第14話

 隠し通路を発見したアレックスと三人は、灯りのない暗い階段を降りていく。


 アレックスは手のひらを前にかざすと、手のひらより小さな火が灯った。


 おそらくこれも彼の魔法だろう……それを灯りの代わりにして進んでいく三人だった。


 「それにしても、……魔法って便利よね……」

 「いいなぁ……魔法……なあ! アレックス~……俺にもできるかな?」

 「ん? 君たちは魔法が使えないのかい?」

 「すまない、自分ばかり自然と先にやっていたもので……気付かなかったよ……」

 「そもそも、僕たちの世界じゃ魔法が無かったからね~」

 「うむ……魔法のない世界から来た者に期待をさせてはいけないのだろうけど……もしかしたら……」


 話の途中で階段を進んでいた所、大きな鉄の扉に差し掛かった4人だった。


 「魔法についてはまた後ほど話そう……」

 「……して、この先がどうやら怪しいが……どんな危険が待ってるやもしれない……」

 「一旦引いて王都より援軍を連れて来るのも手だが……」

 「アレックス!! 俺たちはヒーローだぜ!! どんな危険や困難があろうと、人々を一番に助けるのが俺たちの役目だ!」

 「そうね! 今は烈人が言う事に賛成するわ! ……アレックスさん! 私たちを信じて! 前に進みましょう!!」

 「……そうか、わかった! では開けるよ……」


 そう言って、アレックスは重い鉄の扉を押し開ける……。


 「むっ!?」

 「これは……どういうこと?」


 扉を開けると……そこには想像していた光景とは予想外の事態に、困惑する四人だった。


 「どうしてこんな地下に広い空間が……?」


 アレックスは他の三人の誰よりも驚いていた。


 「おそらく町の人々は皆ここにいるみたいなんだけど……」

 「なんだか、テント張って、……まるでここに避難してきたみたいだね~」

 「なんだ~……開けたら、敵でも出てくるかと思ったけど……考え過ぎだったな!」


 烈人達三人が、その人々の様子を見て安心していた所、後ろから声をかけられる。


 「おいッ! そこのお前らッ……」


 四人はその声の方に振り向くと、安心から一気に緊張に変わるのだった。


 その声の先には……烈人達がこの世界へ来ることとなった元凶の者と同じ格好をした姿があった。


 「……お前はッ!? 黒いボロ!!」


 烈人はすぐに戦闘態勢をとり、その声に反応した碧、黄華、アレックスも同じように身構える。


 「おいおい! 物騒だなお前らッ!」

 「誰と間違えてるか知らんが、お前たちもここに避難してきたのか?」

 「……!!」

 「あれ? 黒いボロって、こんなオッサンみたいな声だったっけ?」

 「いや、多分女性の声だったような気がするわ!」

 「誰がオッサンだって! 物騒な上に失礼だな!! ……ったく!」


 そう言って、その黒のボロと思われた者は黒い布のフードをとって顔を見せる。


 髪の毛はパーマがかかってるような剛毛で、無精髭を生やし、顔の頬には過去に切られたであろう傷痕があった。


 「……ったく、これから炊き出しの準備だってのに……お前らも避難者なら手伝えよ!!」


 どうやら無精髭のオッサンは烈人達が町から避難してきた者だと勘違いしているようだ。


 アレックスはそれに対してこう応えるのだった……。


 「すまないが、私たちは町の者でも……ここに避難してきた者でもないんだ!」

 「ノーカの町の人々が誰もいなくなっていたのを怪しく思い、探してる内にここへ辿り着いたんだよ」

 「……ん? と言うことは、お前らだけでここに辿り着いたって事か?」


 無精髭のオッサンは驚いた様子で、声を上げる。


 「ああ! ……俺たちがあの偽装された入り口を見付けたんだぜ!」

 「こら! 烈人は何もしてないでしょ!!」

 「黄華とアレックスがいなかったらここに来れなかったんだからね!!」

 「……は、はい……」


 烈人が調子に乗る前に、それを阻止する碧。


 「ッ……参ったねぇ……、俺の偽装魔法をお前らみたいな若者に簡単に見破られちまうとわ……」


 無精髭のオッサンは、頭をボリボリと掻き、少し困惑した表情を見せた。


 「あの魔法……貴方がかけたのですか!?」

 「一体……貴方はどういった方で……」


 アレックスは質問する。


 「ん? お前騎士か? なら……俺の名前を聞けば分かるか?」

 「……『ジェット・ブラック・ダルクネス』……それが俺の名だ」


 そう名乗ると、無精髭のオッサン……もとい、ジェットは羽織っていた黒のボロを捲り上げる。


 「なんと!!」


 名を聞いて驚いたのもあるが、何よりその姿にアレックスは驚愕することになる。


 ジェットはボロの下に、烈人や、碧、黄華と同じようなスーツを身に付けていたのだった。


 スーツの色は漆黒といったところか、胸には烈人と同じように黒い魔石が埋め込まれていた。


 「まさか……あの勇者のパーティーの一人にこんな所で出会うなんて……」

 「えっ!? 勇者のパーティー!? この人が?」

 「フッ……もう、何十年も前の話しだがな」


 アレックスが言うには……どうやらこのジェットと言う男は、過去に勇者と共に戦ったパーティーの一人だということが分かった。


 「なぁ、黄華……『パーティー』ってなんの事だ? 楽しい事したりするパーティーじゃない……よな?」

 「……烈人くん……皆が言ってるパーティーって言うのは、『仲間』って事だよ~」


 烈人は碧に怒られたくなかったのか、小声で黄華に話しかけ……黄華も小声で応えた。


 そして、なんとなく理解したっぽい烈人がジェットに質問する。


 「なあ、オッサン! オッサンはなのか? その黒い……俺達が着てるのとソックリなんだけど!!」

 「誰がオッサンだ!! さっきからお前オッサンって連呼しすぎだぞ! それに俺はまだ35歳だぞ!! ちゃんとジェットさんて呼べよなぁ……ん?」


 ジェットは眉間にシワを寄せ……烈人、碧、黄華の格好をじっくりと確認した上で話し始める。


 「お前! 今俺のこのの事、……鎧じゃなくって言ったよなぁ? それに、俺の事をだとか……」

 「……ん~……なんか、聞いた覚えがあるような……それにお前、どこかで……」


 ジェットは顎に手を当て、自分の無精髭を擦りながら何か思い出そうとしていた。


 …………。


 「……!! お前! ハジメかッ!? その赤の鎧! ……思い出した! ハジメの鎧だろそれ! 鎧の事スーツだって言ってたよなぁ!?

 「それに俺が若い時からオッサンって何度言っても聞かなかったッけか」

 「お前……何十年もどこに行ってたんだよ! なんか、小さくなってねぇか? そりゃ中々思い出せねぇわけだよなぁ……」


 ジェットは思い出したように烈人に話しかける。


 「オッサン! 一人で盛り上がってるとこ悪いんだけど、俺はハジメじゃないよ! 烈人って言うんだッ!」


 …………。


 「は?」


 ジェットはどういうことかわからない表情で、アレックスや碧達に目を向けるが、碧達も『ウンウン』と頷く事しかできなかった。


 「アレックスさん……お願いします」


 説明するのが面倒なのか……碧はアレックスに丸投げしたのだった……。


 事の発端をアレックスは丁寧にジェットに説明する事数分後――。


 「……なるほど! ……するッてぇとお前はハジメの息子って事になるんだなぁ……」

 「まさか、ハジメが違う世界に飛ばされて、そしたら今度はその息子がこっちに飛ばされて来るとはねぇ……」

 「そうか、そうか……大変だったなぁ……」

 「……このオッサンが言ってるのが本当なら、その勇者『ヒーローハジメ』ってのはやっぱり俺の親父なんだな……」


 烈人はジェットの話しを聞いて、なんだか複雑な思いだった。


 「聞きたいのですが! ……どうしてこんな所へ?」


 烈人の表情を呼んでなのか、話を切り替えるアレックスだった。


 「ああ? そうだな……それは――」

 「俺はハジメ達と魔王を倒した後、ハジメは行方が分からなくなり、他にいたパーティーもそれを機に解散しちまった……」

 「そして俺は一人、国からの多大な報酬で全国を旅していたんだよ……この世界は平和になったしな」

 「……そうやってずーっと旅してたらよ、昨日いきなりこの付近一帯に大きな力を感じたんだ……しかも二つもな……」

 「俺は索敵魔法が得意だからよ、その都度魔法を使用しなくても、一定の範囲内なら良いも悪いも力を探知するんだ!」

 「そして、その力の一つがお前たち……」

 「そして……もう一つが、禍々しい力だったんだよ!!」

 「俺は、なんつーか、戦士の勘ってヤツで……せめて最悪の事態が起きんようにあの町の皆をここに避難させたって言う訳だ!」

 「ここは、昔、魔王軍と対抗するべく俺ら勇者パーティーの隠された基地でもあったからな」

 「この場所は勇者とそのパーティーしか知らない場所なんだよ……」


 ジェットは町の人々を町からここへと誘導した経緯を皆に説明した。


 …………。


 「……長い!!」

 「オッサン!! 説明長ぇよ!! 半分以上何言ってるか分かんなかったじゃんッ!」

 「……そもそも町の皆も、よくこんな怪しいオッサンの言うこと聞いてこんな怪しいとこに逃げて来たな……」

 「…………、ふぁ、ん~~……ん? 終わりました~?」


 烈人は……やはりほとんど理解できず、そして黄華は……話し半ば、夢の中へと旅立っていた……。


 「お……お前らぁ……やっぱり失礼過ぎやしない!?」


 ジェットはこの時、心が折れかけていたことは言うまでもない……。


 「す、スミマセンでした!!」


 アレックスと碧は、ジェットに深々と頭を下げたのだった――。

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