衝突、御影対雫03


 おそらくこれが最後の攻撃になるだろう。


 御影、雫、両者ともそう思っていた。


 御影は気配を閉じて、倉庫の上でどうすればいいか考えていた。


 それに時間も差し迫っている。傷つけないで雫を昏倒させるのが一番だが、雫がやろうとしている技は、内容自体はわからないが、命の危険がつきまとう大変危険な技だということはなんとなく分かる。


 仕方ないな。


 御影は槍を構え気配を表した。




 雫は気と魔力を扇に集約し、雑巾を限界まで絞るが如く、一滴残らずこの技に賭けようと決意する。


 敵対勢力とあったらとか、帰る事を考えず、全ては御影に勝つために。


 体がきりきりと痛み頭が危険信号を出しているようにがんがんする。手足は震え、それでも扇を落とすまいと魔力糸を使って固定するよう握る。


 扇もどす黒く輝きを増し、地面を削りながら尚も拡大している。


「あぁぁぁぁぁ」


 まだだ、もっと出せる。限界まで絞り尽くせ。


 普段から想像できないほどの絶叫を雫はあげ、口から血を吐き、体が悲鳴を上げ血が吹き出す。


 技が完成したとき、『幸運』にも御影の気配を設置した。


 上だ。


 雫の真上。二十メートルほど上空にいた。


 雫にとっては好都合だ。


 この技は、広範囲殲滅級なので、逃げ場のない上空は格好の餌食だ。


「鳳凰閻熱仙(ほうおうえんねつせん)」


 御影がいる場所に狙いを定め扇を離す。


 幻影ではなく、鳳凰が羽ばたく様に、扇の両端から三メートルが黒い羽となって、御影を襲う。


 鳳凰閻熱仙は非常に危険な技で、親や長女から口を酸っぱくして使用を禁じられていた。


 理由は簡単、雫が未熟で危険だからだ。


 この技は二階堂流扇術の中でも5本の指にはいるほど使用者にとって危険な技で、使用が難しく、失敗すれば命を落としかねない。


 万全の状態でも成功率は四割程度。疲労した今の状態で使うなど自殺行為に等しい。


 それでも雫が出せる技の中でもっとも強い。


 不意に風花の顔が浮かび上がる。


 ごめんね風チャン、お姉ちゃん、もう会えそうも・・・・・・。





 回避すること事態は簡単だ。


 転移魔法を使えば楽に避けられる。


 それだと倉庫を次々と破壊しかねない。


 0クラスの小屋を破壊したとき、舞先生から、『今回はいいが、次回から破壊したものを請求するぞ』といわれ、今回は相手の技だが、とばっちりをうけかねないので、祝勝会で散財し金欠の御影はとりあえずその方法を除外した。うけてもいいが、この後の事を考えるとできれば遠慮したい。


 数ある選択肢の中から御影が選択したのは。


「とりあえず相殺するか、鳳凰閻熱仙」


 同じ技をぶつけ相殺することだった。


 御影はこの技自体始めてみた。


 しかし、雫の技を『見て』いた。


 雫の技が発動まで時間がかかったのもあるが、どういう構成で、どういう形で、どういう風に発動するか大まかに分かった。


 その上で、自分にもできる技だと判断した。『強く』なりすぎないよう調整して槍を投げる。


 二つの鳳凰が激突し、学園中響きわたるほどの音をあげ、二つは相殺された。


「化け物ですね貴方は」


 雫は走馬灯のように思い出す。


 御影を倒すと直談判した時の姉の顔を思い出す。


 それは『絶対に無理だ』けど、経験のために許可しようという、聞き分けのない子を見るような眼で『仕方ないな』といった表情だった。


 今なら分かる。


 口では厳しい事を言っていたが、声には優しさがあり、殻を破り、成長させるためだったのだ。


 雫は現在悩んでいた。


 良くも悪くも優等生タイプで、何でもそつなくこなす。絶対に無理はしない。普通の人間ならそれで十分すぎるほどやっていける。しかし、ここは『ダンジョン』に潜る戦闘科だ。


 必ず、ピンチに陥ったり、実力以上のモンスターが現れる。


 そんな時、必ず無理をしなければならない。自分の実力以上を出さなければならない。


 それが雫の欠点。


 雫にはそれができない。平均的に自分の実力はだせるが、自分で作ったリミッターのせいで、危険だと判断したら体が勝手にやめてしまう。


 そんな自分の体が恨めしかった。


 そこが藤島玲奈と二階堂雫の違いだ。


 玲奈はピンチの時、自分の限界以上の力を発揮し、雫はそれができない。


 模擬戦の勝率は五分ぐらいだが、ここぞという場面でいつも負ける。


 しかし今回、雫は限界を突破したのだ。なりふり構わず、リミッターを無視し、殻をぶち破った。


 生きていたら、風チャンに・・・・・・。


 雫は意識を失った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る