フェリスと一緒にダンジョン探索02~技ダンジョンレベル十:自然型:森~


 御影はゆっくりと、注意深く観察しながら歩みを進める。


 今のところ罠は分かりやすく、不自然な草むら、色が少し変わっている土、ピアノ線より、二回りほど大きい糸。


 そして、モンスターがきてるか常に気を配り、察知したら仲間に指示する。完全に斥候の役割だ。


 このパーティーの空気は限りなく重い。


 陣形はフェリスがいったものと変わり、剛我は厳しい表情でバトルアックスを握りしめ、護衛者の前にたち、ジュリはふてくされたようにシーフナイフを逆手に持ち護衛者の後ろに立つ。


 フェリスは文句ばかりで憮然とした表情で、ラビは怯えていた。


 ラビは戦闘のしたことのない本当に普通の少女だった。


 案の定、靴や服は汚れ、ラビの黒のハイソックスは少し破れているところがあり血がにじみでていた。


 訓練されてない、やわなむき出しの太股には、数本の線ができている。


 御影は一つ思い違いをしていた。フェリスは案外心が強かった。


 歩き始めて二時間。普通ならへこたれて撤退するのが普通だ。


 ゴブリンだけだが、既に十五体は倒し、はぎ取った討伐証明部位や魔石、薬草等は受付で無料で貸し出してもらえた背負い袋に入れている。本来はもっと頑丈で容量が大きく空間魔法がかけられている物が欲しいところだがないものねだりだ。それにコブリンは武器や防具に適した素材でなく価値のある部分もないので良かったほうだ。


 この前の、スライムと死闘を繰り広げていたフェリスにとってはよほどの強敵だ。


 しかし、怯むような負の感情はない。ぶつくさ文句は言っているが、休みもなくついてきてる。


 こういう時のために、剛我が持ってきた地図を借りた御影が見ると、後半分といった感じだ。


 しかし、そろそろ休まなければいけないと思っていた。ラビが限界だった。


 適当な木の下で全員休憩することにした。


「あのその、すいません。わたっ、私迷惑かけてばかりで」


 ラビの顔は青白く、小刻みに震えていた。


 多大なストレスと、なれない環境の元で歩いてきたので、明らかに体調を崩していた。


 今は木の根を枕にして横になり、剛我や御影の上着を布団にして休んでいる。


 そろそろ夕飯の時間で、何か暖かいものでも食べれば顔色もよくなることかと思うが、誰もなにも持ってきていない。


 看病をフェリスに任せ、食事について三人で話し合う。



「こういう場合は現地調達だが、誰か経験はあるか」


「面目ないが、俺はない」


「私も同じ」


 ふとふに落ちない部分が御影にはあった。


「講習とかってないのか」


 この先、ダンジョンを進めていくうち、必ず遭遇する場面であった。


 どんなに用意周到に準備していても、ダンジョンでは不測の事態がつきものだ。


 そんな時のために、実習はあるだろうと御影は思っていた。もっとも、教師がいるとさえ思えない0クラスではないと思っていたが。


「恥ずかしい話だが、今回が二度目のダンジョンだ。実習や講習では習ってはいるが、本番ではなにをしていいか分からない」


「ふん、えらそうにして、あんたはできるのかい」


 剛我は自分のふがいなさで俯きかげん、ジュリは逆ギレしていた。


 仕方ないか。


 御影はこういう場所になれていた。


 なにも持たされず森に放り込まれたことや。宿屋で起きて気付いたら身ぐるみをはがされ知らない場所に放置されていた事などざらだった。


 そして、実戦の中で死ぬ思いをして覚えたのだ。


「木の枝を集めておいてくれ。後は俺が何とかする」


 言うが早いか木の上のてっぺんに登り、獲物を探す。


 鹿と魚と果物だな。頭の中で整理し、行動を始めた。



 木の枝を集めた剛我は、自分の手の平を見つめる。


 どうしていつも、俺はこうなのだ・・・・・・と。


 真面目でがたいだけがいい男。融通が効かず、機転も効かない。


 今回もそうだ。フェリスを説得して撤退できるものだと思っていた。


 だから、用意もなにもしてこなかった。突然言われたのもあるが、それは言い訳にしかならない。


 フェリスは直情的で世間知らずだが、信頼できる人間には心を開き、聞く耳を持っていた・・・少なくても三ヶ月前までは。


 剛我達の本当の契約者はフェリスの父親だ。


 この学校でフェリスと一緒に入学するのに三つの条件をだされた。


 〇フェリスが一学期中間試験をクリアするまで手出しをしないこと

 〇フェリスに装着してある鎖には触れないこと。

 〇・・・・・・・・・


 やはり条件を破ってフェリスを助けるべきだったのだろうか。


 フェリスが苦戦しているのを聞いていたし、誰も助けてくれない状況だとも聞いていた。


 御影には本当に感謝している。


 もう少し日にちが経てば、横槍が入ったであろう。


 まさしく電光石火だった。


 正直悔しくもあったが、今度は自分の番だと思った。


 うまく手綱を握るつもりだった。今度こそは導き助けるもりだった。


「俺は何のためにこの学校に来たんだろうな」


「しゃきっとしなさいよ。なによ、ちょっと上手くいかなくなったからって、ぐちぐちぐちぐちと。落ち込むなら、終わってから落ち込みなさい、私が聞いてあげるから・・・・・・ね」


 ジュリにはいつも助けてもらっている。今日みたいな落ち込んでいるとき、いつも叱咤してくれて引っ張り上げてくれている。


「いつもありがとうジュリ」


「なにこっぱずかしいこと言ってるのよ。さっさと行くよ」


 ジュリは頬を少し赤くして、剛我を引っ張り上げ、手を繋ぎながら先導する。


 それはいつもの二人の関係だった。


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