第18話

 烈人達はジェットと別れ、王都へと向かっていた――。


 「スー……スー……」


 町から約一時間ほど馬車に揺られ、烈人は先程の戦闘のせいなのか目を閉じ、寝息をたて、眠っている様子だった。


 そして、黄華もまた特に何もしてないが可愛らしくヨダレを垂らしながら眠っている……。


 黄華の事だ……いつもの事ながら食べ物の夢でも見ているのだろう、時々寝ながらにして嬉しそうにニヤニヤしている。


 馬車の中にはアレックス、烈人、碧、黄華、……そして、鎖で繋がれ気を失っている獣人リュカオンの姿がある。


 「……もぅ、……よくこんな所で寝られるわよね……目の前にさっきまで戦ってた敵がいるってのに……」

 「ハハ……さすがは勇者の子って所かな! 肝が座ってるんだろう!」

 「ア、アレックスさん!! コイツは何も考えてませんよ!! あんまりコイツに期待してると痛い目見ると思いますッ!!」

 「シーッ! あんまり大声出しちゃうと、この獣人まで目を覚ましちゃうよ」


 碧は興奮気味に声を荒立てたが、リュカオンは全く微動だにしなかった。


 「あ! ……スミマセン……」

 「……まぁ、烈人は確かに凄く強いし、時々真面目な所があるのかも知れないけど……」


 少し小声になる碧。


 「フフ、……君は烈人君の事よく知ってるんだね」

 「べ……別にコイツの事なんてッ……」


 アレックスは優しく碧に微笑みかけた。


 「君たちは出会って長いのかい?」

 「……え!? あ!? わ……私達そんなんじゃありませんッ!! ……ハッ!」


 碧はまた一瞬声が大きくなってしまい、咄嗟に両手で自分の口を塞ぐ素振りを見せる。


 まるで、恋人同士にする質問のように勘違いした碧はあたふたしてしまう。


 「ん? ……ハハハッ! 質問の仕方を間違えたようだ」

 「君と、黄華君、そして烈人君三人はもう知り合って長いのかなと思ってね……フフッ!」

 「ッ――!!」


 何かを察したアレックスは口に右手を充て、笑うのを堪えられない様子だった。


 その様子を見て碧は顔を真っ赤にする。


 顔から火が出るというのはこういう事なのかと理解した碧だった。


 「……烈人、とは……ほんの少し……前、この世界に飛ばされてくる時に……出会いました……黄華とは3歳の時からの腐れ縁で……す……」


 勘違いした事が余程恥ずかしかったのか、話し方がぎこちなくなってしまう碧……。


 「なるほど! あまりにも仲が良いから三人とも付き合いが長いかと思ったよ、ハハハハッ!」

 「…………」


 碧はうつむき、顔を赤らめて言葉すら出ない様子だった。


 「アレックス様!! 間もなく王都の居城です!!」


 碧がアレックスから恥辱を受けてる最中、馬車を引く騎士よりアレックスに声がかかる。


 「むッ! そろそろか! ……君達、間もなく王都に着くよ、起きてくれ」


 アレックスは寝ていた烈人と王黄を優しく起こした。


 「ん? 着いたのか?」

 「ふあ~、良く寝ました~!!」

 「わッ!! でっかいお城~!!」

 「ん~? ……あれ……最初にこの世界に飛ばされて来たときに確認した城……ここだったんだな!!」


 そこは王都と言うだけあり、大きな門の入り口を入るとすぐ、多くの騎士達が商業を営んでる様子が見える。


 この世界の見たことのない野菜や果物、肉等を売る騎士もいれば、武器や防具を売る騎士もいた。


 他にも様々な店が王都の入り口から一直線と道なりに並んでおり、その直線上の先に一つの大きな城が見える。


 しかしながら、王都の中はどこを見ても騎士、騎士、騎士……まさに騎士だらけのみやこだった。


 「この先に見えるあの城に王が待ってるよ」

 「凄い大きいお城ね……それにしても……凄くいいッッ!!」


 キラキラと目を輝かせてる碧……、武器や防具の店の前を通る度に興奮が止まらない様子だった。


 先程、アレックスに質問された時の様子とは天と地の差があるくらいだ。


 異世界モノのゲームやラノベ好きの碧には至福の時だったのであろう……。


 そして、もう一人の少女も目を輝かせていた……。


 食べ物に熱い視線を送る黄華の姿が……。


 「……とりあえず、王にあった後でこの王都の中を案内するよ……」


 アレックスは二人の熱い視線を察し、無難に提案をしたのだった。


 そして、馬車ごと城の中に入っていく。


 王のいる間の入り口前で馬車は停止し、二人の門番らしき騎士とアレックスはなにやら話している。


 すると、門番の騎士はすぐ、その場を離れ少しすると大きな荷台を持ってきたのだった。


 荷台の上には大きな猛獣でも入れるような鉄格子の檻が乗っていた……おそらくこの中に捕らえた獣人リュカオンを入れるのであろう……。


 門番の騎士達はおそるおそるその獣人を担ぎだし、精密機械でも扱うようにして静かに檻の中へ入れたのだった。


 そしてようやく王の間の入り口が開かれるのだった――。  

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