッ!』


 突き破ってきた壁から、外へ先に出ていったリュカオンだったが、中にはまだ二体の魔物が残っていた。


 一体はグリズリーに似た大きい熊の様な身体で、それはまた大きい斧を引きずっていた。


 『ゲヒッ!! ガキの肉は上手いからなぁ~! オバサンは~……俺いらね!』


 もう一体は、ハイエナの様な顔で、両手にナイフを持ち、一つのナイフを舌なめずりしていた。


 『俺もシスターの肉はいらねぇな! ヘルシー過ぎて腹の足しにもならねぇ!』

 『早くガキ共食って勇者殺しに行くぜッ!』


 その二体の魔物はジリジリとマザーと子供達に近寄り、マザーの恐怖してる姿を楽しんでるかのようだった。


 『こ、この子達には触れないでッ!!』

 『あん? ババァ……邪魔だッ!』


 グリズリーの様な大きな魔物は持っていた斧を一振りする。


 すると、マザーの右肩から先の腕が放物線を描くようにして飛ばされてしまう……。


 『あッ……つうぅ……』

 『お!! 腕もがれても意識飛ばなかったな!! 俺の玩具おもちゃにしていいか?』


 グリズリー型の魔物はそう言うと、片手で胴を掴みマザーを持ち上げたのだった。


 『好きにしろ!! さっさとガキ共食って行くぞッ!!』

 『やッ!! 止めてー!!』


 その時だった――。


 赤い閃光が大きな魔物を吹っ飛ばしたのだった。


 『ぐおぉぉッ!!』


 グリズリー型の魔物は吹っ飛ばされた衝撃でマザーを手放した。


 そして修道院の壁を突き破り、見えないところまで飛んでいったのだった――。

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