マネージャーを探せ


「貴様は自重というものを知らんのか、全く聞きしに勝る無計画無鉄砲さだぞ。あちらから抗議がなかったから言いようなものを、Sクラスに乱入し、あげくクラブ勧誘のためSクラスの人間と場外乱闘、良かったな、退学にならなくて」


 舞先生は顔に手を当て、呆れ果てた声色だった。


「あはは・・・・・・すいません」


 自覚はあったのか御影は素直に謝る。


 クラブ設立の条件が揃ったので、その報告の為、朝礼前に保健室に来ていた。


「全く、で、本当に人数は揃っているのか、顧問は仕方なく私がやるとして、Sクラスの人物が入っても、最低でも後三人必要だぞ。後マネージャーもだ」


「・・・・・・えっ」


 それは初耳だった。





 弱ったな。


 帰り道、御影は悩んでいた。


 内容はもちろんマネージャーの事だ。


 マネージャーは文字通り裏方の存在で、在庫管理や、スケジュールの把握に各所の予約等々、やることは多く、ここでは、最低でも一人女の子で専任の者が必要だ。


 その事をすっかり御影は忘れていた。


 どうするかな、カティナと美夜はマネージャーなどやらないし、三下と眼鏡は男でプゥは向いていない。0クラスで他にめぼしいものもいないし・・・・・・そう都合良く。


 小屋の扉を開け。


「いた!」


「ふぇ」


 御影の大声でびくついたのは、今日もお手伝いに来ていた風花だった。


 何で忘れていたのかを御影は自分自身を殴りたくなった。


 ここ数日見ていて、風花ほどぴったりなマネージャーはいない。


 期待を込めてさっと駆けより、風花手を取る。


「お前が必要だ」


「えぇぇぇぇ~~」


「だあ(大胆だね御影。朝からアッツアッツ)」


「ひゅ~ひゅ~さすが旦那ぁ~、」


「全く、理由は理解できるが説明足らずなのだよ御影。風花が誤解している」


「がはは、わっかいのぉ~」


 風化の顔が茹でた蟹の様に真っ赤になり、目を回していた。


 興奮のあまり色々説明を省いた事に気づいたのは、風花が頭から煙を出し倒れた後だった。


 幸い、五分ほどで風花は目覚め、御影は謝り、誤解を解いた上で、クラブに勧誘した。


「クラブですか。私はどこにも入っていませんけど」


 どこかしら不機嫌な様子の風花に、御影は手を合わせ再度謝る。


「ごめんな紛らわしい事言って、でも必要だって事は本当だ。マネージャーとして入ってくれないか、できることならなんでもするぜ」


 御影は拝み倒すことしかできず、根負けしたのか、風花は大きく息を吐く。


「分かりました。そこまで必要としてくださるのなら、微力ながら手伝いますよ。でもどこのクラブなんですか、上位クラスが設立する噂は聞かないですし、既存のクラブでそこまでマネージャが足りないとも聞かないですけど」


「ああ言ってなったか、実は新たにクラブを作るんだ。顧問は癒杉舞先生にお願いしてすでに了承はとってある」


「えっ、あのどこの顧問も断ってきた癒杉先生ですか」


 風花は信じられない者を見るように御影を見る。


 赴任してきてから数々のクラブの顧問に誘われ、それらを断ってきた舞先生。


 風花にとっても、舞先生は憧れの人物だった。


 だから、風花は半信半疑で聞いていた。


「条件はあれだけどなんとかな、クラブメンバーは、ここにいる、プゥと三下と眼鏡君」


「よ(よろしく風花ちゃん)」


「へっへっ~よろしくな」


「僕は眼鏡じゃない、目垣だ。ともあれよろしくなのだよ風花」


 御影は最初にあった日から説得を続けて、昨日ようやく想定していた全員が入ってくれることになった。


「はい、皆さんよろしくお願いします。でもクラブを作るのって指揮科の人か上位クラスの人しか作れないと聞きますし、他のメンバーっているんですよね」


 風花は遠慮がちに疑問を口にする。姉がクラブを設立しているので、条件を知っている。その時、誘われたが、ダンジョン攻略系クラブだったので断った。


 この時、風花は一つ勘違いをしていた。御影がつくるクラブはエンジョイ系のクラブだろうと。


「ああ、それなら放課後ここに集まって、皆で申請することになってるから、来てくれると助かる」


「はい、今日は空いてますので、終わったら来ますね」


 そう言って、風化は去った。


 この決断が、後の人生に大きく左右される事になろうとは、まだ誰も知らなかった。




 放課後風花はいつもと気分が違っていた。


 不安と期待と高揚と。


 今まで優秀な姉二人と比べられてきた。姉妹仲は良好だけれど、必要とされるのは姉達で、誰かに期待されたことなんて無かった。


 実家は剣術の名門で、姉達は父親から厳しく指導されていたが、風花はなにも教えられてこなっかった。


 どんなに親や姉達に頼んでも、才能がないから、危ないからと取り合ってもらえない。


 それに反発するように裏で自分なりに稽古し、反対を押し切って姉と同じ学校に入学したけど、現実は厳しかった。


 ぎりぎりHクラスで、いいように扱われ雑用係。


 0クラスにお手伝いにいくのは、こんな自分でも必要としてくれていると思ったからだ。


 そうやってどこまでも沈んでいく、浮上のきっかけも掴めないまま。


 それでもいいと思っていた。いや、それしかないと思っていた。


 しかし今日何かが変わった。


 転入してきた御影のクラブへのお誘い。


 こんなにも必要としてくれた人は家族以外いなかった。


 例えそれがマネージャーだったとしても。


 はやる気持ちを抑え、集合場所の小屋の前に行き、思考が停止する。


 既に全員がそろっていた。


 御影に目垣にプゥに三下。


 ここまでは分かる。しかし他の人物が風花の思考の範疇を越えていた。


 他の人物は三人。


 まず癒杉舞先生。


 これは御影も言っていたし、ほんの少し信じていた部分もあり、何とか理解できた。


 後の二人、『剛獣』のカティナと『舞姫』高城美夜。


 美夜はDクラスに入った転入生で実力的にはBクラスに入っても何らおかしくないほどの実力の持ち主。


 カティナは有名な部門出身のSクラスで、姉の友達だ。いつも自分の親や兄弟より強い人じゃないと、下にはつかないと公言していたのを何度となく聞いている。


 酷い話だが三人とも御影の作るクラブに入るとは風花には思えなかった


 なんだか酷く嫌な予感がした。


「えっと、戦闘科Hクラスの二階堂風花です。マネージャーとして入部しますので、よろしくお願いします」


「なかなか礼儀正しくていいぞ。知ってると思うが、保険の先生をしているこのクラブの顧問を務める癒杉舞だ」


「・・・・・・私の名前は高城美夜。御影の一番弟子。よろしく」


「おっ、風チャンもここにはいるのか、よろしくね。いっておくけど師匠の一番弟子は私だからね」


 カティナと美夜とで火花が散り、一触即発の空気になったが舞先生が黙られた。


 その頃合いで、一番聞きたいことを風花が言う。


「えっと、このクラブはどう行った目的があるんですか」


「ああ、行ってなかったか、目標は九十クラスの迷宮の制覇だ」


 風花が入ったクラブはがちがちの攻略系クラブだった。

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