招待状


「勝者・・・・・・」


 畜生・・・・・・。


 倒れた体を起きあがらせ、拳を強く握りしめ、地面を叩く。


 ここ最近負けが続いていた。


 入学当初は最高峰のSクラスでもトップ3に入り、トップになるのも目前だと思っていた。


 しかしトップになるにはあまりにも壁が厚かった。


 私の友達で、一年の指揮科と戦闘科のトップに君臨し、全体でも序列十五位に位置する女傑、藤島玲奈。


 私の熱が冷めたのかスランプかは分からないが、どんなに練習しても実力は変わらず、気づけば入れ替え戦のボーダーライン上にいた。


 体力や技量では勝っているのに何で勝てないのだろうかと。


 カティナの家は武門の名家で三人いる上の兄達は一度もSクラスを落ちることなく卒業している。


 ここに来る前に言われた一言。


『もしSクラスから落ちた場合。絶縁とする』と。


 入れ替え戦に入っても勝てば落ちることはないが、先月は五人落ちている。


 家族仲は程々だが、家に対してなにも未練はない・・・・・・母親は泣くと思うが。


 しかし、このまま落ちていくのは納得がいかないし、何より性分にあわない。


 思えばそんな時だった。クラスの自分の机に入っていた招待状を見つけたのは。





「熱烈な招待状ありがとね。で『俺なら伸び悩んでいる力を成長させることができる』だっけね。

私は前にも言ったけど、私より強い人にしか興味はないから。あんたにはそれを証明できる」


 鉄のプレートアーマーを身に纏い、背丈ほどあるバスターソードを後ろに装着しているカティナの姿は、ダンジョンにいく前の様に臨戦態勢で、目つきもこないだあったときと違い鋭いものだった。


「ああ、すぐにでも証明できるぜ、俺はここには詳しくないから、どこか良い場所はあるか」


 たいする御影は、どこか遊びに行く様な格好で、武器を持っておらず、何より自然体だった。


「ついてきな」


 無言で歩いていたが、カティナは最近無い滾りを感じている。


 0クラスの御影知道。


 奇跡の一日の一人にして、あの癒杉舞先生を倒した男。


 さっきの言葉に、気迫を十二分に乗せていたが、御影は涼しい表情で受け流した。


 面白い、面白すぎる。


 こんな気持ちになったのは玲奈と初めて模擬戦して以来だ。


 二十分ほどして、いつも自主連で使っている、団地の公園ほどのスペースがある開けた空き地に着いた。


「準備はいい」


 バスターソードを抜き、上段に構える。


「俺はいつでもいいぜ」


 御影は特に構えず、だらけた感じだ。


 上等!鼻っぱしらを折ってやるよ。


 小手調べとばかりに、カティナは体重を乗せ横に凪ぐ。


 そして、なにをされたか訳も分からずに宙に舞った。


 御影にとってカティナのスピードと威力はいっては悪いが、ごくありふれたスピード、あっちの世界の冒険者の基準でいうと初級を卒業した位か。


 これで全てだとは思わない。しかし御影がいえるぎりではないが、あまりにも。


「なめているな」


 言わなかった御影も悪いと思っているが、力量も分からず、初手で合わせようとする者は三流だ。


 しゃがんで避け、カティナの足を回し蹴りし、背中を、肘打ちする。


 カティナの体が一回転した後、面白いように吹っ飛び地面に転がる。


 気絶するほど強くしていなく、鎧を着ていたおかげで、カティナはすぐに起きあがった。


「殺す気で来い」


 御影は、カティナが全力を出しやすいように、右手中指をくいくいさせ、挑発する。


 カティナはきれた口の端を拭い、目をぎらつかせる。


「あはは、私が間違っていたよ・・・・・・ぶっ殺す。あたしは狂った獣、死すまで歩みを止めない、『キリングバーサーカー』」


 殺気を漲らせ、狂戦士の如く雄叫びをあげ、先ほどより数倍のスピードで剣を振り回す。


 がむしゃらで読めない軌道。あたればぶった斬られ死ぬか重傷になるだろう。


 文字通り、模擬戦でも特訓でも戦闘でも一度だって出したことないカティナの全身全霊の姿。


 理性を飛ばし目の前の獲物に食らいつく様は、文字通り獣の様だ。


「大分良くなってきたが」


 御影はまだまだ余裕があり、見てから避けたりいなしている。


 理性をなくしたら、勝てる可能性も無くしてしまうと、御影は思っている。


 これはこれで好都合だけどな。


 カティナが剣を振り下ろすより早く御影は懐に入り込み。


「開門種手」


 胸の下、脊柱付近に手を添え、闘気を飛ばす。


「ぐふぁ」


 胃液をはき飛ばし、カティナは後ろに倒れた。


 あまりの痛みと吐き気にのたうち回りながらえずく。


 経験したから御影にも分かるが、異世界に行って間もないときだったので三日三晩、ご飯は食えなかった。







 カティナには致命的な欠点があった。


 それは闘気が出せないことだ。


 何回も何十回も何百回と数え切れない程練習したが、何故か使えなかった。


 闘気は百人に一人の割合で使え、武門の名家としては必ず使えなければいけないものだった。


 魔法でだましだましやっていたが、ほんとは誰よりも分かっていて悔しかった。使えない自分と、使って勝つ相手と。


 だから自分の師匠になる人は決まっていた。


 それは・・・・・・。  





 時刻は八時にさしかかった頃、いつの間にか意識を失っていたカティナは目を覚まし、今までなかった感覚に驚く。


「その感覚は闘気だ。荒療治だが修得するのに一番手っ取り早い方法だ。気分はどうだ、悪かったら治療するぜ」


「いや、最高の気分だよ」


 おもちゃを与えられた子供のように目を輝かせ、手を閉じたり開いたり、放出して走ったり素振りしたりしていた。


 開門した闘気は無くなることはないが、自在に操るのには修行が必要だ。


 今だけは、カティナのその様子を御影は見守っていた。


 やがて、電池が切れて物のようにふらふらと倒れる。


 意識があるが体が動かないといった感じだ。


「で、どうする。一応前払いだけど、キャンセルも受け付けるぜ」


 御影はカティナの顔色で分かってはいたが、手を差しだし、問いかけた。


「よろしくお願いするよ・・・・・・師匠」


 最近無かった、元気一杯の笑顔で、御影の手を握った。

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