第3話

 青色と黄色の二人のヒーローたちが戦っているというのに……。


 烈人はまるで蚊帳の外にいるようにもどかしさを感じていた。


 (うぅ、……俺もヴィランと戦ってみたかったなぁ……)


 すでに、この二人によって数百体は倒されているであろうにも関わらず、次から次へとヴィランたちは懲りずに二人に挑んでいくのだった。


 (本当に一体何体いるんだろう?)


 烈人は……ヴィランの数の多さに感心させられていた。


 そして、数百体はやられたであろうヴィラン達とは違い、今度は身長が二メートル程あり、筋骨隆々な二体のヴィランが現れる。


 そしてこの二人に向かって行ったのだった。


 「うわっキモい!!」

 「えぇ~? いい筋肉してるじゃ~ん!!」


 青色のヒーローは、嫌悪感全快……。


 黄色のヒーローは興味ありそうな眼差しで二体のゴリマッチョヴィランを見て言った。


 「私……マジで無理!! 斬るッ!!」


 一瞬にして青色ヒーローに倒されてしまったゴリマッチョなヴィラン二体……。南無三……。


 さすがにこれに恐れをなしたのか、普通のヴィランたちは撤退していく様子だった。


 (お~い!! ……あの二体のヴィランが倒されたくらいで、撤退するって……)


 戦いを影から見ていた烈人はツッコミたかったが心にとどめた。


 その時だった――。


 「フハハハハハハ!!」


 不気味な笑いが響き渡る。


 崩れかけたビルの屋上から聞こえる、笑い声の方に烈人と他の二人のヒーローが目線を向けると、そこには……。


 親とはぐれてしまったのか……この町から逃げ遅れてしまった女の子を人質にしたヴィランのボスらしき男が立っていた。


 「ハーハッハッハ!! 我はアーチヴィラン!! このヴィランを率いる総裁である!!」

 「この少女の命が惜しければ、降伏せい!」

 「くっ!! なんて卑怯な!!」

 「助けてやりたいが、少し距離が離れすぎている……」

 「僕の武器じゃ、あの女の子まで傷つけちゃうよ~、ねぇ~ブルー!! どぉしよ~!!」


 先ほどまで……余裕で数多くのヴィラン達を無双していた時とは違い、青色ヒーローは苦悶の表情を浮かべ悔しそうに……黄色の子供ヒーローは困ったように地団駄踏んでいた。


 離れてヴィランとの戦いを見学し……逃げていなかった烈人が瓦礫の影に潜んでいることに、アーチヴィランと二人のヒーローは全く気づいていなかった。


 (んー……、このまま何もせずにいる訳にもいかないし……あの女の子に危険が及ぶと悪いな!!)

 (皆……俺の存在すら眼中にないみたいだから……今がチャンスかな……)

 (よし行くか!!)


 次の瞬間――。


 烈人はアーチヴィランのすぐ後ろに立っていた。


 「なっ!!」


 二人のヒーロー……そしてアーチヴィランも同じ反応で驚く。


 それも束の間、アーチヴィランに捕まった少女と烈人がその場から消え、今度は二人のヒーローの目の前に現れる。


 「!!」


 二人のヒーローは言葉も出ず、ただ唖然と驚くばかりだった。


 「ねぇ! 二人のヒーローさん、この子を頼んでもいいかな?」

 「俺はあのアーチヴィランってヤツと戦ってくるから!」


 烈人は助けた少女を二人に託し、アーチヴィランをの方を見上げそう言った。


 そして青と黄のヒーローは唖然としたまま頷くのであった。


 「……なんていうスピード……私ですら目で追うことも出来ないなんて……」

 「さっきは悪かった……とにかく少女は任せろ!!」


 驚いた表情を何とか平常に保とうと、青のヒーロー少女は何とか口を開いた。


 「うわ~!! すごいね! 全然見えなかったけど、君の技なのかな~?」


 黄の子供ヒーローも続け様に烈人に声をかける。


 「え!? え~と、……めっちゃ頑張って走った!!」


 烈人は決め顔で親指を立ててそう言うと、二人のヒーローはまたさらに口をポカンと開け呆気にとられた様子だった。


 そして燃え上がる炎のようなオーラが烈人の身体に宿り、烈人は二回ほどピョンピョンと跳ねた後、息を吐いてリラックスして構え、戦闘体制をとり始める。


 「俺、ヴィランとの戦闘……今日が初めてで……いきなりヴィランのボスとやりあうとは思わなかったよ……」

 「ぬぬぬ!! ……この我が……全く動きすら掴めないとは……何者だ!! 貴様!!」


 よくぞ聞いてくれました! ……とでも言わんばかりの満面な笑みで烈人はハッキリとこう言った。


 「俺か!? ……俺は『ヒーロー』!!」

 「ヒーローレッドだッッ!!」

 「さっきの俺の動き……見えてなかったみたいだから、最初から本気でいくね!!」 


 そう言った瞬間、烈人の姿が消えてなくなる。


 「ぐはっ!?」


 アーチヴィランは何が起きたのか分からなかった……気付けば後方に吹っ飛んでいる自分がいたと思った直後に気を失うこととなる。


 アーチヴィランは、サンドバッグをプロのボクサーが打つ音よりも大きく、鈍い音が響いたと同時に、ビルの屋上の端から端まで吹っ飛び、屋上の壁を突き破り、そのまま地面に落ちていくのだった……。


 「……え!? 終わり!?」


 烈人はアーチヴィランに重い拳を入れて吹っ飛ばし……ビルから落ちていったところを凄いスピードで追いかけると……意気消沈する。


 そのままアーチヴィランは意識を失い、戦闘不能となっていたのである。


 烈人はあまりにも呆気ない戦闘に愕然としたのだった。


 「ねぇ~!! 赤色のヒーローさん!! もしかして……もぅ倒したの~?」


 黄色の子供ヒーローがそう言って近づいてくる。


 青色のヒーローと助けた少女の姿は、そこには見当たらなかった。


 「あ!! あの子はブルーがシェルターまで送り届けに行ったよ~」


 烈人が、助けた少女を気にする様子に気づいたのか……黄色のヒーローは続けて話す。


 「君のスピード程じゃないけど、彼女の早さもかなりのものだからね~」


 「……ところで、君は何者だい? 僕はイエロー!! 名は黄色の黄にくさかんむりの方の華って書いて『黄華おうか』だよ!! よろしく~!!」

 「イエロー……、黄華ちゃんね!!」

 「俺はレッド!! 名前は緋色烈人、16歳になったばかりで、ヒーローとしてはまだまだ新人だけどよろしくね!!」


 ヒーローとしての活動は特に厳しい規定はないが、国がヒーローと認める年齢の基準が16歳からなのであった。


 「16かぁ~、……それじゃあ、いちお~私の方が17歳だから年上なのでぇ、ちゃん付けはやめてもらいたいかなぁ~!!」

 「えっ!! マジですか!!」


 (小学生かと思った!!) 


 「……なんかスミマセン! それじゃ黄華さんで!!」


 烈人は、黄華が自分より年上なことに驚き、申し訳なさそうに謝った。そしてぎこちなく敬語で話始める。


 「キャハハ!! 敬語じゃなくてタメ語でいいからね~~」

 「ちなみにブルーも私と同い年だよー!! 名前は……んーと、……本人が気にしてるから私からは教えられないなぁ……まぁ、烈人くんがどーしても聞きたいなら本人に直接聞いてねぇ!!」

 「? ……あ! うん!!」


 何か言えない理由があるのだろうか!? とまでは考えられずただ頭の中が疑問で埋め尽くされる烈人だった。


 そんな、他愛ない話を遮るように、息を切らして彼女はこちらにやって来た。


 「ハァ……ハァ……」

 「もぅ……人使いの荒いイエローなんだから……あの子は無事に送ってきたわよ!」


 ブルーは不機嫌そうに黄華に言い放つ。


 「ところで二人とも何話してたのよ!!」

 「ん~とね、自己紹介してたよ~」

 「彼はレッドの烈人君だって~、年齢は僕達の一つ下だってさ~」

 「俺はレッド、名前は緋色烈人!! よろしく!!」

 「ふ~ん……私はブルーよ! よろしくね!」

 「あの!! ……ブルーの名前ってなんていうのかな!?」

 「!!」


 …………。


 ブルーは固まった。イエローも、いきなり聞いちゃったか~という表情で烈人の方を見た。


 少しの沈黙の中、ブルーは重い口を開けた。


 …………。


 「……どり……」

 「えっ!?」

 「!! ……みどりよっ!! ふんっ!!」


 烈人は何で彼女が不機嫌そうにしたのかわからず、それでも続けて話した。


 「言い名前だね!! 近所のばあちゃんもみどりって名前でめちゃくちゃよくしてもらったんだ~!! いっつもおはぎとか手作りでくれてさ!!」

 「ッ!! もう!! うるさいわね!!」


 烈人は火に油を注いだ。


 おそらく碧は、年寄臭い名前が気に入らないのであろう……というのは言うまでもない。


 更に碧の機嫌を損ねることになったが、烈人は碧の様子気付かず……楽しそうに話すのだった。


 …………。


 烈人が話していると、先ほど烈人が倒したアーチヴィランから通信機のノイズのような音が鳴り、そこから声が聞こえた。


 『……聞こえるか……ヒー……ーたちよ……』

 『……今倒し……のは本当の私ではない……』

 『そ……は……クローン……なのだ……』

 『これか……刺客をすぐ……こしてくれるわ!!』

 『……待……ておれ!! ……フハハハ……ハーッハッハ!! ……』


 烈人の攻撃により、通信機が壊れ聞き取りづらいが、確かにそれはこう言った……。


 今倒したのは本当のアーチヴィランではなくクローンであったのだと……。そして、烈人たちの元へ今から刺客を送ると言うことを。


 烈人以外の二人はしっかりと聞き取った。


 「なっ!! クローンだっただと!? 一体どんな技術を手にしてるんだヤツらわ!!」


 碧は憤りを顕にして言った。


 通信機から切れる音が聞こえ、……そしてすぐアーチヴィラン……もとい、アーチヴィランクローンの残骸のすぐ上空に、空間の裂け目が現れる。


 裂け目はすぐに広がり、黒いブラックホールのような空間ができる。


 その中より、女性のような細長い手が現れた。


 その手はまるで血の気がなく、爪は恐ろしく長い。


 まさに異様な後景だった……。


 その黒いブラックホールのような空間から現れた人と言っていいのかわからないその異形の者は、全身を黒いボロで隠し、ボロの裾から手だけ覗かせている。


 「……ヒヒッ!! やっとみつけた!!」

 「ついに……復讐を果たす時が来たのじゃ!!」

 

 意味ありげなことを呟いた黒いボロは不気味に笑い、烈人に指をさしたのであった……。

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