第16話

 先にノーカの町へと戻った烈人の姿をようやく見つけた碧。


 「烈人……速すぎるのよ、もうッ!!」

 「……ええッ!?」


 烈人の元へ辿り着いた碧は驚く光景を目の当たりにする……。


 「ハァッ……ハァッ……烈人君も碧も足が速すぎますよ~」

 「ハハ……全くだ」

 「って……ええ~!!」

 「むッ!? これは一体!?」


 碧に続き……黄華、アレックスも烈人の元へと辿り着く。


 やはり碧同様……驚いた様子だった。


 「おい! そんな急ぐなよお前ら!! 敵はすぐ側に……はぁッ??」


 最後に皆の元へと辿り着いたジェット……驚いた。


 「ん? 皆、やっと来たのか!!」

 「とりあえず、アレックスのとこの騎士は助けたぞ!!」

 「あと、あの犬っころ……ぶっ飛ばしておいたよ!!」

 「…………」


 烈人が指差すその先には……顔は狼、身体は人型の獣人『リュカオン』が教会の壁に叩き込まれ、のめり込んでいる姿だった。


 「烈人……また、あの時みたいに一瞬で……!?」

 「え? ……うん……まあそんなとこかな……」

 「ここに着いたらあの犬っころが、この騎士の首を締めて何か言ってたからさ~……おもいッきりぶん殴った!」

 「…………」


 いつもの通り、あまりにもざっくりした烈人の説明に呆気に取られ、沈黙する皆だった。


 「おいおい! ……アイツ……俺が昔、戦ったことがあるヤツじゃねぇか!! ……俺は相当苦戦したんだぞ……最後はお前の親父が余裕で倒したが……」

 (……血は争えんと言うことなのか……)


 その獣人の姿をしかと見て、ジェットは過去にハジメと共に戦った時の記憶を思い出す。


 「え~、烈人君がそのわんちゃん、けちょんけちょんにするところ見たかったな~……残念~」


 黄華は可愛らしくも残酷なことをサラッと漏らす。


 その時だった――。


 「……ぐふッ……」


 獣人リュカオンが意識を取り戻したのだった。


 「!!」

 「ちょっと烈人! まだ、生きてるじゃないの!!」

 「いや、だってこの騎士を助けるためにただぶっ飛ばしただけだからさ……殺すつもりでやってなかったから……」

 「はぁッ!?」


 碧は烈人の言ってる事が意味不明だった。


 「貴様ぁ~……げほッ! ガハッ!! ……」

 「ハァッ……ハァッ……」

 「……ッ、クソッ! この俺をコケにしおってぇぇ!! ……ッ!! グボェェェ~……オロロロロ……」


 リュカオンはまともに話せないほどの大ダメージを受けていた……。


 しかも吐いた……。


 「……くぅ……許さん!! 貴様があのクソ勇者の息子なんだなぁ!!」

 「……なぁ!! あの犬……なんで俺の親父の事知ってるの!?」

 「…………」

 「……お前……さっき俺が言ったこと……聞いてたか?」


 こんな緊張する場面ですら、まともにジェットの話を聞いてなかった烈人にただただ悲しくなるジェット。


 「ごちゃごちゃとッ!! 貴様ら!! このままじゃ終わらせねぇぞ!!」


 そう言うと、致命傷にも関わらず無理矢理身体中に力を込めるリュカオン。


 「……ッガァァァァァァア!!」


 ――――。


 「ッフゥゥ……」


 町中がビリビリと振動するほどの雄叫びを上げたかと思うと、そのリュカオンの身体の形態が変化しているのに一同は息を飲む。


 リュカオンの身体中の毛は逆立ち牙も爪も大きく鋭さを増した……更には、白と青だった体毛が、真っ黒に変化し、禍々しいオーラを放っていたのだった。


 「……驚いたか……俺はあの憎き勇者をこの手で仕留める為に、ここまでの力を手に入れたのだッ!! ……ッ!! うぐッ!?」


 (……くッ……油断してたとは言え、さっきの一発が相当効いてるとはッ……次の攻撃でヤツを確実に倒さねば!! ミカエラ様に捕らえろと言われてたが……今はそんなこと言ってられん!!)


 烈人から殴られた所が痛み、一瞬胸に手を当てるリュカオン。


 ……だが、何とか自分を奮い立たせ、烈人に攻撃を仕掛けたのだった。


 「……さっきのようにはいかんぞッ!!」

 「死ねぇぇぇ!! 『音速乱打ソニック・ラッシュ』!!」


 その名の通り、高速を通り越した音速のリュカオンのパンチ……。


 音速故にリュカオンの拳は数十、数百……目で確認出来ないほどの残像を現し、更にその巨大な拳と爪により……くうを割き、地を割きながら烈人へと突進していった。


 「は、速い!!」

 「無数の拳がッ? あの時より、確実に強くなってやがるッ!!」


 剣を得意とする碧、過去の勇者パーティー、ジェットですらその『音速乱打ソニック・ラッシュ』の速さを見切る事はできなかった。


 「もう一回寝てろよッ!!」


 烈人はそう言うと身体中が真っ赤に燃え上がり、スーツの魔石が強く光を放つ。


 そして軽々と『音速乱打ソニック・ラッシュ』を見切り、リュカオンの両腕を掴み取った。


 「!!」


 一瞬の出来事でリュカオンは目を真ん丸にして驚いた……否! 驚く事しかできなかった。

 

 次の瞬間には烈人の猛烈な頭突きが……リュカオンの脳天に突き刺さったのである。


 「ゲッッ!! カッッッハァァアァ!!」


 リュカオンは地に膝を着き、崩れ墜ちながら、みるみるうちに爪や牙、身体全体が小さくしぼんでいく。


 あっという間に、最初皆が見た姿へと戻ったのだった。


 「ふぅ、今度こそ終わりかな!!」

 「……今回の敵は、まさに怪人っぽくて俺もヒーローやれた感じだーッ!!」


 ヒーローへのこだわりりが片寄ってる烈人は……満足した様子で目をキラキラと輝かせ、握りしめた両手を空に高く伸ばしたのだった。


 「……お前……無茶苦茶だな……」

 「もぅ……俺……オッサンでいいわ……」


 圧倒的で無茶苦茶な戦闘を目の当たりにし、烈人のぶっ飛んだ力を肌で感じたジェット……。


 ジェットは、烈人に自分の事を『ジェットさん』とさん付けで呼ばせることを諦めたのだった……。

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