換金と金欠とクラブ申請と


 昨日はほんと地獄だった。


 あれから、一時間ほどで夕食の支度をし、ラビの血色が良くなったのでダンジョン攻略を再開した。


 ラビの負担を考慮してなかった反省点をふまえ、剛我が背負うことになった。


 戦闘に関する全ての事を御影がやることになり、フラストレーションがたまる一方だった。


 それでも合計で五時間かけてダンジョンボスを倒してクリアした。


 受付でダンジョン攻略の報告とダンジョンボスの討伐証明部位を提出したときは、すごく驚かれ、フェリスはなにもしてないのに得意げにふんぞり返っていた。


 この時はまだ良かった。


 御影も終わってほっとしていたし、また始まったなぐらいにしか思ってなかった。


 問題はこの後だ。


 隣の換金科で、ダンジョンで取ってきた金になるものを換金し、学校前で解散するときに、お金の分配を始めた時だ。


 通常、月々の契約金の他に、契約者とダンジョンに行った時、役割に応じて報酬がある。


 今日の攻略報酬と換金額をあわせると三百万円。


 多いか少ないか判断は分かれるが、経費がかかってないぶんかなりの黒字だった。


 だからどうしても期待してしまった。


 先頭に立ち、夕食も一人で用意し、戦闘も大部分は御影が倒した。


 百万はないにしても数十万はもらえるんじゃないかと。


 そして、分配がこれだ。


 〇フェリス:二百万円


 〇ラビ:三十五万円


 〇剛我:三十二万円


 〇ジュリ:三十二万円


 〇御影:一万円


 へっ・・・・・・っと一瞬思考が停止した。


 フェリスが取るぶんにはまだいい。良くはないが契約者なのでこれは仕方ないと思っていた。


 問題は他の三人の取り分だ。


 四等分ならそんなに不満はなかったが、これには納得いかなかった。


「ちなみに聞くが、何でこの金額なんだ」


「入っているクラスを考慮しての金額なの。0クラスのあなたはもらえるだけありがたいと思うの」


 さも当然の様に言うフェリス。


 これは本当の事で、0クラスの面々からも聞いていた。


「あまり言いたくはないが、俺が一番活躍したと思うけどな」


「残念だけどこれが常識なの。悔しかったらクラスをあげるの」


 皮肉たっぷりに嘲笑し、フェリスは去り、申し訳なさそうに、後の面々が続いた。


 皆、分配に異論した御影に対して協力はしたかったのだが金は恵んでくれなかった。


 これは仕方ないかなと一日たって冷静になった御影は思う。


 一万というと、日給としては高い部類に入ると思うが、購買や休日に学園のフリマで売っている最低品質のナイフでも五万以上、鍛冶科Sクラスの武器は一千万はくだらない。


 武器のメンテナンスに、買い換え、防具のこともあるし、ダンジョン毎に持っていくアイテムや装備も違う。ダンジョンはお金がかかるのだ。


 だから、お金を貯めるのにこした事はない。


 帰ろ。


 何だか何もかも馬鹿らしくなって、帰ろうとしたとき、殺気がとこからか感じ、テンションだだ下がりのまま、隠れてフェリスが寮に帰るのを見送り、ようやく帰路についた。


 こういう契約者とのダンジョン探索は、週に一、二回行われるらしい。


 気を取り直して、次の日の放課後、御影は受付に来ていた。


 昨日行うと思ったことをやるために。


「すいません、戦闘科一年0組の御影友道です。舞先生からの紹介で、虹野岬さんをお願いしたいのですか」


 レータさんでも良かったが、フェリスの耳に届くと後々面倒になるため、舞先生にお願いして信頼できる受付嬢の紹介状を書いてもらった。


 噂では、個別の相談に乗った受付嬢達が、情報を売り買いしているらしい。


 胃世界のギルドでもそういう事が日常茶飯事だったため、信頼できる受付と専属契約したかった。


 0クラスの名前を出したとき訝しそうにしていた受付も、舞先生の推薦状が本物と分かった途端、すぐに行動に移してくれた。


「すいません、三番の部屋に先には行っていてください。虹野主任は後からきますので」


「ありがとう」


 御影は相談室へと向こう。


 待つこと三十分扉は開いた。


「0クラスなのに、舞さんの名前でこの私を呼んだ、恥ずかしい勘違い野郎の御影友道さんで間違いないですか」


 入ってきたのは、後ろ髪をお団子の纏め、つり目で、それ以外は人形のように整っており、背はそんなに高くない。できるキャリアウーマンといった感じで、できない部下を見るような目で、御影を見ていた。


 御影は心の中で溜息を吐く。


 またこのパターンかと。


 始まる前から気疲れしている御影を尻目に、岬はさっさと終わらせたかった。


「用件を三分以内に簡潔に述べてください」


「まず、新規クラブ設立申請書と、クラブで使う練習場の使用許可をとりあえず一月ほど予約したい。後は今日の十レベルノンダンジョンの攻略をしたいのでその申請を頼みたい」


「ちっ」


 岬は御影がキョドって言いたいことを言えないのを期待していたが、きっちり言い分を突きつけてきた御影に対し悪態をつく。


「人数が集まるとは思えず、紙が無駄になると思いますが一応出します。練習場は百年後なら空きがあります。ダンジョンの申請は、受付で言ってください」


 終わったとばかりに帰ろうとする岬を、御影は押しとどめる


「なにするんですか、セクハラで訴えますよ。セクハラ0クラス野郎の御影友道さん」


「ちょっと待ってくれ。今のままじゃ、予約できないのはわかっているが、Sクラスの人物を加入できればいけるのか」


「一年のSクラスなら小さい規模の練習場なら予約できますけど、今のままじゃ予約しません。だってあなた自分のことしか考えてないから。私たちにも利益がないと誰も動かない。馬鹿でもわかる理論ですよ馬鹿影阿呆道さん」


 そういえばと、御影は振り返る。舞先生には見返りのことを言ったが、伝わっているもんだと思い、急かされて言ってなかったことを。


「ああ、それなら・・・・・・」


 舞先生に言った見返り部分を言う。


「それを早く言いなさい、この0クラスでセクハラでおわせぶり野郎の恥影乙道さん。一応納得しますし、先ほどの条件はおさえておくように申請します。しかし、期限は一週間以内です。もし期限を破ったら白紙になります。そして舞さんの期待を裏切るようなことがあれば、どんな手を使っても私が貴方は殺しにいきます」


 それは冗談を言っている目ではなく、至って真剣な目だった。





 その後、ストレス解消に受付で申請しノンダンジョンレベル十をクリアした御影は、0クラス価格の現実をまざまざと見せつけられ、とある場所にきていた。


 同じランクと昨日以上の量を換金したのに十万かよ。


 がっくりと肩を落としながら、正門前で待ち人を待っていた。


 十分ほどで御影は気配を察知し、顔を上げる。どうやら目的の人物がきたようだ。




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