第9話

 「……ぅ……かー!!」

 「……おーかー!! いつまで寝てるのよ!! 早く起きなさいッ!!」

 「……へへ~……まだまだ食べれますよ~!!」

 「黄華ッ!! 何寝ぼけてるのッ!!」

 「食事が出来たって、メイドさんたちと烈人……もう先に行っちゃったわよ!!」

 「! ひゃいッ! ……あ、あれー……ごめん……僕寝てた~?」

 「もう! 相変わらずマイペースなんだから!! 私たちも行くわよ!」

 「……あ、まってよ~」


 一足遅れて、碧と黄華も食堂へとやってくる。


 三人の前に出された食事は、予想を遥かに越えて豪華なものだった。


 ……黄華だけ、人一倍目を輝かせていた。


 「す、すごいわね……」

 「わ~!! 見たことない食べ物がいっぱいだよ~!!」

 「ハハ! 皆集まったようだね」

 「それでは、しばしの間食事を楽しんでくれたまえ!」

 「はーい!!」


 三人は見た事のない食事を夢中で食べていた。


 黄華は、二人の倍以上の食事の量を目の前に持ってきてがっついている。


 ――。


 「ぷは~、美味しかった~」

 「この世界の料理も中々合うわね!!」

 「うぅ、食べ過ぎた~……お腹くるしぃ~……」

 「黄華は食べ好きよッ!!」

 「へへ~……お腹空いてたからつい~……」

 「フフッ! 喜んでもらえて何よりだ……」

 「それじゃあ、食事も済んだ所で……少しいいかな?」

 「はい!!」


 アレックスは食事を終えた三人に話始めた。


 「いきなり本題に入るのだが……」

 「まずは……町での出来事だけど……」

 「その君が着ている鎧について、質問があるのだが……」

 「鎧? あぁ……このスーツの事ね!!」


 烈人がアレックスの質問に応え始める。


 「ふむ、スーツというのか……」

 「ではそのスーツの事だが……」

 「……はい」

 「おそらく……勇者の所有していた物に間違いないであろうと私は考えるのだ……」

 「えッ!? ……それはどういう……」

 「うむ……それは、さかのぼる事20年程前――」

 「この世界に一人の勇者が突如として現れたと聞く……」

 「その、勇者にまつわる文献にはこう記されてあったのだ……」

 「勇者は、……深紅の鎧を身に付け、鎧の胸元には赤い魔法石が埋め込まれていた……、そして勇者は炎のオーラを纏って魔王軍を薙ぎ倒していったのだ……と!!」

 「!!」

 「それって……」


 そうアレックスが話すと、碧も黄華も驚いた様子で烈人の方に目線が向く……そして烈人のスーツの胸元にそれは確かにあったのだった。


 「君が言うそのスーツとやらの胸元にあるその赤い石……それが何よりの証拠となるのだよ……」


 「ハハ……何言ってるんですかアレックスさん!!……このスーツが……勇者のもの?」


 烈人は困惑していた様子だった。


 「そう言えば……確かに、ここに来る前のヴィランとの戦いの時……炎に包まれているような時があったのを見たはずだわ……」

 「……うん……僕も見たと思う!!」

 「普通では考えられないスピードとパワーだったもんね……」

 「……でも、なんで烈人とこの世界の勇者が関係あるのかしら……」


 アレックスは話を続ける。


 「ちなみに、魔法石は魔力を込めるとそれに応じて反応するんだ……少し試してみても……?」

  

 そう言うと、烈人のすぐ前に立ち、胸の石に触れ何か力を込めるような素振りを見せる……。


 ……すると、そのスーツの胸の丸くて赤い石は、中の方から強く光出したのだった!!


 「烈人君……今の僕の話を聞き、これを見て……何か心辺りあるかい?」

 「いや、勇者なんてあったことも見たこともないし、そもそもこのスーツは今朝親父に渡されたんだ……」

 「……あ! スーツと勇者の事とは別なんだけどッ!」


 思い出したようにして、烈人はアレックスに話しを告げた。


 「……俺たちそもそも違う世界で戦ってて、そこで黒いボロ着たおっかないヤツにここへ飛ばされて来たんだけど、……その情報はアレックスの役に立つ?」


 烈人の話した応えが思わぬ方向へと展開しだす。


 「ん? ちょっと待って、今なんと?」

 「違う世界から来たって? ……それに今、『黒いボロ』と言ったかい!?」

 「あ、うん……」


 (あれ……、なんか、まずいこと言ったかな)


 今まで、やんわりとした雰囲気だったアレックスは急に険しい顔になり、続けて話す。


 「……つまり、君たちはこことは異なる世界から……その、『黒いボロ』の力によって飛ばされて来た、……と……」

 「すまないが、最後に一つだけ……」

 「烈人君! 君の父の名前を教えてもらっても?」

 「うん、……『緋色一』だよ!!」


 …………


 その名を聞いたアレックスは難しい顔をした表情で下に伏せ、少しの沈黙の後、顔を上げると三人に告げた。


 今までの話をアレックスの回転の良すぎる脳が一つの応えを導き出すまでにものの数十秒も経たなかっただろう……。


 「……かつてこの世界を救った勇者の名は皆からこう呼ばれていた……」

 「『ヒーローハジメ』と!!」

 「烈人君……君の父親と似た名前なんだよ……」

 「なッ!?」

 「……そして勇者は、魔王を倒しこの世界を救ったのも束の間、彼は忽然と姿を消したんだ……」

 「つまり、この世界にいた勇者は君たちの世界へ何らかの形で転移したのだろう……」

 「そして、今度は君たちがその『黒いボロ』の手によってこちらに連れてこられた……という事になるのだが……」


 会話の途中アレックスは押し黙った。


 先ほどの険しい表情も更に物々しさを増し、一瞬話そうとして止め、唇を噛み締めた動作が……一掃重い雰囲気を漂わせたのだった。


 そして、ようやくアレックスの重い口が開かれた。


 「……先ほど君が言ってた『黒いボロ』という者、もしその者が私の思ってる通りだったらまずいことになるやもしれない……」

 「まずいことって!?」


 烈人に代わり、碧が声をあげた。


 「うむ、……ここまで話したから最後まで話そう……」

 「私の予想であるが……黒いボロというのは、勇者が倒した災厄の魔王『サタニエス』の下僕であり、その名を『ミカエラ』と言ったそうだ……」

 「そしてミカエラは時空を操る魔法や、防御魔法を得意とした……と、文献に載っていたのだが、その他の詳しい情報は載ってなく謎ばかりなのだ……」

 「最期は魔王戦にて死亡……と記されていたが、壮絶な死闘故に亡骸すら残らず消滅したとなっており、その姿を確認したものがいなかったそうだ……」

 「ということは……まさか!」

 「……ああ、君は察したようだね……話が早くて助かるよ!!」


 碧は今まで熟読したラノベの知識と情報量からして、今回の展開にも結論が至り、他の二人よりも理解が早かったようで、アレックスから誉められた。


 「つまり、魔王『サタニエス』の下僕だった黒いボロ『ミカエラ』は何らかの形で生きていたということね!!」

 「そして、烈人や烈人のお父さんに復讐するためにどんな災いをもたらすかわからないと!!」

 「うむ、そういうことになるな……」

 「今の段階では、憶測ばかりの話になるが……その可能性を考慮して、私も騎士団として務めを果たさなければならない」

 「今から王都に行き、この事を報告せねば!! メイド達よすぐに馬車の準備を!!」

 「いつ動き出すやも知れぬ敵に、守りを固めねばならない!!」

 「魔王が生きた時代から比べれば、しばらくの平和が続いた今、軍の力も当時に比べ……かなり弱まったと言われている……」 

 「私の憶測のまま、何も起こらないことを願いたい所だ……」


 鬼気迫る状況に、アレックスは即座に対抗手段をつくるため、王都に向かう準備をメイドたちに命じた。


 「……長々すまなかったね、私はこれからこの旨を王都に伝えて来る! もうそろそろ日が暮れてしまうが……もし君たちが良ければ、このまま私の屋敷にいてくれて構わないのだが……」

 「え、いいんですか?」

 「ああ! もちろん! もし君が本当に英雄の息子だったなら、後世に残せる自慢になるからね!!」

 「この時間からだと、明日の早朝までには戻ってこれればいいところかな……では、行ってくる!!」

 「あとのことは、エリーゼとメイド達に任せましたよ!!」


 そう言ってアレックスは夕日が落ちてしまう前に、王都へと急いだのだった。

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