第15話

 ジェットは……町の人々をこの基地に避難誘導した経緯を烈人達に説明した――が、ちゃんと聞いていたのは碧とアレックスのみだった……。


 「……とにかくだ!! この周辺にお前らとは違う……禍々しい大きな力を感じたんだ!」


 全く話を聞いてなかった烈人と黄華の二人に弱冠怒り気味に声を荒立てるジェット……。


 「……なるほど」

 「……もしかして、町の人の遺体があんな所にあったのはそのせいなのか……」


 ジェットの話し聞き、今までの経緯に辻褄が合ったかのように納得しているアレックス……。


 「ん? お前今なんて!」

 「いえ、……言いにくいのですが、ここに来る前、ノーカの町に来る途中の事なのですが……」

 「おそらく、魔物に切り裂かれ悲惨な死を遂げた町の人の遺体を発見しまして……」


 四人が遭遇した悲惨な出来事をジェットに説明したのだった。


 「なんだと!?」

 「ええ、……それで、その遺体の弔いをルイーゼの協会で神父にお願いしようとしたところ、町の皆がいないとなり……今に至った訳です」

 「お前……今の事はここの皆には口外するなよ……無論、神父にもだ!!」

 「こんな多人数の人々がパニックになると収集がつかなくなるからな……」


 ジェットは避難させた町の人々が混乱してしまうのを案じ、アレックスに町の皆へ話しが漏れぬよう注意した。


 「その遺体は俺が後で弔ってきてやるよ!」

 「俺も多少の聖魔法は使えるからな……」

 「そんな……スミマセン!! ……私が聖魔法を使えないばかりに……」

 「ああ? そんなこと気にするな!」


 ――。


 「……んッ!? シッ――!! お前らちょっと黙ってろ……」


 ジェットは話しの途中、何かを感じたのか……アレックスとの会話を中断し、目を閉じ胸の前で両手を合わせた。


 …………。


 …………。


 少しの沈黙の後、ジェットはゆっくりと口を開く……。


 「……どうやら、俺が感じた禍々しい方の強い力がノーカの町の近くまで来ているようだ……」


 町の人達に聞こえないよう、ジェットは小声で四人に伝える。


 おそらくジェットの探知魔法が力を感じたのだろう。


 「なんだって……あ、あそこの入り口には馬車に待機してる私の部下が……」

 「それに、町の人の遺体も教会に……」


 すぐ近くに危険が迫ってる事に焦りだすアレックスだった。


 「おい! 今は外に出るな!! ……お前の部下には悪いが……ここは耐えろ!」


 ジェットはアレックスに対して残酷な事を言ったのだった。


 「しかし……」


 アレックスは判断出来ずにいた……。


 ジェットが言うこともまた正しいと頭では分かっていたからだ。


 「万が一お前らが殺られ……そして、俺ですら歯がたたなかったら……ここに避難してる町の皆はどうなると思う?」

 「……くッ!! ……」


 更に続けるジェットに耐え兼ねたのか、烈人は思わず声を大きくして言う。


 「おいオッサン!!」

 「おまッ……また、オッサンって言ッ……」


 ジェットの言葉に……間髪入れず烈人は叫んだ。


 「うッせーッ!! 人の命はなぁー!! 多いか少ないかじゃないだろぉーッ!!」

 「オッサン!! それでも昔、俺の親父の仲間だったのかッ!!」


 烈人の言葉に対して、ジェットは言葉を失う。


 「ッ――――」


 ジェットはその瞬間……烈人の父、ハジメと共に戦場で戦っていた過去を思い出した……。


 ――――。


 『オッサン!! 魔王は私が必ず倒すからな!! 背中は預けるぞッ!!』


 魔王の軍勢に突っ込んでいく若き頃の烈人の父、ハジメの姿だった。

 この頃はまだ身体も小さく、烈人よりほんの少し筋肉が大きいのかといったくらいで、あとはほとんど烈人とソックリだった。


 『……ハジメ~!! 最後になるかもしれないからせめてこの時くらいオッサンはやめてくれッ!!』


 今とほとんど変わらない天然パーマと無精髭のジェットの姿があった。


 『ハハハ!! この戦いから無事に生き残れたら考えておこう!!』

 『では行くぞッ!!』


 魔王軍との戦いだというのに、どこか楽しそうな表情を見せるハジメの様子がそこにはあったのだった――。


 ――――。


 「俺は行くぞッ!!」

 「……ハッ!!」


 そう言うと、烈人は物凄い勢いで外に出ていき、その言葉に我に返ったジェットだった。


 「……私達も行きましょう!!」


 そのすぐに跡を追う碧。


 「アレックスさ~ん……」

 「……ああ、行くしかないようだ!!」


 黄華もアレックスも碧に続きルイーゼの町へと向かったのだった。


 …………。


 「ちッ……こんなガキ共に教えられるとはな……何十年も経って忘れてたぜ……大事なモノを……」

 

 (ハジメがあの時もずーっと口にしてた『』……か)

 (あのガキが言ったのも、きっとなんだろう……やっぱりお前の息子なんだなぁ……)


 「あぁもう!! しょうがねぇな!! 俺はオッサンじゃあねぇッつーの!! これが終わったらちゃんと『ジェットさん』って呼んでもらうからな!!」


 そうボソッと呟き、頭をガシガシと掻き上げると……烈人達の跡を追うジェットであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る