第20話

 王の元から勢いよく飛び出した烈人とそれを追いかける碧と黄華だった。


 「ねえッ!! 烈人ッ!!」

 「烈人く~ん!!」

 「烈人!! もうッ! どこまで行くのよ!?」


 碧と黄華の呼び掛けに留まること無く、更に前へと進んでく烈人の後ろ姿は誰もが不機嫌な人だ……と、端から見ても分かる様なものだった。


 「……腹立つ……」


 烈人はボソッとそう呟くと漸く歩みを止める。


 「……ああいう生き物の命を虫けらのように扱うヤツ……許せないんだよ」

 「ましてや、あのジジイ……この国の王だろ!!」

 「え……ええ……」

 「でも、だからこそ……この国の王としての判断だったんじゃないの……かな」

 「……烈人くん……僕も碧の意見と同じかな……」

 「……ッ!! 碧や黄華までッ!?」

 「……くッ!!」


 碧と黄華が王の行動を批判しなかった事に更に苛立ったのか、見えない速さでその場から消えてしまう烈人だった。


 「あッ! れ……烈人ッ!!」

 「烈人くん!!」

 「……皆、ここにいたか……あれ? 烈人君は?」


 三人を追いかけて来たアレックスは碧達に後ろから声をかけた。


 「そ……それが……相当さっきの事がこたえたのか、凄い勢いでいなくなっちゃって……」

 「そうか……」

 「……烈人も……どうしてあんな敵の命まで気にかけてんだろ……」

 「ウム……それが彼なりの『正義』なんだろうね」

 「ふ~ん、男の子って面倒臭~い」

 「ハハ……とりあえず今は落ち着くまでソッとしておこうか……」

 「え、ええ……そうですね……」


 …………。


 少し沈黙の後、アレックスはこの重い空気を何とか解消させるべく、何かを考え……一つの提案を述べた。


 「……とりあえずどうだろうか? 色々と王都内のお店でも見てみるかい!?」

 「さすがにお腹も空く頃だろうしね!」


 案の定、碧と黄華のまるで葬式の様に暗い雰囲気が吹っ飛んだのであった!


 「は! はい!!」

 「もちろ~ん!!」


 碧と黄華の鬱々した目に輝きが戻ったのだった! グッジョブ!! アレックス!!


 ―― 一方烈人は…… ――


 「はぁ……ムカツク!! マジで腹立って……あぁ~!! 腹減った~……」


 烈人は王都内の建物の屋上で一人……ポツンと体育座りで、愚痴を言っていたのだった……。


 「金も持ってないのに飛び出して……皆の所に戻り辛い……どうしようかな……」

 「……お……おい! ……勇者の息……子よ……」

 「うわッ!! お、お前!? ……」


 急に誰もいない所から人が現れ、烈人を驚かせたのは……先ほどの王の間で出会ったアレックスの兄であり騎士団団長の『シュナイデル』だった。


 見た目は金色の短髪で鎧姿の格好の良い騎士なのだが……言葉はぎこちない上に目にはうっすらクマがあり、急に現れたりするので烈人は不気味な雰囲気を感じていた。


 「あの犬っころ殺したヤツ!! またそれかよ、驚かすなよ!! し……心臓に悪いじゃん!!」

 「……なあ!! ところでそれ!! 一体どうやるんだ!?」

 「……」

 「む……無視ですか!?」


 シュナイデルの魔法の一つなのだろう……姿を消す魔法には興味を持ったのか、烈人はその魔法のやり方を聞いたのだが、シュナイデルは無言で烈人をジッと見ていた。


 「……で、何なんだよ!! あのジジイに何か言われて来たのなら俺はもう行かないぞ!! それに!! あんなヤツのいいなりのお前も気にいらないんだからな!!」

 「……ああ……別に……構わない……」

 「ただ……これだけは知っててもらいたい……」

 「な、何だよ!?」

 「お、王は……あのリュカオンと言う……獣人に……家族と自分の妻を殺されてるの……だ」

 「なッ!?」

 「……それだけに限らず……魔王軍は……この地の人間、魔物……その他の生物……全てを滅ぼ……そうと、殺戮を繰り返していた……」

 「そ、それでも……殺し合いは平和を生まないだろッ!!」


 それだけの話を聞いても、烈人を納得させるまでに至らなかった。


 「……話しても伝わらない……ようだ」

 「す……まないが、一緒に……来て、くれ」

 「な、何だよ!!」

 「……こ、こっちだ……」


 そう言って『シュナイデル』は強行手段に出るのだった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る