クラブ『夜露死苦』

「おい、起きろ」


 このまま転移魔法で返してもいいが、自分の知っている場所にしか転移できなく、・・・・・・の為、御影は起こす事にした。


「ここは、天国ですか」

「残念ながら現実世界だ。それより気配を感じろ」


 時間にして雫が意識を失ったのは一分。


 もう少し寝かせてやりたかった御影だが、残念ながら時間切れだ。


 寝ぼけていた雫だったが、気配を察知した後意識を覚醒し扇子を手元に寄せ戦闘態勢に移る。


「あらあら、囲まれていますね。ありがとうございます御影さん。魔力も気も分けていただいたみたいで」


「お前は風花の姉だ。仲間に悲しい思いはさせたくないからな」


「あらあら、ずいぶんフェミストなんですわね」


「言ってろ。くるぞ」


 もう雫に殺気はない。


 風花が何故御影を慕い、仲間になったのか分かったから。


 昨日の敵は今日の友。背中合わせで二人はそこまできている敵に備えた。


「おー、また会ったな」


 重厚音で開口一番そう言ったのは、『夜露死苦』リーダーの豪と道を囲むようにしてたっているクラブメンバー五十名。


 戦闘科は三十名で後は魔法科の生徒。しかも番場を筆頭にSクラス五名、Aクラス十名と約半数の戦力でここに来た。あいにくと、三下の姿はなかった。


 雫の額から汗が流れる。一人一人なら番場以外互角以上に戦える。


 しかしこの大人数で勝てる気はしなかった。


「この間ぶりだな。クラブの練習なら道を譲るが」


「残念ながら違うな。今回おまえに用はない、用があるのは」


 そして豪は雫の方をみる。


「おまえだ二階堂雫。ご同行願おうか」


「あらあら、私がクラブ派だと知っての狼藉ですか」


 御影の余裕そうな自然体の雰囲気とは違い、雫はどこか堅い。


 豪はクラブ派傘下の上位派閥の幹部だったと記憶している。


 豪はなにを起こそうとしているのか雫はうすうす分かっていたが、信じられなかった。


「ああ、よく知ってる。クラブ派大幹部の妹様にして第十二席。うすうす感づいてるかもしれねぇーが、これはクーデターだ。クラブ派をぶっ潰して、俺らが頭になる。そのための人質だ。お前たち姉妹は」


 そう豪の狙いは雫達を浚って、クラブ派と話し合いをし、クラブ連合トップの座とクラブ派幹部確約を要求するつもりだ。


 一週間前、とある筋からの確かな情報で、ここに雫がいて御影と決闘すると分かり、計画を前倒しし決行に及んだ。




「なぁ!」


 一瞬にして血が沸点に達する。


 私ならまだいい。


 もとよりいつもなにがあってもいいように覚悟している。


 しかし風チャンにまで・・・・・・お姉ちゃん許しません。


 しかし現状は厳しい。


 今は話合いという名の勧告ですんでいるが、決裂すれば戦闘になる。


 ちらりと御影を見る。場違いなほどリラックスしていた。


 雫は少し不満げだ。風花が危機だというのに、もっと真剣になってほしかった。


「で、残りの戦力はHクラスの寮に向かったわけか」


「察しがいいな、そのとうり、三下に頼んで中からあけてもらう手筈だ。抵抗しなけりゃ一切傷つけないと誓おう。そこの女もな」


 既に策は八割方成功し勝った気でいる豪。


 輝かしい未来を想像し、思いを馳せる。


 しかし、


 御影の言葉で現実に引き戻される。


「悪いが断る。仲間の姉だ、引き渡す気はない。それに俺はあいつらを信じている・・・・・・そんなにやわな奴等じゃない。なにもせずに風花を引き渡すような奴等でわな」


「交渉決裂だ。貴様は聞き分けがいいと思っていたが馬鹿だったか。やれ」


「うぉぉぉぉ」


 魔法使いは魔法の準備をし、戦闘科の面々は一斉に襲いかかる。


「俺のそばから離れるな」


 小声で御影は雫に囁き、槍を地面に突き刺す。


「爆地烈風槍」


 ひとまず大多数を倒すべき、迫り来る敵に向かってある技を放った。


 地面に突き刺した槍から衝撃波が放たれる。


 放出系の気と風の混合技で量によって強さが変わる。


 御影は瞬間風速八十メートル、つまり誰しもが吹っ飛ぶスピードだ。


 飛びかかってきた敵も、駆けてきた敵も、 逆バンジーの様に吹っ飛び、雫を抱え、その空中に飛び倉庫の屋根に着地しその場から去る。


「逃がすな追え!」


 豪の怒号と共に、戦闘不能になった数名以外後を追う。


 頼みますよ・・・・・・。

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