第8話

 碧の意外な一面に、今まで苦手意識があった彼女に対して……ほんの少し、気が楽になった烈人。


 そしてようやく行動に出る三人だった。


 「それじゃ、気を取り直して町の人に声をかけてみよ~!!」

 「そうね! それなら私が話しかけてみるわ!!」


 先ほどのテンションのまま、碧は興奮気味でやる気を見せた。


 (もしここが異世界であれば、私たちの言葉はこの世界の誰にでも通じるはず……行動あるのみね!!)


 「それじゃあ、行くわよ!!」

 「……あのぅ、……すみません!!」

 「ちょっといいですか?」


 碧はすぐ近くにいた小人の老人に声をかけた。


 「…………」

 「……あれ? すみません! ちょっと聞きたいんですけど!!」

 「…………」

 「……え? もしかして……言葉が通じないの?」

 「…………」

 「どうして? 思ってたのと違うわ……」


 碧は小人の老人の思ってもなかった反応に急に焦り始めた。


 そこで、みかねた烈人が前に出て来たのだった……そして……。


 「じぃちゃーーん!! ここってどこーー!!」

 「!! ちょっ……! 烈人!! 声でか過ぎ!! 心臓が止まるかと思ったわ……、て言うか……そのおじいさんもビックリするでしょ!!」


 町中に響き渡るようなでかい声で、この小人の老人に向かって言った。


 「……あぁ、なんじゃお主らは? ……ここは『アルエイダ』じゃよ」

 「!! なっ!?」

 「ハハッ!! お年寄りには耳もとで大きな声で話さないとッ!! 碧の小さい声じゃ聞こえないよッ!!」


 烈人は、お年寄りには大きな声で話しかけるのが当たり前……と、言わんばかりに碧に言った。


 この小人の老人の耳がとても遠かっただけだった……。


 「じぃちゃん!! ありがとねー!!」


 この町がアルエイダと言う名前だと言うことを確認した烈人は、再びバカでかい声で小人の老人に礼を言い、手を振って見送った。


 「良かったね!! 言葉通じたよ~!!」

 「…………」

 「あれ? どうしたの碧~?」

 「今度と言う今度は……絶対許さない!!」

 「えぇッ!? ……なんでー!?」


 黄華は碧に声をかけたのだが、彼女はそれどころでなく……烈人にバカにされたと思い、激怒した様子で己の腰に付けていた日本刀の鞘に手をかけ、烈人に向かって構える……。


 その時だった――。


 「ねぇ、あの人たちもしかして……」


 先の烈人の大声に反応した町の人々がヒソヒソと話始めた。


 「……え? あの格好ってまさか……」

 「おいおい、マジかよ……さっき大きな声出してたあのお方は……」

 「いにしえより~、伝わりし~、伝説の~……」

 「そうよきっと!!――」

 「……勇者様だー!!」


 老若男女、種族問わず町中の人々が声を一つにし、……気付けば三人の周りには人だかりができていた。


 人々は烈人たち三人を取り囲み……そして個々に話始める。


 「勇者様バンザーイ!」

 「この世界を救って頂きありがとございます……」

 「ねぇねぇ!! 僕も勇者に憧れて――」

 「おぉ、なんと神々しく気高いお姿じゃ……」

 「勇者さん方よぉ!! 是非とも俺にサインを――」

 「私の旦那も、この勇者様のように人の役に少しでも……」

 「勇者様方~、うちの畑で取れた野菜たち是非とももらってって~――」


 …………。


 「えッ? ……え~ッ!?」

 「すみません!! 俺たち勇者じゃないんですけどぉ~!!」

 「ちょっとなんなのよ? これは一体どう言うことなの?」

 「皆さ~ん! 何か勘違いしてますよ~!!」


 三人は戸惑い、否定するものの、町の人々には一切耳に入ってなかった……。


 (……勇者だって?)


 町の人々の騒ぎに、一人の男が強引に割って入ってくる。


 「ごめん!! ちょっと通してくれ!!」

 「キャッ!!」

 「なんだなんだ~?」

 「痛ッ!! 何すんだよ……!? ……あ、あなたは……」

 「……騎士団副団長の『アレックス』様!?」


 長い金髪、青い瞳をしていたこのイケメン『アレックス』という騎士はどうやら騎士団の副団長らしいのだが、騎士団というには軽装……というか、ワイシャツに黒いズボンで腰に短剣のみ装備……といった格好だった。


 「皆、失礼!! ……勇者が来ていると耳にしてこちらに来たのだが……」

 「え? 誰だこのチャラい兄ちゃん?」

 「しっ!! 烈人は黙ってて!! 町の人達が騎士団の副団長って言ってたの聞こえなかったの? ……偉い人よ!」

 「……ふむ、……皆のもの聞いてくれ!!」

 「……この者らは、勇者の格好をしてるが……どうやら、ではないようだ!」

 「!! ……え~!!」

 「なんだよ~……人騒がせにも程がある……」

 「ちょっと!! あんたたち!! その野菜返してよッ……ったくも~!!」

 「そんな格好して、紛らわしい!!」

 「副団長さんよ~、……この世間知らず達によ~く言っといてくれや!!」

 「は~あ、時間の無駄した……帰ろ帰ろ!!」


 町の人々は、最初とは全く反対の態度で烈人達を罵倒し、波が引くように烈人達の周りから去っていった。


 「……すまない!!」


 この騎士団の副団長、アレックスは町の人達が離れて言ったのを見計らって烈人達に頭を下げて謝罪した。


 「あの場を収めるにはあの方法しか思い浮かばず……面目ない!!」

 「えッ? いや、……私たち勇者じゃないのは本当の事だし……」

 「俺は町の人々からあーだこーだ言われて腹立ったぞ!! お前が謝るのは当然だなアスレチックス!!」

 「うっさい!! 烈人!! ハウス!! そもそも名前思いっきり間違えてるわ!!」

 「……はい……」


 (もはや犬扱いですか……)


 「ま~ま~、二人とも落ち着いて~」

 「フフッ!! ……いや、失敬……とりあえず場所を変えてもいいかな?」

 「すぐ近くに私の家があるのだが……そちらで茶でもどうだろう!?」

 「あの~……いいんですけど~……なんか食べ物とかもあります~?」

 「……ハッハッハ!! それなら……大したものは出せないけど、ご馳走するよ!! 着いてきたまえ!!」

 

 黄華の可愛らしい図々しさに思わず吹き出してしまうが、優しくニコッと微笑むアレックスだった。


「先ほど聞いてたかも知れないが改めて、……私は騎士団の副団長アレックスだ……今日は非番でたまたま妻に使いを頼まれていて町に出ていたのだけれどもね……まさか町の者達に勇者だと騒がれてるような者に出会うとわ……」

 「それじゃあ行こうか! 私の家はすぐそこなんだ!!」


 町の人々の前では威厳ありそうな話し方をしていたけれど、三人の前では少し砕けた話し方になったように見える。


 そして言われるがままアレックスに付いていく三人……。


 途中、町の商いや、建物など風景を楽しんでるうちにあっという間にアレックス邸へと到着する。


 「どうぞ! 我がアレックス邸へ」

 「うわっ!! でけー!!」

 「こんなの……お屋敷じゃない!!」

 「わ~!! どんなご馳走が出るのかな!! ワクワク!!」


 アレックスの家はかなり大きな屋敷だった。


 「お帰りなさいご主人様」

 「お帰りなさいアナタ! ……あら? 御客さん?」

 「あぁ、ただいま! 今帰ったよエリーゼ! お前たちもご苦労!」


 出迎えてくれたのは、この屋敷の使用人であろう無表情だけど可愛らしいメイド二人と、アレックスの妻『エリーゼ』だった。


 「たまたま町で出会ってな……すまないがこの客人に食事を頼む!」

 「えーと、彼らは……名前をまだ知らなかったね、聞かずに申し訳ない……」

 「あ、今更ですみません!! 俺は烈人です」

 「私は碧って言います!」

 「黄華で~す!!」

 「……だそうだ!」

 「食事の準備が出来たらメイドより声をかけさせるので食卓へ集まっていただいてもいいかな?」

 「食卓は一階のすぐ左の大きな扉の向こうにあるので、それまで御客人は客間の方でゆっくり休んでくれ! 私も少し着替えて来るのでね! それではまた後ほど」

 「皆さんもどうぞゆっくりしていってくださいね」


 エリーゼは烈人たちにそう言うと、優しく微笑んだ。


 「メイドよ、御客人を頼みましたよ……」

 「はい、アレックス様!」

 「それでは皆様方、こちらです」


 アレックスとアレックスの奥さんに会釈し、メイドの誘導に従って動く三人。


 「こちらでどうぞおくつろぎください、後程お声をかけに参りますので…… それでは……」


 そう言って三人を客間に誘導すると、メイドたちは食事の準備に移るのだった。


 「……ふぅー!! なんか知らないけど……疲れたー!!」

 「なんかどっと疲労感が来たわね……」

 「ちょっとお腹すいたけど……眠くなってきちゃいました~」


 ――。


 客間に誘導され、烈人たちは個々に大きなソファーで倒れ込むようにして横になった……


 こちらの世界に来てから、やっと落ち着けたのかしばらく皆何も言わず休むことにしたのだった。


 もちろん黄華は、すでに一人……夢の中へと旅立っていたのだった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る