第17話
獣人リュカオンを難なく撃退した烈人。
皆、一件が落着し安堵した様子で話をしていた。
「とりあえずこれで安心だな!!」
「もうッ! 無茶するんだから! でもまぁ、アレックスさんのところの騎士さんも無事だったから……あんたのおかげよ……」
「……え? なんだって?」
「ふんッ! もう言わないわよッ!!」
珍しく烈人を誉めたのだが、聞き取れていなかった烈人に対して苛立つ碧だった。
「ねぇねぇ~、このわんちゃんもうさっきみたいに起きてこないかな~……死んじゃった~?」
「いや、今すぐ起きては来ないだろうけど……気絶させただけだから、また起きてくるかもな!!」
「へッッ!?」
獣人がただ気絶している……と言うことを烈人により知らされた皆にまた緊張が走る。
「だってあんな頭突きだけで、死ぬ訳ないでしょ!!」
「おいガキ!! マジかよ!?」
何コイツ……訳わかんない……と言う表情で、烈人を見るジェット……。
「……ハッ!! また起き出してしまう前に、動けなくしとかねえとッッ!! おい!! 縄でも何でもいいから縛るもの探してこい!!」
「私も手伝います!!」
碧達に指示を出し、アレックスも探すのを手伝う……。
――町にある牧場に家畜用の納屋の中で鎖を見つけた碧は、それをリュカオンにおそるおそる巻き付けた。
鎖を巻き付け終わると、更にその鎖の上からジェットが錬金術の用な魔法により南京錠の用なモノを生み出して鎖にかける。
そしてようやく安心出来たのだった……。
「ジェットさんて、そんなことも出来るのね……ちょっと尊敬したわ」
「ん? まぁ、まがりなりにも一応は大魔法と錬金術、それ以外にもマスターしたからな……じゃなきゃ勇者のパーティーやってられんさ!」
錬金術を目の前で初めて見て、感動した様子の碧はジェットの見る目が変わった。
「ハァッ……それにしても……本当に心臓に悪いわ……」
「……とりあえず簡単には身動き取れない状態にしておいたが……おい! なんでトドメささなかったんだ? 町の人を殺したヤツかもしれないだぞ!」
完全に獣人を倒しきらず、危険な可能性があった事にジェットは烈人を問いただす。
「なんで? ってそりゃあ……」
「罪を憎んで人を憎まずってヤツだろ!! 殺すまでする必要はないよ!」
「なッ!?」
(こ……こいつ、本気で言ってるとしたら、甘い……甘すぎるぞ!!)
「……まぁいい、この獣人はしっかりお前らが見とけよ! 生かしたならそれなりの始末をつけろ!! いいな!!」
烈人が何を考えているか全く理解出来ないジェットは、本人に任せる事にした。
「ああ! 任せろッ!!」
「はぁッ!? 烈人一人で見なさいよッ! 私達まで巻き込まないで!」
「まぁまぁ、……とりあえずこの獣人は私達で見るとして……」
烈人と碧をなだめるようにして、チラッとジェットの方に目線を送るアレックス。
「ジェットさん……お願いします……教会の方に……」
「ああ、町の人の弔いだったな……」
アレックスは町の人の遺体の弔いをジェットにお願いし、……教会にて弔いの儀を行ったのだった――。
「――それではこれから弔いの儀を執り行う……」
町の人の遺体が入った麻袋に向かって両手をかざし、何やら呪文を唱えるジェット……。
すると、優しい光りに包まれ麻袋の中からスゥッと白い光りが立ち上り、天に舞い上がって行ったのだった。
その瞬間、麻袋の中に入っていたはずの遺体も跡形も無く消滅していたのだった。
――――。
「……ありがとうございました、彼も安らかに逝ったことでしょう……」
「ああ、別に構いやしないよ!!」
「遺体事消えてしまったわ……」
碧は見たこともない葬儀のやり方と遺体まで消えて無くなった事に驚いた。
「お前らはきっと初めてだったんだな……聖魔法で弔う事は、魂と肉体ごと神の元へ還ると言う意味を込めて看送る儀なんだよ……」
「なるほど……無事に天に還る事が出来たのね……」
「ああ……で、お前らはこれからどうするんだ?」
教会で弔いの儀を無事に終え、ジェットは烈人達に聞いた。
「あッッッ!!」
「王都の事! すっかり忘れてた!!」
烈人は色々な事が起こり過ぎて、本来の目的がすっかり頭から抜けていたのであった。
「……で、オッサンこそこれからどうするんだ?」
「俺か? 俺はとりあえず、町の皆に安全になったことを伝えて……皆町へ戻ってもらうさ」
「そのあとはまた旅に出るからな!! お前らがこの世界にいるうちにはまたきっと出会うだろうよ!!」
「そっか!! 元気でな!」
「あっさりしてんな……お前……」
ジェットは名残惜しい別れでもない素振りをみせる烈人に悲しい思いをする……。
「あなたに出会う事が出来てよかった! 勇者のお仲間に出会えたこと……一生の宝です!!」
「ああ!! そうか!? お前もコイツらといて大変だろうが頑張れよ!!」
アレックスの熱い眼差しと褒め言葉に、満更でもない様子のジェットであった。
「アレックスさんて~、結構ミーハーだよね~……」
「え、ええ……烈人に大してもそうだったかしら……」
イケメンの残念な所を垣間見た碧と黄華……。
「お前らも気を付けろよ!! 今日あったことは始まりにすぎんかもしれねぇからな!!」
意味深に言うジェットだが、当の本人はニコニコ話を聞いていた。
(……ダメだ……コイツ……)
「……はぁ……まぁ、またこんな無茶はするなよ!!」
「ジェットさん……コイツに言ったところで無駄に終わります……」
碧はジェットにボソッと皮肉を言ったのだった。
「……だな」
――――。
王都へと、向かう準備を終えたアレックスと烈人達。
ノーカの町でジェットとの別れの時が来た。
「それじゃあお達者で!!」
「ああ! またどこかでな!!」
「じゃあなオッサン!!」
「それでは、また!!」
「バイバ~イ!!」
お互いに手を振り合い、難を乗り越えた烈人達一向……。
そして次は、王都へと向かうのだった――。
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