模擬戦~カティナ対プゥ~


「まず、三人の中で一番だったデジ子から教える。水流とシンリィは模擬戦を見学しててくれ」


 そういって御影とデジ子は、練習場の端の方に移動した。


 御影の回復魔法で復活したシンリィと水流は、とりあえず模擬戦、プゥとカティナの試合を見ることにした。


 体力はあっちの方が上じゃが、模擬戦ではわっちのほうが植えなのじゃ。


 模擬戦は私が勝つ。


 両者とも同じような考えで開始を待っていた。


「ぷ、か、ま(今日は絶対カティナに参ったと言わせるよ~)」


「はっ、やってみな」


 戦気十分の二人に、舞先生が試合開始の合図を告げた。


 最初に動いたのはやはりプゥからだった。


 プゥは持ち前の機動性にさらに磨きをかけ、シンリィと水流の目には、消えたように見えた。


 しかし、カティナには動態視力と気の動きで、何処から来るか分かっていた。


「甘いよっ」


 来るタイミングで、カティナは重厚なバスターソードを重さを全く感じさせない動きで鋭く凪ぎ払う。


 ここまではプゥの思惑通り。


 斬られたプゥは残像だった。


「う、ろ、き(ウー・ローリングキィィクッッッ~)」


 カティナの頭上を回転しながらかかと落としをする。


 プゥはここ一ヶ月色々な武器を試したが、全てしっくりこず、考えた末導き出した結論が、今の戦闘スタイルだ。


「かっ」


 見事に頭のてっぺんにくらわし、カティナは防御の気を放っていたが、それでも衝撃はかなりきた。


 侮っていたわけではなかった。


 カティナもプゥの急成長をみてきたし、十分警戒して望んでたつもりだった。


 どうやら侮っていたのは私みたいだったね。


 突如、カティナの気がマグマの様に膨大に膨れ上がった。


「!」


 プゥは十分に距離をとり、これからが本当の勝負だと険しい視線でカティナを見つめる。


「先に言っておくよ。悪かった。プゥの実力を低く見ていたよ。これからが私の本気だよ」


「そ、か(それでも私が勝つよー)」


 空気が張りつめ、水流とシンリィは、呼吸が苦しくなった。


 じりじりと時間だけが過ぎていき、動かない二人。あんなに走っても汗をかかなかった二人が、額から顎にかけて、床に滴り落ちる。


 不意に動き出したのはプゥ。


 地を這う様に地面すれすれまで体制を低くし掛け、瞬きする間もなく一瞬で詰め寄る。


 その速度にカティナも戦闘感で反応し。


「バースト」


 熱気波だけで吹き飛ばそうと、気を外に、爆発的に解放する。


 これは美夜に負けた後、御影と一緒に編み出した、気の解放系技で、気を熱に具現化し、多ければ多いほど、気の温度が高く、風の強さが強くなる。


 今のカティナの気だと、時間があれば温度七十度、風の強さ三十メートルほどできるが、まだまだ、技を完成するまでの時間や練度等々まだまだ本番に出せるほどの完成度ではないが、上手い具合に膠着状態が続いたため、完全な状態で使うことができた。


 プゥもカティナが何か仕掛けているとは分かっていたが、この先の事も考え、完成するのを待っていた。


「消えたのじゃ」


「どこ」


 爆発音にも驚いた水流とシンリィだが、プゥがいないことに気づいた。


「上、プゥは身軽だから一瞬の判断で回避できる。私だったらやられてた」


 二人の疑問に美夜は少し悔しそうに上を指す。


 危険を察知したプゥは、跳躍し、天井の鉄骨付近まで飛ぶ。それができるのは御影と舞先生を除けばプゥだけで、短期間でほぼ身体能力だけでそこまでできるようになった。


「う(ウーストレート!)」


 天井の鉄骨を足場にし、気を拳に一転集中し、風魔法を上乗せする。


 すべてがまだ発展途上だが、その威力は強化された練習場の床でも、クレーターができるほどで、カティナの頭上めがけ一直線に飛ぶ。


 カティナもここまでは予測していた。


 三割ほどバーストで決まれば良かったなどと思っていたが、プゥの驚異的な身体能力から、上に避けるだろうと予測していた。


 だから、対処法を幾つか考え、あえて真っ向勝負にいくことにした。


 卑怯な手は性に合わないからね。


「晩夏繚乱」


 バーサーク状態に切り替えたカティナは限界まで腰をしならせ、駒のように回転しながら上空に飛ぶ。悪鬼のように目が赤く血走りピキピキと全体の血管が浮き出る。美夜に続いて、プゥに負けるわけにはいかなかった。


 晩夏繚乱は流派の中で難易度的に、十段階中六番目に位置する技で、現在、四番目までしか完全に修得できていない。


 これは一種の賭けだった。この技は父親が得意としていて、幼少の頃から何度も見ていた。バーサークモードに入ることによって、足りなかった技量やキレ、スピード等々足りなかった部分を補い、後のことは考えてなかった。


 頭の中にあるのは勝利の二文字のみ。


 小型の台風のように見えるカティナと、大砲の様に一点突破のプゥ。


 どちらとも全力で、ここで模擬戦を経験していない水流とシンリィでも、二人とも無事ではすまないと感じていた。


 よくて重傷、悪ければ致命傷になるだろうと。


 固唾をのんで見守る中、雌雄は決した。


「そこまでだぞ。全く、止めるこっちのみにもなってほしいぞ」


 当たる瞬間、舞先生がプゥの拳を受け止め、カティナの回転している剣を指先二本で挟んで止めた。


 舞先生の呆れた言葉を無視し、プゥとカティナはじっと見つめる。


 それが分かっているのか、長々と説教はせず、舞先生は勝者をつげた。


「勝者はカティナだ。リーチの長さで、カティナの方が先に届いていたぞ。だが、どちらが勝ってもおかしくなくプゥも良く頑張ったぞ。次に反省点だが、カティナは動きに雑さが目立った、模擬戦で練習中の技を使うのはいいが、今回は成功したが、博打みたいに使うのはやめた方がいいぞ。怪我や負傷してもここには治せるものがいるからいいが、ダンジョンでは、いないからな。

 大方こないだ美夜に負けて、プゥに一撃をくらい焦ったかもしれないが、力業だけで対処せず、緩急を織り交ぜたり、防御しなから相手の隙を窺ったりした方がいいぞ。プゥは一撃を食らわせるまでの流れは良かったが、最後に真っ向勝負にいったのいただけないぞ。空中で飛ぶまではいいが、真っ向勝負で攻撃に移るのではなく、死角に移動してから攻撃すれば、八割方勝っていたぞ。そのためには空中での移動を修得した方がいいぞ。総括は終わりにして」


 舞先生は新人二人の方に向く。


「これで大体分かったと思うが、次はお前たちが模擬戦やるぞ」

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