~三日目~失意の岬

 ~三日目~


 岬は今後悔のどん底にいた。


 何故あんなことをしたのだろうかと。

 あの時洗脳魔法にかかっていてどうかしてたとか、しかたなかったとかいう以前に、誰が何処でやったのか分からなかった。


 仮面の男に呼び出されたとき、まず初めに魔法を警戒した。何を言われても心を強く持ち、レジストできるよう、アミュレットも着けていた。


 万全の状態で、あの時岬はマスクの男の所に行った。


 マスクの男に弱点をつかれた時、ぐらついたが、かかってはないと岬は断言できる。


 では、何処でかかったのだろうか。


 呼び出されたとき。


 手紙を持ってきた人物は・・・・・・でそれはないだろうと岬は否定する。


 マスクの男と会うのはこの前と合わせて三回目。


 一回目は、四月、二回目が六月、そして三回目。


 一回目と二回目は断った。しかし、何故か三回目は断らなかった。


 では、二回目と三回目の間に何かがあったのか。


 岬は思い返しても、そんな場面はなかった。


 今更思い出してもなにになるのでしょうね。


 岬はそう自嘲する。


 やってしまったことは元に戻せないし、選択した事実は消せない。


 恩人二人を裏切ってしまった事実を。


 一人目は癒杉舞先生。


 いつ死ぬか分からない最悪の環境から救ってくれて、暖かな場所に導いてくれた。それにあの子達の居場所もつくってもらった。感謝してもしきれない。


 二人目は御影友道。


 かなり癪だけど、心ダンジョンの報酬の万能薬『星の奇跡』をくれて、それも一本だけじゃなく、心ダンジョンに行ったときは毎回。


 本人は、行くのが目的とか行ってるけど、M影とか思うけど・・・・・・ほんとはすごく感謝している。


 値段以上に滅多に手に入らない万能薬を、いつも金欠で愚痴を言っているのに、薬の金額も分かっているのだろうに。


 御影は、なにも聞かずにいつも冗談を交えて渡してくれる。岬にとってそれはすごく有り難かった。


 でも、もう終わりだ。


 今日岬は休暇をもらい、桜花学園の外、スラム街に足を運んでいた。


 据えた臭いと、ピンク色のネオン。


 今は朝方なので、ネオンは消えており、スラム街は閑散としている。


 スラム街は、正確に言えば街の外で、頑丈な塀と都市型全体に覆われている防御魔法に守られていない。


 ここの収益は非合法な営業で、税金を払ってない安い宿や居酒屋、風俗にカジノ。都市で禁止されているものがここにはある。


 なにが起こったとしても全て自己責任。


 それがこのスラムのルールだ。


 岬はどんどんと進んでいき、一つの孤児院の前で止まった。


 岬は息を整える。子供にばれちゃいけない、せめてここにいる間だけでも笑顔でいおうと。


「みんな久しぶり」


 私は今笑えているのだろうか。







 岬を出迎えてくれたのは、孤児院で世話になっている六人の子供達。


 初期メンバーは、人間の子供が二人に亜人が四人、院長先生が一人。そして今年から入ってきて学園で働いている女性が一人、その息子で病気の子が一人、みんな仲良く暮らしている。


 ここが、岬の守りたかったもの。


 二年前スラムを歩いているとき、昔の私と同じ眼をした子供達と会い、触れ合ううちに、親しくなって、舞先生に無理を言って、孤児院を作ってもらった。


 まず初めに岬は院長先生に挨拶をしたかったのだが、それを断念する。


「岬おねっーちゃん、久ぶりっ」


「おねっーちゃ、ちょうしょふ一緒にだべよっ」


「そうそういこうぜいこうぜ」


「岬お姉のおかげで腹一杯食えるしな」


「感謝感謝」


「ほらほら、出発しんこぉー」


 朝食? そういえばみんな顔色が良くなっている。


 岬は疑問に思ったのだが、子供達に手を取られ思考中断する。岬は子供達に案内されて食事する場所まできて、疑問がさらに深まる。


 食事が明らかに豪華になっていた。


 柔らかいパンにチーズに牛乳。


 つい一ヶ月前までは、朝食はなく、食事は一日一回、少量のご飯と僅かなおかず一品、岬もできる限り支援しているが、孤児院の維持費等々でお金がかかり、もう一人の女性の方も給料のほとんどを使っているが、これが精一杯だった。


 院長先生は六十代の子供好きの温厚な女性で、ほとんど無報酬に使いのに、二年間愚痴一つこぼさず働いてもらっていて、岬は頭が上がらなかった。


 岬が食事部屋を見渡すと、驚きの光景があった。

 

 病気で寝たきりの子供が座っていたのだ。

 

 まだいいがに歩き回れないのか、座ったまま岬に向かって微笑んでいる。そして隣には、目を合わすとどこか後ろめたい雰囲気の、ここで病気の息子とお世話になっていて、学園の事務科で働いていて、フェリスの手先のレータ。


「どうして」


「さぁみなさん、食べましょう、さっ、岬さんも立ってないで、まずは食べなさい」


 院長先生にそういわれ、この時ばかりは岬は子供達の輪に入り、楽しく味わって、朝食を食べた。


 子供達との最後の食事を忘れないために。






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